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Create・World・Online  作者: 迅風雷
第4章 アイン防衛戦
145/193

04『ファーム救援』

「よし、これで準備OK! 行くぞ!」


 魚卵を桶ごとマイルームに置き早速東門へと向かう。南門同様こちらも緩やかな下り坂、おかげで遠目ではあるが戦闘の様子はわかる。どうやら東門の前の広場に大盾を持った騎士を配置し、ゴブリンの群れ、いや大群をくい止める事に成功しているみたいだ。あの様子ならまだなんとかなるんじゃないかな? おっ、よく見たら騎士達の後ろ、少し離れた所に鎧が少々豪華な騎士がいる。あれか指揮官かな? とりあえず合流だ。


「異人冒険者ジンです! 救援に来ました!」

「来たか! って一人だけか?」

「すいません、俺が居た街に異人は俺しか居なかったらしくて」

「そうか、まあいい。聞け! 俺の指示で一瞬騎士達に道を開けさせる。君と従魔はその間に騎士達の前に出ろ、後は分かるな?」

「もちろん」


 ゴブリンを倒しまくればいいんだろ? もちろん分かってるさ。


「では、む!? なんだ?」


 隊長が騎士達に指示を出す直前、何処かで巨大な音が響いた。近くはない、だけどそれほど遠くと言うわけでもなさそうだ。どこで何が起きた? そう思っていると騎士の一人が声をあげた。


「隊長! 北側に煙が上がっています!」


 北側の空を見れば確かに煙が上がっている、だけど北門にしては近くで音がなったような?


「あの方角、いかん! ファームの出口が崩されたか!?」

「え!?」


 ファームって【アイン牧場(ファーム)】の事だよな? 確かにあそこも【アイン】と同じ壁が続いていた筈、それが壊されたのか? いや、この騎士は今『出口』と言っていた。つまり、ファームの中に外に通じる門があるのか? そう思った時、騎士の隊長が俺の方を向き、


「君、すまないがファームの方へ行ってもらえるか? あちらは2個小隊と冒険者が対応している筈だが、抜けられたのなら直ぐに増援が必要だ。だが見ての通りこちらも余裕がない、今すぐ動けるのはここに来たばかりの君だけだ。頼めるか?」

「何処か1つでも突破されたらダメなんですよね? だったら行きますよ」

「助かる。では行ってくれ!」

「はい!」


 返事をしながらファームの方へ駆け出す。数分で記憶にあるアーチが見えてくる、それをくぐりファーム内に突入する。と同時に煙の正体を確認した、どうやら牧場の内に生えた草に火をつけて攻撃兼狼煙にしたようだ。ただ、


「既に何軒か壊されてる、煙を上げたのは門が壊されたからじゃなくて自分達の手が回らなくなったからの方が正しいか。うん?」


 壊れた建物から冒険者とも騎士とも違う女性が走ってくる、逃げ遅れた人か? いや、既に襲撃されて3日が経っているって話だしそれはない筈。だったらあの人はなんだ? とりあえず話を聞いてみるか。


「そこの人! どうしてここにいる!」

「わ、私はここの職員です。家畜達の世話の為に残っていました」

「動物達は避難できないのか?」

「もちろん動物達の避難所はあります。ここに残っているのは体が大きい子や気性が荒くて室内に置けない子達で、放っておく訳にもいかず」

「そうでしたか」

「それに戦う力が弱い従魔達も残っています。従魔は信頼を得ていても主人以外の言う事をあまり聞いてはくれませんし」


 そういや、俺が居なくなった後のネイ達は言う事を聞かなかったと言っていたな。なるほど、放っておく訳にはいかないか。あれ、待てよ?


「もしかして、あなた以外にも世話をする人が残ってたりします?」

「はい、街に近い厩舎にはまだ残ってる人が居るはずです」

「マジか」


 街に近い厩舎って言うけど、それなりにみんな距離が離れてる。これを全部防衛しろってか、これは大変だぞ。そういえば、


「あなたが居た厩舎で世話をしていた家畜達はどうしたんですか? 見た感じあなた一人しか居ないように見えますが?」

「ここに居ます。『開け【ワンタイムスペース】』!」


 職員の女性がそう言うと女性の後ろに木製だと思われる扉が現れゆっくりと開いていく。その最中、僅かに開いた隙間から小さな影が飛び出してくる。それもわらわらと。


【ナッツラット】

『木の中に住み着くネズミ、住み着いた木の果実を食べて育つ

 飼い慣らせれば森の木の実を容易く見つける事も可能』


【ツリースクウェレル】

『木の上で一生を過ごすと言われる程地面に降りる事がないリス

 良質な木に住み着く事から樵達からは森の健康状態をしる目安とされている』


【アラートモモンガ】

『森の見張り番の異名を持つモモンガ

 森の異常に真っ先に気付き仲間にそれを伝える為大声を上げる』


 これはまた小さく可愛らしい動物達を沢山連れて来てたな。しかし、これだけいると一瞬で見分けるのが難しい。一番小さくすばしっこいのがネズミかな、それで尻尾が大きいのがリスで、鼻先が短いのがモモンガ。ああ!? せわしなく動かれると見分けが出来ない。でも、


「この大きさなら避難出来るのではないですか?」

「この子達は地下や石造りの家だと外に出るための穴を開けてしまうので」


 あ~、避難先がそっちの条件に合ってしまってるのか。それで避難出来なかった、と。大変だな。そう思った直後近くで大きな破砕音が響く。


「ああ!? あそこにはケインさんが!?」


 ケイン? ケイン……あっ! 俺に馬車の操作を教えてくれた人だ。体は大きいけど少々気が小さかった記憶がある。この人が使った【ワンタイムスペース】も気になるが、今はあっちを助けないと。


「俺はケインさんを助けに行きます。あなたはその子達と共に避難を」

「はい! 頑張ってください!」


 女性職員が小動物を引き連れて街に走って行くのを確認しまたも全力で駆ける。【アイン】に戻ってから走ってばっかりな気がするな、なのに戦闘には中々ならない。もしかして今日ってずっとこんな感じじゃないだろうな?


 厩舎に到着すると既に中にはゴブリンが溢れていた、まずはこいつらを一掃だな。サークを台車から降ろすために台車の前側の柵を倒す、すると台車の底から板が飛び出しスロープに早変わり。この機能があるからこの台車を買ったんだよね。


「グレイス、シロツキは俺と一緒にゴブリンの一掃。ストレインは厩舎の周りのゴブリンを攻撃、厩舎に入れないように飛び回れ。エピタスは入口と穴に壁を頼む、それでも入ってくるようなら倒せ。遠慮も情けもいらない、行け!」


 グレイスとシロツキは指示を出すと共にゴブリンにそれぞれ牙と角を立てる。ストレインは小屋の外へ飛び出し、エピタスはノシノシと台車から降り厩舎の入口を魔法で塞ぐ。厩舎はそれなりの広さを持つ。が鞭を使うには少々狭い。だから俺もレッサーミスリルソードを装備してゴブリンの首目掛けて振るう。


 レッサーと言えど流石ミスリルと言ったところか、斬ったと言う感触はあるがたいした抵抗もなくスパッと斬れる。鞭の時は魔力を纏って一撃だった、MPを使わずに倒せるのは助かる。数が多いだけでそれほど驚異ではない事を確認すると周りを見渡す余裕が出来た。


 まず各仕切りの中には馬が横たわっている。幸い死んではいないが相当ボロボロだ、足が変な方向に曲がっているのもいるが動物も魔法で直せるのかな? いや、ポーションの類いは効く訳だしいけるだろう。とりあえず馬の周りにいるゴブリンは一掃、と。


「ウォン! ウォンウォン!」


 一番奥でゴブリンを蹴散らしていたグレイスが突然吠える、おそらくケインさんを見つけたのだろう。既にゴブリンの大半は排除した、少なくなったゴブリンを切り払いながらグレイスが吠える一角に向かう。そこには確かにケインさんが居た。ただしゴブリンが乗る瓦礫の下敷きな上、血まみれで。


「居たは居たけど、手遅れ感半端ねえ!? とにかくそこを退けぇ!」


 転送リングからとりだした魔力剣(マジックソード)でゴブリンを蹴散らしケインさんの元に駆け寄る。邪魔な瓦礫を退かし急いでLPポーションを取りだし傷口にかける。傷は──かさぶたが出来る程度にしか治らないのか。LPは回復している筈だが傷には効果があまりないようだ。こりゃ傷口用のポーションとか何処かに売ってたりするのかな? あっ、ハイポーションがそれか。


「ううっ」

「染みますか? でも我慢してください。シロツキ、回復魔法を頼む。グレイスは誰も俺達に近付けさせるな」


 厩舎内のゴブリンを掃討し側まで来ていたグレイスは穴から飛び出し召喚した眷族と分身と共にゴブリンを蹴散らす、シロツキはケインさんに魔法をかけるとケインさんが倒れている反対側を向いて同じ様に魔法をかけた。まさかケインさんの他にも誰かいたのか? そう思いシロツキの目線の先を見ると、ケインさん以上に血まみれの黒い馬が居た。


「お前、ガガか!?」


 呼び掛けるが返事はない、聞こえるのは小さく荒い呼吸だけ。まあ、馬って返事するのかって話だけど、それよりこっちもポーションだ。血の後から傷を探しポーションを振りかける、染みるのかガガが唸るがそんな事気にしている場合じゃない。


「しかしこの傷の数は一体? なんだってここまで」


 一通りポーションをガガの傷にかけたが傷の種類がケインさんと違う。ゴブリンが引っ掻いたと思われる傷はともかく、この横っ腹に均等に空いた3つの穴はなんだ? どんな武器を使えばこんな傷がつくんだ? さて、ここからどうする? このまま置いておく訳にもいかないし、


「が、ガガは、必死に群れの仲間を救おうと」

「ケインさん! 目が覚めましたか!? 大丈夫ですか?」

「は、はい。なんとか、ありがとうござい、ます」


 ケインさんはよろよろと立ち上がる、どう見ても大丈夫じゃない。仕方ない、1度街にケインさんを届けて馬達を運ぶ人手も用意して貰おう。


 ガラッ


 そう思った瞬間、背後で何かが崩れる音がした。振り返ると傷だらけのガガがそのボロボロの体で立ち上がっていた。ガガは俺達の事が目に入っていないのか、そのまま壊れた壁に歩きだした。

 いやいやいやいや、


「無理だろ!? そんな傷で何処に行こうとしてんだ!?」

「お、恐らくココの元に行こうしてるんだと、お、思います」


 ココ? そういえば小屋の中に白い毛色の馬は居なかったな。言われるまで全く気付かなかった。


「ケインさん、ココは今何処に?」

「さ、最初に襲ってきたゴブリンコマンダーに持って、い、いかれて」


 それじゃガガはコマンダーに挑みに? いや、既に挑んだんだ。そして──負けた。少なくとも今のガガじゃ勝てない。だけど、ガガはまだ諦めていないのか。だが、今の俺達も一緒ならどうだ? 村の跡地で戦った時は逃げるしか出来なかった。でも、俺達はあの時より強くなった。挑んで俺達がどこまでやれるようになったか確かめるのは良い相手か。よし、


「グレイス、お前はガガの前に立ち塞がるゴブリン共を蹴散らせ。そしてココへの道をつけてやってくれ。シロツキ、ガガの護衛と治療を頼む。ガガを死なせないようにな。ストレインは俺の補助。ケインさんには俺が持っているポーションをいくつか分けておきますので、動ける様になったら他の馬達と共に街へ向かってください。エピタスおいで!」


 グレイスは小屋の外へ駆け出して行きストレインは俺の肩に止まる。シロツキは足を引きずりながら歩くガガの側に付き、俺は近寄って来たエピタスを抱え上げる。台車で運ぶよりこっちの方が早い。


「じ、ジンさん。私も──」

「ガガとココは必ず俺達がケインさんの元へ連れ帰ります、だから2頭の無事を祈りながら待っててください」

「で、ですが」

「ケインさん、ハッキリ言いましょう。傷だらけの今のあなたがついて来た所で足手まといです。それでもついて来ると言うなら何か秘策のようなものが必要です。ケインさんにはそれがありますか?」

「う、う」


 ケインさんは右手を擦りながら呻くだけだった。辛いかもしれないがノルンであるケインさんは死んだらそこまで。とてもじゃないが護衛と救出、更に防衛までしなければならないのだ。怪我人を連れて動き回るのは難しい、ここは諦めてもらおう。


「よし、みんな行くぞ!」


 俺は壊れた小屋の壁から飛び出しゴブリンの大群へと向かう。今度は逃げずに戦ってやるぞ【ゴブリンコマンダー】!

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