43『怒』
久しぶりの三人称、どうにも慣れませんが頑張りました。
ジンは生涯で片手で数える位しかなかった叫び声を上げた後、インベントリからクラブシザーハンマーと赤、青、緑、茶色の剣を取り出す、エレメンタルシールドのソードバージョン『エレメンタルソード』だ。更に装備していたレッサーミスリルソードを手放し、エレメンタルソード共々背後に浮かし突撃した。
「落ち着けジン!」
「ジンさん!」
テツとユキムラはジンを止めようと声をかけるが、ジンは振り返る事なく真っ直ぐヤギとコウモリの群れを殲滅しながら走り抜ける。一体何をしようと言うのか? その答えはジンの視線の先にあった。それは今も周囲に群がるヤギ達を爪の一振りで倒しているヒュージケイブモール。
ジンはヤギに代わる足場としてヒュージケイブモールを選んだのである。
当然ヒュージケイブモールも黙って足場にされる理由はない。猛烈な勢いで迫ってくるジンにヒュージケイブモールはヤギ達もろともジンを倒そうと長い爪を横に振るう。それをジンは軽く跳び越えヒュージケイブモールの頭に着地、間もなく真上に跳び上がった。
そして最初と同じように空中に着地、先程より若干高くはなっているがヒュージケイブモールの真上に着地したためデビルキッドへの距離は遠い。しかもアビリティの発動時間は残り数秒、ジンは少しでも距離を詰めるために空中を走り出した。
「あのアホ、あれじゃまた失敗するぞ」
「ゲンジロウ、注意を向けるだけでいいからデビルキッドへ攻撃を!」
ゲンジロウはコウモリへの攻撃を中断し真っ直ぐデビルキッドへ飛んでいく、しかし、道を塞ぐ様にコウモリが群がる。ゲンジロウは迂回しながら横から来るコウモリを赤く光る翼『ヒートウイング』で切り裂いていく。だが、その間にジンはデビルキッドへ跳び上がってしまった。
「ゲンジロウ! 急いで!」
「クソッ! なんで俺は飛び道具を用意しなかった!? ええい! 邪魔だ雑魚共! 弾代わりにならないなら引っ込んでろ!!」
テツは周りに群がってくるヤギとコウモリを大槌を振り回し叩き潰していく。その間にジンは次の行動に移っていた、先程と同じようにクラブシザーハンマーを構えたのだ。しかし、今回はそれだけではない。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まるで言葉を失ったかの様に叫び声だけを上げるジン、それに呼応するようにデビルキッドに向かって宙を駆ける5本の剣、だが、
「ベェェ!」
5本の剣はデビルキッドの槍の一振りで弾かれ4本が砕かれ消える。けれども最後に残った1本、レッサーミスリルソードは再度の突撃を行う。それは一直線に槍に向かい槍を一時的に拘束し落ちていった。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこに叫びと共に襲いかかるハサミを開いたクラブシザーハンマー、ハサミは槍ごとデビルキッドの両腕を挟み込み動きを封じた。更にジンはクラブシザーハンマーから魔力を完全に抜きデビルキッドを引き寄せようとする。
が、小柄と言えどデビルキッドはrank:C、本来パーティでの戦闘を想定されている魔物。ジンの重量とステータスでは引き寄せる事などできはしない。結果、ジンの方がデビルキッドに引き寄せられる事となった。
だが、今のジンにはどちらが引き摺られるかは関係ない、捕まえれば、近寄れればそれでいい。ジンはクラブシザーハンマーが止まると鞭を振るいデビルキッドの首を縛り力一杯引っ張った。
「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「グベ!?」
腕をハサミで封じられ、首を鞭で縛られ苦しそうな声を上げるデビルキッド。しかし、デビルキッドもされるがままで終われない。rank:Cのステータスで無理やりハサミを抉じ開け鞭を奪おうと手を伸ばすもジンはそれを許さない。
魔力を流し即座に魔力の刃を展開、然しものデビルキッドも予想していない攻撃に怯みハサミはまた腕を挟み込む。しかし、今の動きを見てかジンは新たな動きを見せる。
鞭の持ち手を口で噛んでクラブシザーハンマーを手放し鞭を伝ってデビルキッドの背後に移動、更に両手で羽の根元を掴み背中に足を置いて気力を使って羽を引っ張る。ジンは羽を引き千切ろうとしていた。もちろんデビルキッドもただされるがままではない。
クラブシザーハンマーから手を離した時点で再度ハサミを押し広げようと両腕を広げ、ジンを振り落とそうと体を回転させ始める。
ジンは襲い来る回転と遠心力にも負けずに羽を引っ張るも両足が勢いに負け背中から外れてしまう、それでもジンは諦めずに魔力で鞭を引きデビルキッドの首を締める。それを遠目に戦闘を続けるユキムラとテツは、
「……滅茶苦茶ですね、ゲンジロウもあれじゃ手の出しようがないです」
「あの状態の奴に攻撃出来んのは相当な自信家か仲間に攻撃する事を厭わないクズだけだ、気にするな、むしろ躊躇できるあの燕を誉めてやれ」
「でも、あのままじゃ──」
「あんな所にいられたんじゃ俺達にも何も出来ねえよ、そんな事よりアイツの連れのカニと石はどうした!? さっきから動かないぞ、どういうこった!?」
ジンの従魔サークはジンが最初の叫びを上げた時から動きを止めていた、さすがに自分が攻撃されると認識した時は避けているようだがそれ以外はじっとしていた。
ネイはジンが叫びを上げた場所の上空で静止している、コウモリに攻撃された時は空間を繋げて回避はしているがサーク同様攻撃を行う素振りは見えない。
「ジンさんからの指示がないから……じゃないですよね、叫ぶまでは普通に攻撃していたわけですから」
「あっちの石はいつのまにかあそこに浮いていたがな、さて、どうするか?」
とりあえず周囲に溢れるヤギとコウモリを倒すしかないテツとユキムラは、自分達と同じくヤギとコウモリに攻撃を仕掛けるヒュージケイブモールを見ながら打開策を検討しだす。そしてデビルキッドにしがみつくジンも動き出す。
怒りで我を失い思い付きで行動していたジンは、ここに来て少しづつ思考力を取り戻して来ていた。今は振り落とされないように必死に羽を掴みながらデビルキッドを観察していた。
(くっ、コイツの魔力量は相当だ、流れから見て羽と指輪に集中しているからヤギとコウモリは指輪で召喚されていて魔力で空を飛んでいる筈、落とすにはやっぱり羽をどうにかするしかない、力では無理、なら!)
ジンは安定しない視界の中、落ちたレッサーミスリルソードを魔力で拾い上げ自分に向けて突撃させる。更に狙いをつけやすくするためにデビルキッドの背中に両足をつけ全身を伸ばす、もちろん気力を全身に纏わせて。
「ベェ!?」
「負けるかあ!!」
ジンは規則的にはばたく羽の根元から羽先に少しづつ掴む場所をずらしていき、羽が完全に開いた状態まで伸ばした。そこにレッサーミスリルソードが突撃、骨のある骨格部分ならともかく薄い膜部分の防御力は高くはない。ジンはそう考えた。
そしてその考えは正しく、レッサーミスリルソードの刃は確かにデビルキッドの両羽の膜を貫いた。
「まだだぁ!!」
ジンは貫いた部分からレッサーミスリルソードを動かし穴を広げていく、しかし、このタイミングでデビルキッドはクラブシザーハンマーの拘束を外し槍を自らの背中に向けて突き出した。その攻撃はジンの鎧を貫通し右脇腹を抉った。
「がっ!? ま、まだだ、まだ終われない!!」
異人であるジンの体はここイベントエリアに置いて出血はしない、代わりに赤い光が傷口から零れていく。更に痛覚の遮断を設定していないジンは痛みを受けるがそれもこのエリアでは10分の1以下に変えられている。つまり、現実では悶え苦しむ痛みを耐える事が可能と言うこと。
その結果、鈍く続く痛み中レッサーミスリルソードはデビルキッドの羽の膜の7割近くを切り裂く事に成功し、デビルキッドはその飛行能力を奪われジンと共にビル10階に相当する高さから落下し固い石畳の床に叩きつけられる事になった。
そしてジンは落下を始めたタイミングで羽を手放し、デビルキッドの背中を蹴る事でデビルキッドから離れ、更に槍を体から抜く事に成功。そこにトータスカラパフットのアビリティ【重量変化】と【結界】を発動、軽いダメージを負うだけで着地に成功していた。
「俺は子亀を守れなかったのに、お前は俺を守ってくれるんだな」
ジンはトータスカラパフットを見下ろしながら呟いた。そこに、
「ベェェェェェェェェ!!」
大きな叫び声を上げ立ち上がったデビルキッド、落としただけで満足するな、とジンにはそう言っている様に感じた。
「そうだよな、まだ終わってないよな、俺もお前を確実に倒さないと子亀に顔向け出来ないんでな、さあ、第二ラウンドの始まりだ」
ジンはレッサーミスリルソードを構えデビルキッドに向き合う、デビルキッドも槍を構えジンに向き合う。空中戦は終わり地上戦が始まろうとしていた。
ジンを三人称で書くのは初めてでしたけど上手く書けたでしょうか?
ちなみに三人称にした理由は、怒りで我を失った人を本人視点で書くって無理じゃね? と思ったからです。そもそもきちんと思考できるんですかね、あの状態。
次回は一人称に戻ります、それでは




