誰も知らない道
「将来を考えて---」
学年集会で、学年主任がそんなことを言う。
周りはみんな真剣で、話を聞いていないのは私だけだろう。
「将来はもうすぐ目の前まで来ていて--」
(知るかよ。)
体育座りをして足の間に顔を埋める。
私は今、高校3年生をしている。
夏に入った今が、踏ん張り時らしい。
中学の時は、進路選択とは言っても中卒で就職なんて無謀なことは考えない。私はみんなと同じように自分なら行けるような高校を選んで受験した。
(すぐに、やりたいことなんか見つかると思ったのに)
目の前にあるスカートの柄を見つめながらそんなことを考えた。
なんとなくで、ここまで進んだ。
誰かと同じように。
だけど、今私には一緒にいる「誰か」すらいない。
就職をするにしても、進学するにしてもやりたいことが無いのだ。
好きな物はいくらでもある。だけど、どれも本気になれない。
そうやって、現状にとどまっている間にも皆それぞれの道を見つけている。
私だけが取り残されていた。
「聖橋さん、どうするんですか?」
「・・・・・・親と、話してみます」
二者面談で幾度となく聞かれた言葉。
(どうするんだろうな)
どこか他人事の様な感じがする。
自分の事の筈。だけど、全く実感できない。
それこそ、真っ暗闇の中、一人ぼっちでいるような気分だった。
じりじりと照りつけるような日差しは眩しい。
太陽は、夢を見つけた人のように輝いていた。
(・・・・・・はぁ、今日もわからない。)
進路調査と書かれた紙切れは真っ白でシワ一つない。
どんなに探したって、先が見えない道では、意味が無い。
すれ違う人もいない道の中、私は何を目標にすればいいのだろうか。
「なんつー顔してんだよ」
「うげっ、川上・・・」
「うげっていうな!」
声がして、顔を上げた先にはクラスメイトの川上が立っていた。
「くそたらしが。どっか行け!」
「扱いひどいな」
私が、川上に噛み付くように叫ぶ。
すると川上は苦笑いをしながらも、私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「ちょ、なんだよ!」
「お前、なんか悩み事でもあるんだろ」
「!? っ、、は、はあ?」
「ほら、図星」
前髪を撫で回され、髪の毛で前が見えなくなる。だから、今、川上がどんな顔をしているか知らない。
けど、川上の事だ。
きっと、私を見ないように顔を背けているんだろう。
私の為に。
「ねえ、川上はさ、将来のこと、決めた?」
「はあ? なんで急に?」
「なんでも! いいから答えろ!」
今だに頭に乗っかったままの腕をつかんで、問う。
すると、川上はしばらく「うーん」と唸って、口を開いた。
「決まって・・・・・・ないかな」
「え?」
意外だった。
だって、私以外の皆は夢があるんだって、決めつけていたから。
「俺には、正しいかどうかは分からないけど、俺なりの考えがあるんだよ」
「・・・・・・うん」
「夢なんて、見つけれなくたっていいと思うんだ」
「はぁあ?!」
私の声に、川上は「黙って聞け」という。
「だってさ、見つけらんないもんは、いくら探したって見つからないだろ? 例えば、真っ暗な中で探し物をして見つけられるか?」
「無理・・・」
「だろ? 夢は、いつか見つかるもんなんだよ。ただ見つけるのが遅かったりすることはあるけどな」
そう言って、彼は笑う。
今、彼はどんな顔をしているんだろう。
見えない。だけど、清々しい笑顔なんだろうな。
「・・・・・・じゃあ、見えない道はどうやって進めばいいの?」
「そんなの、簡単じゃん」
「・・・・・・?」
「歌を歌うんだよ」
「歌?」
「そう。好きな歌」
「なんで・・・」
「好きなものを、道に咲かせていくんだよ。自分が通った証にさ」
どくんと旨が波打った。
何故か、泣きそうになった。
「分かったか?」
くしゃくしゃっとまた髪の毛を乱暴に撫でて川上は私から遠ざかる。
その後ろ姿に、私は1人、呟いた。
「ありがとう」
夢なんてまだ分からなくて、将来は真っ暗で。
今自分が前に進めているかどうかさえあやふやな世界。
その世界を彩るのは、やっぱり自分の好きな事。
今は、わからなくてもいい。いつか、見つかるから。
なんとなくで進む道で、後悔することは無いだろう。
だって、私は私を信じているから。
たとえ、他人から見たら後ろの道だって、私から見たら前だ。
だから、自分の信じた道を行こう。そう、決められた日だった。
ボク、本当は商業系の高校に行きたかったんですが、盛大に滑って、滑り止めの私立高校に通っています。ずっと、「就職したい」って思っていたのですがその学校に行ったことによって考え方とかが変わって夢を見つけられたんです。
だから、今の高校に入って後悔や悔しい思いはありません。良かったなっと思ってます。
きっと、どんな選択をしても「良かった」と思えるんじゃないかなと考えました。