03『アイン到着』
セツナに【念話】で【アイン】の救援に行く事を伝えたんだが、返事は『いそぎます』と言う一言だった。俺はセツナ達が何処に行ったかも知らされていないんだが、急いで間に合うんだろうか? 王都の近くにいるのかな?
ディーデルさんの後に続いてギルドの地下に入る。たどり着いた場所は【アイン】から出るとき使った転移陣と同じと思われる魔法陣が描かれた部屋。と言うか同じ物なのかな?
「魔法陣の中央へ、発動はこちらでやるから少し待っていろ」
「分かりました」
俺は従魔達を連れ魔法陣の中央へ移動、直後足元の魔法陣が輝く。俺が振り向いた所でディーデルさんは俺に言う。
「いいか? ここに届いた情報は最新の物では無いはずだ。緊急連絡でも数時間の誤差が出るからな。俺個人まだ大丈夫だとは思っているが、最悪状況が悪い方に片寄っている可能性もある。転移したらあっちで待機している職員の指示に従え。それが一番確実だ。絶対勝手に動くなよ」
「分かりました」
「それじゃ【アイン】を頼んだぜ。俺にとってもあそこは始まりの街なんでな」
「はい!」
俺が返事をした瞬間、視界が白く染まる。そして視界が戻ると同じような薄暗い部屋の中に居た。ディーデルさんが居ないから【サナン】では無い筈だ。ふむ、
「前にも来たことがある気がするな。転移部屋だっけか? ならギルド内部に来たのか? ……部屋から出れば分かるか」
部屋に1つしかない扉を開ける。そこには、
「お待ちしていました」
忍び装束を来た女性が1人立っていた。シノブさんでは無い、が見覚えがある。え~と? 眼鏡をかけて無いし髪も後ろで編んで短くなっているがこの人は多分、
「レイン、さん、ですよね?」
「はい、お見苦しい姿を見せて申し訳ありません」
「いえいえ、そんな事は無いですよ」
むしろ色々見えて男としてはどちらかと言えば嬉しい限りです。その制服の時には隠れてた谷間とか短い丈から伸びた太股とか。口に出すとセクハラになるかもなので決して口にはしませんが。
「今回はギルド職員兼一時的に冒険者として復帰して今回の騒動に対応しています」
「それじゃレインさんも忍者?」
「一応【上忍】のジョブに就いています」
【上忍】って事は俺より強いって事ですか? あれ、これ余計なこと口にしたら消される可能性もあったり? よし! 今日は無駄な事は喋らない。これで行こう。
「それじゃ討伐の方へ参加するんですか?」
「いえ、私は【アイン】で戦う騎士と冒険者の連絡役です。私は他方へ顔が利きますので」
「そうなんですか」
顔が利くって事は結構有名人だったりするのかな? 見た目若く見えるけど結構年上だったりす──
「余計な詮索は命を縮めますよ?」
「す、すいません!!」
掠めた! クナイが顔掠めて通り過ぎて行った! 後ろを見たらクナイが四割程壁に突き刺さっている。やっべぇって! 今殺ろうと思ったら俺殺られてたって! この人絶対【読心術】系のスキル持ってるよ!
実はイベントが終わった後シスタージーナスに【読心術】の使い方を教えて貰ったのだが、このスキルは聞きたいキーワードを設定する事で初めて効果を発揮するスキルという事が分かった。例えば『魔物』と言うキーワードで発動すると『魔物』と言う単語を含んだ前後の文章が聞き取れるのだ。ちなみにこれを『モンスター』『エネミー』に変えるとプレイヤー限定に変わる。ノルンは魔物呼びで統一されているみたいだからね。
レインさんが設定しているキーワードは多分『年齢』。スキルレベルが上がると同時に設定出来るキーワードの数が増えるそうだから、結構バリエーション豊かに設定していると思われる。
おっと、これ以上は止めよう。レインさんがクナイを持って笑顔でこちらを見ている。止めます! これ以上考えません。
「考え事は終わりましたね? それでは現状を話ながら歩きます、ついてきて下さい。それと相手が心を読めると分かった時点で思考を止めるようにしなさい、自らの首を絞める事になりますよ」
「はい! 気をつけます!」
「よろしい、既に大まかに聞き及んでいると思われますが改めて現状を説明します。現在【アイン】は籠城戦を行っています。東西南北全ての門前で【アイン】常駐の騎士と冒険者で抵抗しています。が、つい2時間程前に南門が、30分程前に東門が破られました」
「えっ!? 被害は!?」
「建築物の損壊は発生しましたが、幸い民間人への人的被害はありません」
「民間人の、ですか」
「ええ民間人の、ですよ」
つまり、冒険者達の被害はある、と言う事か。思っていたより大変な事になっているみたいだな。
「しかし、いつ人的被害が出るか分からない状況になった以上、我々には余裕がありません。今も南と東ではゴブリンが大量に侵入してきていますし北と西もいつ破られるか分かりませんから」
「門が破られたと言う事は高rank冒険者は門の防衛をしていなかったんですか?」
「彼等は今日の未明に南の森に向かいました。異人の冒険者方も相当数が揃って大丈夫だと踏んだのですか、どうやら力は十分でも技術が伴わない方が多かったらしくその穴を抜けられてしまったようです」
「え~と、すいません」
「お気になさらず、あなた方が居なくてもいずれはこうなっていました。誤差ですよ、誤差。むしろ持った方でしょう。さて、ゴブリンの大半は有象無象と言っていいですが、進化した個体も確認されています。その中で最も強い個体でコマンダー、交戦経験は?」
「森でラプター達を逃がす時に1度見ました。交戦したかと言われたら疑問符がつきますけど」
「なるほど、戦いを見た事がある程度の認識と言う事ですか。それだけでも現状では十分です。何も知らないよりはずっと」
「そうなんですか?」
「ええ、これで貴方を何処に向かわせるかの判断が出来ますから。そろそろですね」
レインさんに話を聞きながら蝋燭の火に照らされた通路と階段を進んでいるとレインさんが呟いた。すると間もなく重厚な扉が姿を見せた。なるほど、ここの転移陣も緊急用と言う事か。
「ここを出たら立ち止まらずに直進してください。良いですね?」
「分かりました」
「直進すると受付に着きますのでこちらを職員の誰かに提示してください」
そう言ってレインが手渡して来たのは1枚のプレートだった。大きさは手帳より大きい位、何か書いてあるようだが読み取る事が出来ない。なんだこれ?
「これは?」
「私なりの貴方への評価です。これを元に配置される場所が決まると考えてください」
「通信簿的な物かな? これを受付に渡せばいいんですね、分かりました」
「それと最後に2つ、今の【アイン】で【読心術】を使うならキーワードは『来た』と『助けて』を両方を、無理なら『助けて』を優先して使ってください。現状の変化を知るにはこれが一番速いです。それと、受付に着くまで絶対に立ち止まらないで下さい。良いですね?」
「? 分かりました。立ち止まらないようにします」
「では、私は次の方を迎えますので戻ります。御武運を」
そう言ってレインさんは来た道を戻っていった。しかし、立ち止まらず進めって、一体この先に何があるんだろうか? ……行ってみれば分かるか。そう思い扉を開けると、
「ハイポーション足んないわよ! 補充まだ!?」
「包帯なくなりました! 補充お願いします!」
「骨折はハイポーションじゃダメよ! 誰かグランドポーション持ってきて!」
「ちょっとポーション瓶はその辺に置かないで! カートに乗せとけば【調合師】達が勝手に持っていくからそっちに置いて!」
「現場に出れる人!? そんなのいるわけないじゃない! この現状見てから言いなさいよ!」
「重傷者を教会に移動させます! 該当者をこちらに運んでください!」
扉の向こうは既に戦場だった。廊下の両側の部屋を【修道女】と思われる人達が叫びながら忙しなく行き交っている。ベッド代わりに置かれた机の上には体中包帯を巻かれた冒険者の男性が横たわっている。廊下の壁にもたれている人も横になっている人よりはマシだが結構な傷だ。
まるで、歴史の授業で見たドキュメンタリー映画みたいだ。ギルドが野戦病院になっているのか? そう思いながら歩いていると、
「邪魔よ! 進むならさっさと行って!」
「はい! すみません!」
突然後ろから怒鳴り声が聞こえてつい反射的に返事をしてスピードを上げる。
「きゃ!? ちょっと急に飛び出さないでよ! 危ないでしょ!?」
「すいませ──」
「立ち止まらないで! 急いでるんだから!」
「すいま──」
「謝ってる暇あるならさっさと行って! こっちは忙しいのよ!」
「す、すいませんでしたーー!!」
ワンアクションする毎に前後左右から怒号が飛び交い謝ってる余裕すらない、俺は彼女達の言葉を全部無視して謝りながら駆け出した。もうホントどうすればいいんだろうね? と言うか、俺がまだこの状況について行けてない。何処かでまだ『ゲームだから』って思ってるからだろうな。目の前の現状を現実として受け入れられていないんだ。1度気を引き締めないと、ふう……良し!
気合を入れ直し受付に向かう、臨時の受付が増設されていて前に来た時のような行列はなかった。早速最寄りの受付に声をかける。
「異人冒険者ジンです。ここで良いですよね?」
「はい! 問題ありません。救援要請に対応ありがとうございます」
対応したのは男性のギルド職員だ。レインさんと違い制服を着ているがその上に軽装の防具を着けている。職員はみんなある程度の強さを持っているって事か、さぞ最初の俺達の姿が滑稽に見えていたんだろうなぁ。おっと、今はそんな事どうでもいいな。まずはレインさんから渡されたこれを見せないと、
「これをレインさんから渡すように言われたんですが」
「拝見します。……確認しました。このスカーフを右腕の何処でも良いので巻いてください」
そう言って職員が渡してきたのは薄い緑色のスカーフだ。言われた通り右腕に巻く、何処でも良いなら二の腕位で良いか。
「これで良いですか?」
「はい問題ありません、それでは簡単に説明します。今あなたが巻いたスカーフはそれぞれ防衛する門に対応しています。北は黒、南は赤、西は白、そして緑は東の門が担当です。つまりこのスカーフをした者が他の担当地域に増えればそれだけ押されていると言う目安になります」
「なるほど。だったら俺はこのスカーフと同じ色の人達に合流して戦えば良いんですね」
「その通りです。各門には防衛指揮をしている騎士がいますのでそちらの指示にしてください。それと門が壊された時に街の中を対象に発動していた【行動制限】の効果が破損していますので、魔法、スキル、アーツ問わずに街中での使用が可能になっています。もちろん従魔も同様です」
「なるほど、普段通りに戦えると言うことですね。分かりました」
「あっ、それと何処から来たのか聞かせてもらって良いですか? これは異人の冒険者さん全員に聞いているんですが」
「【サナン】ですけど、それって今必要なんですか?」
「なにぶんギルドマスターからの指示ですので、我々も理由を知らされていないんです」
「え~と? もう行っても大丈夫ですか?」
「はい、構いません。御武運を」
なんだか最後だけよく分からなかったけど、今はそれどころじゃ無いしさっさと……しまった!? 桶を下げたままじゃ戦えないじゃないか! まずはマイルームに置いてこよう、急げ急げ!