26『一夜明けて』
ネイが驚かせた事を謝り終え子亀達と合流、したんだが、……どうしてこうなった?
『サンドクラブがテイム可能です。テイムしますか?』
yes/no 』
何故だ? 特に何かした記憶はないぞ。いや、正確には助けたり運んだりはしたけど、その時は何もなかったじゃないか。一体何がトリガーになった? まぁ、折角だからyesで。名前は……サークでいこう。
【サーク】
種族【サンドクラブ】 状態:通常
Lv9
LP :280
MP :180
SP :230
攻撃:30 魔攻:22
防御:40 魔防:20
持久:40 精神:35
器用:60 素早さ:50
運:4
土:5 水:5 火:-5
風:-5 光:2 闇:3
スキル
【横歩きLv☆】【蟹鋏Lv10】【穴堀Lv11】
【横歩き】
『横に歩く時のスピード5%up
前後に歩くスピード50%down』
【蟹鋏】
『蟹鋏の使用時の攻撃、器用up』
効果がハッキリと書かれているとは珍しい。これも今後のアップデートの仕様の1つか? それにしても【横歩き】のデメリットがデカイ、こんなのもあるのな。
【蟹鋏】は、まぁ、こんなもんだろう。よくわかってないけど。
さて、改めて仲間になった蟹、もとい、サークはネイと一緒に潰れたかまくらの修復中。コネクトスペースで海の中に繋いだと思われるゲートから海水を砂に流し、固くなった砂をサークがハサミで形を整える。サークは鳴いたりしないけど、意志疎通は出来ているようだ。
子亀はかまくら作りに興味はないようで、波に揺られてのんびりしている。よく見ればあの太い足が平べったいヒレ状に変わっている、甲羅も若干低くなっているようだ、あれが水中用の姿か。
「みんな、そろそろテントに行こうか、厄介そうなアイコンが見えるしな」
先程からLPバーの上に新しいアイコンが現れている、Zが3つ並んだ青い模様の物だ。これは睡眠系の異常を示す物だと思われるが、俺は全く眠くない。だが、従魔達は別だろう、なんせ彼らはCWOで生きているのだから。と言うことで、しっかり休んでもらおう。ネイは必要ないかもだけど。
テントに戻るとサークが早速ネイと一緒に簡単なかまくらを作り中に入っていった。小亀はかまくらの側で甲羅を下ろし、ネイはテントの屋根の下をふわふわ漂っている。あれがネイなりの休むと言うことなのだろう。
さて、従魔達が休む以上俺も休んだ方がいいと思うが、ゲーム内で睡眠をとるって意味あるのか? と言う疑問が湧き眠くないなら寝なくてもいいだろう、と言う結論に達した。では何をするのか簡単だ。
なんとなく使える程度になっているシザークラブハンマー、これを完璧に使えるようにするには【魔力制御】を使いこなせる様にならないといけない。かといってハンマーを振り回す訳にもいかない、間違って誤射したら困るしな。
なので【魔具生成】で練習しようと思う。きっとこれにも応用できる筈、それを見つけ出すのだ、さあ、やるぞ!
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「ね、眠い」
一夜明け、新たにパーティを組み直し入江を出発した俺達は現在遺跡に向けて進行中、ユキムラ君が拾った巨大なひし形の結晶が掲示板に書かれた足りないパーツの形状に似ている、らしい。西の森まで大回りになるが素材集めにもなる、と言うことで遺跡まで確認にいく事になった。
「眠そうですね、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ、あと5時間位でイベントも一旦中断だし、それまでは頑張るさ」
まさかゲーム内で徹夜するだけで状態異常扱いされるとは、変な所でリアルなのはアップデートでも変わらずか。まあいい、分かった事もいくつかある。例えば青い睡眠のアイコンが起き続けると赤くなっていくとか、な。魔力剣の新作も出来た。結果は上々である。この異常な眠さ以外は。
「みんなは大丈夫なのか?」
「僕はちゃんと睡眠をとりましたから」
「私は~、話が終わってすぐテントに入ってぐっすりで~す」
「私はアイコンの色が変わりだした辺りで不味い気がして寝たわ、まあ、ビウムの愚痴に付き合うのに疲れたってのもあるけどね」
ビウムさんは最初の海岸でリスポーンしてマップを見ながら暗い森の中を突き進んで来たそうだ。静かだった入江が一時騒がしくなったが、ネリネさん達のいるテントに入ったらまた静かに戻っていた。そうか、あのテントは音漏れしないんだな、そしてビウムさんの相手、ご苦労様です。
さて、俺がなった【睡眠不足】に効果はこんな感じになっている。
【睡眠不足】
『【睡眠催促】(小)状態を6時間継続で発生
効果:全ステータス10%低下
【睡眠催促】(中)』
【睡眠催促】
『眠気を与える、小中大の順で効果が増大する』
プレイヤーを寝かせようとする運営の意図が丸見えな状態異常、プレイヤーを寝かせる事に何か意味があるのだろうか? あれかな? 今後出会う事になる魔物に睡眠を与える攻撃の検証、とか? まあ、本当の所は運営にしか分からないけど。
眠気に抗いながら進むこと1時間程、遺跡中央の人型のくぼみに到着した。
「おはよう、よく来てくれた」
待っていたゴーウィンが俺達に挨拶をしながらこちらにやって来た。ユキムラ君が掲示板で行くことを伝えておいたのだ。
人型のくぼみには既に1体の機械の騎士ロボがはまっていた。白を基調として赤いラインの模様がある全身の鎧、ロボットと言うより騎士っぽいな。でも顔はスーパーロボットのような顔がついている。いつも思うけどロボットに口とか鼻ってなんの意味があるんだろうね。
その前には大量の白い三角のテントが大量に並んでいる。まあ、ここまで組み立てたら完成まで見届けたいよな、完成したら動くのか? はたまたただの置物? もしかしたら何かのスイッチかも、考えると夢が広がるね。
「おはようございます、ゴーウィンさん」
「うん、新顔もいるみたいだけど、とりあえず例の物を見せてくれ」
「はい、これなんですけど」
ユキムラ君がインベントリから取り出したひし形の結晶、それをみたゴーウィンは、
「おお、大きさ、形、確かにコア部分に合いそうだ、早速取り付け作業に入ってもいいかい?」
「どうぞ、僕が持っていても仕方ない物ですから」
「ありがとう! おーい、みんなー! 作業を再開するぞ! 配置についてくれ!」
ゴーウィンの呼び掛けで続々とテントから人が出てくる。1部の人達は立て掛けられた梯子を登り騎士ロボの上へ、よく見れば滑車のような物が取り付けられている、なるほど、あれで重いパーツを持ち上げたんだな。
大半の人達はくぼみの建物の裏側へ、滑車と言うことは縄を引くのが彼らの仕事か。
「ユキムラ君、さっきみたいにこれを収納は出来るか?」
「問題ないですよ、もともとインベントリに入った物ですし」
「そうか、これインベントリに入ったのか、なら、他のパーツも? 知っていればあんなに一生懸命運ばなくてもよかったのに、と、とにかく、出来るならあれの足元まで運んでくれ」
「分かりました、お任せ下さい」
ゴーウィンはユキムラ君を連れて騎士ロボまで歩いていった。しかし、ゴーウィンの言葉、そうか、知らなかったからあんな重労働を。アイテムボックスと転送ポーチを最初から持っていたら自力で運ぼうなんて考えない筈、なら、彼もチュートリアルスキップ組か。これも習慣の違いと言っていいのかな?
騎士ロボの足元に置かれた結晶はあっという間に滑車から伸びた縄と頑丈そうな木で固定されゆっくりと持ち上げられた。その間に上に登った人の一部が騎士ロボの胸部を開いて待機している、開いた胸部にはひし形のくぼみがある。なるほど、確かに心臓部、コアと呼びたくなるのも理解できる。
結晶が胸にはまると胸部の装甲が自動で閉まった。ゴーウィンはそれを見て叫んだ。
「全員ロボから離れろ! 何か起こるぞ!」
号令に合わせてみんなが騎士ロボから離れていく、訳もなく、みんな揃いも揃って騎士ロボの正面に移動してきた。まぁ、リアルじゃこんなの無いし、それに動くなら俺だって見たいしな。
結局全員が騎士ロボの正面で待機していた、ゴーウィンもユキムラ君も側まで戻ってきている。
騎士ロボは微動だにしない、ただ、鎧の赤いラインが流動的に輝くのみ。しかし、目が黄色に光った時、ついに動きだし、1歩前に踏み出したのだった。