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不思議な国の…俺?  作者: 田中AG
5/12

第5話

俺はあの湖に舞い戻っていた。

そうワニとインコがいたあの湖だ。

何故こんなことになってしまったんだ。

人間の町へ行きたかったのに真逆な場所でワニ退治とか。

勘弁してくれ!


宴会が終った次の日。

俺はグリズの家で一夜を明かした。

…もちろんグリズは別の熊の家に泊まったぜ?

けしてアァーな展開じゃないからな。

まあトムとは一緒に寝たけど。

ちなみに宴会での食べ物は主に木の実とか魚だった。

熊だからシャケだと思ったが、いろんな種類の魚の料理があった。

料理といってもただ焼くだけのとてもシンプルなものだけどな。

そもそも他の動物は焼く必要がない。

俺のために焼いてくれた。

とてもありがたい。

とてもうれしかった。

が、だがしかしワニとリスの退治はとても気が進まない。

…そして翌日出発。

思い立ったが吉日なんてレベルじゃないよ。

なんの準備もなく今日行きましょう!で俺が口を挟む間も無く決定した。

一体どうすればいいのやら。

同行者はトムと真っ裸のグリズに番犬をしていたハスキー(俺が勝手に心で呼んでるだけ)の3人、いや3匹だ。

そして昨日と同じ道を逆に歩き、昼過ぎに到着した。

ちらりと横目でインコの巣の場所を見ると、インコが集団で固まっているのが見えた。

悪いな、いなくなるって約束したのに。

とりあえずインコの巣には近づかないように湖の方に歩いた。

ワニ相手にどうするか。

実は俺には秘策があった。

移動中にどうするかをずっと考えて思いついた。

その秘策とはずばり!

話し合いだ。

だってあのでっかいワニだぜ?

どう考えても勝てるビジョンが俺には見えない。

倒すどころかひと咬みで俺終了だろ?

なので話し合いしかない。

昨日のワニと話すことができれば問題の解決への糸口が見つかるかもしれない。

それに一縷の望みをかけるしかない。

さすがに全員で行くと敵対行動待ったなしだから、3匹にはここで待機するようにお願いした。

「武田様、それはさすがに危険すぎる」

「そうです、いくら武田様でも一人では」

口々にそう心配してくれるが、3人?がいると確実に話し合いにならないので、ついてきたがってたのを無理やり待機させた。

「問題ない、俺を信じろ」

そう、俺の運を信じてくれ。

…はぁぁ。

本当になぜこんな事になってしまったんだ。

『部室に入れたら、だけどね』

立花の最後の言葉が思い浮かんだ。

そうすべての元凶はあいつだ。

あいつが俺をこんな訳のわからない世界に放り込んだんだだ。

今度あったら絶対に殴ってやる。

絶対だ!

と心に決めながら湖に入っていく。

そうすると水面に影が見えた。

ワニの背中だ。

しかも1匹だけじゃなかった。

10いや50くらいはいる。

そしてそれがどんどん俺の周りに集まってくる。

おーまいが!!

確かにあのワニ以外も来ると思ってはいたが、こんなに来るとは。

…とにかくあいつだ。

昨日話をしたあいつを探さないと。

「昨日ここで俺と会話をした奴と話がしたい」

陸に近いところまでやって来たワニは体半分が水面に出ている。

大きい…。

だが昨日の奴はもっと大きかったはずだ。

周りのワニはこれ以上俺に近づかなかった。

待つこと3分。

昨日のヤツが現れた。

かなり巨体なワニ。

いつ見ても恐ろしい。

大きく深呼吸してそのワニに話しかける。

「やあ、昨日ぶりだね」

ワニは俺の1メートル前までやってきた。


オマエカ


俺を認識してくれた。

「話があってまたここに来た」

ワニは俺と後ろにいる3匹を交互に見てツヅケロと急かしてきた。

「実は縁があって熊が主をしている町で世話になったんだ」

ワニは無言のままこちらを見つめる。

「そしてワニとリスを退治してほしいと依頼を受けた」

俺の言葉に周りのワニが俺に殺気を放ってきた。

すさまじい視線を感じ俺は身震えた。

目の前のワニはただ俺を見ているだけだった。

「だが俺はお前にも恩がある」

自らの動揺を吹き飛ばすように言葉に力をこめて目の前のワニに話す。

その言葉で周りで威嚇していたワニの動きが止まる。

目の前のワニは少し目を細めた。

「それで話し合いに来た。問題を解決する為に」

俺の言葉に目の前のワニはなにも答えない。

が、俺に近づいてきた。

昨日と同じように目と鼻の先にワニがいる。

少し違うのは昨日は水を飲む為に屈んでいたが今は直立している。

見下し感ハンパない状況だったので俺はその場にひざをついた。

もちろん俺の心臓はバクバク鳴っているし恐怖もハンパなかった。


ワザワザヒザヲツクヒツヨウハナイ


立ってもいいぞと言われたのかもしれないが今さらだ。

このままで話すことにした。

「で話し合いには応じてくれるのかな?」


イイダロウ


よし、説得に応じてくれた。

さてどうやって話し合いの場所を決めようか。


クマダケヲコチラマデコサセロ


…このアウェイな場所に一人で来させるのはさすがに厳しいな。


ムリナラバハナスコトハナイ


目を閉じ少し考えたがワニの案に乗ることにした。

「わかった。すぐに連れてくる」

俺は立ち上がるとワニに背を向けグリズの所に歩き出す。

「だ、大丈夫でしたか武田様」

グリズの手に乗っているトムが心配そうな顔を向けてくる。

俺は少し笑ってトムの頭をなでる。

「グリズ、お前と俺とあのワニで問題を解決させる為の話し合いをする」

グリズは俺の言葉に驚きはしたがすぐに了承した。

「わかった。武田様がそう言うのであればそれが正しいのだろう」

俺の目を見つめてくる。

とてもいいシーンなんだよな。

ぷらぷらがなければ。

「場所はあのワニがいる所だ」

そのことばにハスキーが難色を示す。


アソコハワニノテリトリー、キケンスギル


まあわかっているが条件はそれ以外はダメなんだと説明する。

「わかった。我は武田様とあの場所へ行こう」

グリズは手に乗せてたトムをハスキーの背に乗せる。

「とても危険だと思いますが、グリス殿は名を頂いて力が底上げされているし、なにより武田様がいるから心配無用ですね」

トムは最初こそ神妙な顔をしていたが、今はもう俺とグリスに任せれば問題ないと、安心して笑っている。

いやそこまで信頼されるのも困るな。

悪い気はしないが。


デハゴブウンヲ


歩き出した俺とグリズにハスキーが声を掛けてくれた。

俺は左手を上げて答えた。


そして俺とグリズはワニの前までやってきた。

周りのワニは近づきはしなかったものの一斉に動き出した。

「約束通り俺とグリズ、熊だ」

ワニは微動だにしなかった。

「おっと名乗り忘れてたが俺は武田って言うんだ。そしてコイツはグリズ、俺が名前をつけてやった」

まわりのワニがざわめき出した。


ナマエヲツケタダト!

ダカラアノスガタナノカ


ざわついた同胞を目の前のワニが前足でバシャンと水を叩きつけて抑えた。

ボスワニの貫禄である。

「ところで、だ。お前たちはいったいどんな理由で争っているんだ?」

実は理由を知らなかったりする。

途中聞こうかと思ったが、どうやって話し合いに持っていくかって事だけを考えていて、結局聞き忘れてしまったのだ。


アキレタモノダ、リユウモシラナイノニチュウサイトハ


いやごもっともです。

俺は肩をすくめた。

「そもそもの原因はワニがこの湖の恩恵を独占していることだ」

グリズは目を細めワニに指を差す。

流石はハンサム様、なんでもお似合いだ。

真っ裸でなければだけどな。


ワレラハミズクサガカテ、ユズルワケニハイカヌ


そういや草食のワニだった。

「水草を食べるなら我らが魚を獲っても何の問題もなかろう」

うむ、確かにその通りだけど。


キサマラハゲンドヲシラヌ


「限度?」


ソウダ、ヤミクモニサカナヲトレバセイタイケイヲハカイスル


なるほど。

そういう事か。

魚を乱獲して生態系を破壊すればいろんな不具合が出る。

彼らの糧である水草も絶滅する恐れがあるって事か。

「なるほど理解した」

俺は交互にワニとグリズを見る。

「お前たち取引をしろ」


トリヒキ?


ワニもグリズも少し困惑しているようだ。

「そう取引だ。物々交換って言った方がわかりやすいか」

グリズたちはワニが食せる野草などを渡す。

そしてワニの方は稚魚を含まない何種類かの魚を少しずつ渡す。

そこらへんの数の折り合いは後ほど詳しく話すとして、湖の生態系を守りながら食材を交換するという提案を説明した。

「なるほど、それは我らでは考えもつかない発想だ」

グリズは顎に手を添えて考える。


ナルホド、ワレラデミズウミノカンリヲスルノカ


「その通りだ。魚の繁殖も毎年違うだろ。ある種が増えると別の種が減ってしまう。長い年月でその割合は戻るが、たまに絶滅してしまうこともある。なのでお前たちがそれを管理すればいい」

「なるほど、それは湖だけでの事ではない。陸上でも同じことが起こる。それを管理するというわけか」

「その知識に詳しくない者がうかつに行うと逆に悪い結果になる場合もあるが、それに長けた者がいればうまくいくと思う」

素人考えなのであってるかどうかわからないが…。

「わかりました。我らはその案に賛成します」


ワカッタ、ワレラモダキョウシヨウ


ふう、よかった。

なんとか解決できそうだ。

「では我らはいろんな野草を集めさせるよう町の者に伝えよう」


ワレラハミズウミノセイタイチョウサヲオコナオウ


「我の使者としてあの者を使いに出す」

ハスキーを指差す。

「ではこの件はとりあえずこれで解決。なにかあれば俺に相談してくれ」

ただしここにいる間だけなんだだけどな。

そして俺たちはトムとハスキーのいる場所に歩き出す。

…後ろからのっそのっそとワニがついてきた。

ハスキーは警戒したがグリズが手を挙げ抑えた。

「問題は解決されたのですか?」

トムの質問にイエスと答える。

「さすがは武田様です。万事に抜かりはありませんね」

いやいやそんなに褒めないでくれたまえ。

図に乗ってしまうじゃないか。

グリズはさっきまでの話をトムとハスキーにも説明する

「ってことだ、よろしく頼んだぞ」

グリズがハスキーに命令する。


オマカセアレ


ハスキーもはりきっているようだ。

これにて一件落着だな。

「ではリスの件もすぐさま解決ですね、武田様」

あっ。

リスの事忘れてた。

…あいつらとてつもなく凶暴だからな。

話も聞いてくれなさそうだし。

さてどうするか。

とりあえず争ってる訳を聞こうか。

「なぜリスとも問題を抱えてるんだ?」

グリズがすぐに答えてくれた。

「ワニと同じ理由だ。彼らも同じようにナワ張り意識が激しいので、なかなか森の恩恵を享受できないのだ」

なるほど、あいつらはとにもかくにも邪魔者は排除だからな。

人間食うとか言ってた奴もいたし。


リスハホンライオクビョウナショウドウブツダ


「そうだな、しかし集団戦闘を効率的に行う知恵を身に付けているようで、すぐに仲間を呼び一斉に襲ってくる」


ワレラノドウホウモナンドモイタイメニアッテル


ワニですら撃退するのか。

やっかいだな。

「あいつらってナワ張りから外には出ないのか?」

森から逃げ出したら追ってこなかったし。


リスハナワバリデシカコウドウシナイ


ふむ、ならばいい事を考えた。

ハスキーの頭に手を載せなでる。

「リスを1匹だけ捕まえてきてくれないか?」

俺の提案を快く引き受けてくれた。


オヤスイゴヨウダ


ハスキーの背に乗ってるトムを手に載せるとハスキーは目星をつけたリスめがけて走り出した。

1分後、かなりボコボコにやられながらもリスを1匹咥えてきた。

そしてグリズに熊に戻ってもらいリスを死なないように軽く、そして逃げ出せないように踏んでもらう。


タ、タスケテ


リスはブルブル震えながら命乞いをしている。

魔法を無効化した時のトムを思い出させる。

「何故集団で襲ってきたりするんだ?」


コワイ、タスケテ


だめか、下っ端じゃ話にならないか。

だからといってリスのボスなんてそうそう捕まらないだろうし、どうするか。


ドウホウヲカイホウシロ!


後ろを振り向くと一回り大きいリスがブルブル震えながら森から出てきた。

向こうから来てくれるとは。

想像以上に仲間意識が強いんだな。

俺は飛び出そうとした他の4人?を手で静止して前に出る。

「話をしてくれれば開放しよう。約束する」

ボスリスはかなりじっくり悩んでいる。


イイダロウ、ナニヲハナセバイイ?


おお、会話成立したか!

人質をとって無理やりってのが正解だけどな。

「俺は昨日森にいたら君たちに襲われた。何故襲ってくるのだ?」


キサマタチガコチラニキガイヲクワエルカラダ


後ろを向くとワニやグリズは首を横に振る。

「貴様ら、というのは具体的に誰なんだ?」


シラバクレルナ、キサマダ


え、俺?

いや俺は被害者だ。

弁当だって食われたし。

いやまてよ。

「もしかして人間の事か?」


ソウダ、キサマラニンゲンハコチラノドウホウヲサラッテイッテルデハナイカ


この世界の事はさすがにわからないですよ。

なんて言い訳は聞いてくれないか。

さらっていくというのは愛玩動物用に捕獲されてるのかな?

それともなにかの実験の被検体にされているのか。

まあどちらにしても相手の意志を無視した捕獲だよな。

さてどうしようか。

「それについては人間が悪い。どう謝っても許してもらえないのはわかる。だがしかし彼らは関係ないだろう?」


キサマラダッテコチラヲサンザンイジメルダロウ!


まあ確かに弱肉強食が世の常とは言うがこの世界はなぜか会話が出来る。

別の種族にも言葉が通じる。

だとすれば話し合いができるはずだ。

先のほどワニとグリズの問題だって話し合いで解決できた訳だし。

んー。

どうすればいいだろう。

仲良くできるのが一番いいのだが。

…いや別に仲良くしなくてもいいんじゃないか?

相互で協力関係を結べればいいわけだ。

物々交換だって相互理解で成り立ってるし。

ならば。

「ではこうしたらどうだ。この森で同盟を結ぶ」


ドウメイ?


「そう同盟。協力関係を作って互いに助けあう。たとえばリスたちに危害は加えない代わりに熊たちに森の恵を分け与える」


コチラハキサマラヲゲキタイデキル


「そうでもないだろう、現にこうやって捕まってる者がいる」

ボスリスは悔しそうに顔をゆがめる。

「それを同盟関係にすれば問題が無くなる。それどころか他の脅威、たとえば人間とかが襲ってきた時は熊たちに助けてもらえる。そのかわり熊たちが困っていれば君たちが助ける。これも同盟だ。持ちつ持たれつな関係になるって事だ」

ボスリスは俺の言葉に深く考え込んだ。

もう一押しだ。

「さらに君たちの縄張り以外にある食べ物を縄張り内にある食べ物と交換できるようにすれば、君たちもおいしいものが食べれるようになる」

俺の言葉にボスリスははっとこちらを見る。


キサマカラウバッタアノタベモノモタベレルノカ?


あー、弁当か。

あれはちょっと無理だろうな。

「あれは人間の食べ物だ。あれが欲しければ人間と同盟をしないといけなくなる」

ボスリスは難しい顔で悩みだした。

「あれと同じものは無理だけど、俺にでも作れるものなら教えてやろう」


ナニ、ホントウカ!


ボスリスはすごく食いついてきた。

「どうする?熊と同盟してみるか?条件が合わないと思えば結ばなければいい。まずは話し合いを薦めたいが」


ワカッタ、ソノハナシアイニノロウ


おお!

話まとまったか!

よかったよかった。

「グリズもそれで問題ないか?」

「うむ。問題どころか、すばらしい結果だ」

喜んでくれて何よりだ。


ソノドウメイ、ワレラモクワワリタイ


ワニが同盟に割り込んできた。

「我らは問題ない。物々交換だけでなく、相互協力を得られるのであれば喜ばしい事だ」

グリズは嬉しそうにうなずいた。

ボスリスの方を見るとうなずいていた。


ワニハトテモカタクテキョウボウ、テキニハシタクナイ


凶暴ってどの口で吐くんだよ。

まあ3国同盟、いや3勢力同盟への第一歩が踏み出されるのか。

胸熱だな。

グリズは捕まえていたリスを開放すると、すぐに森へ走って逃げていった。

さてと、代表が3人いや3匹いるわけだし互いの自己紹介タイムだな。

「まずは自己紹介をしよう。俺は武田って名前だ。そしてこいつは熊の町の代表でグリズだ」

紹介されたグリズは頭を下げた。

「んでもってこっちが湖の代表のワニだ」

ワニも器用に頭を下げる。

んー。

なんかしっくりこないな。

「自己紹介の途中だけど、君たち二人に名前をつけようと思う」

ワニとボスリスは、えっ!って感じで俺を見る。

グリズと成り行きを見守っていたトムはうんうんとうなずいた。


ワレラハナマエデヨビアウワケデハナイ


「それは知ってるが俺が呼びにくいだろ。ワニって紹介したけど湖にいる君の仲間もワニなんだし」


ダカラ──


「反論は無しだ!」

ワニもボスリスも有無を言わさず黙らせた。

「あ、もしかして名前付けられるのがイヤなのだったら言ってくれ。さすがに無理強いはできないし」


イヤデハナイ


ムシロホントウニイイノカトオモウ


「それに関してはまったく問題ない。では早速つけようか」

ワニはクロコダイルからとってクロコにするか、オスメス両方に通用するし。

「では君の名前はクロコだ」

ワニにそう告げると、体が薄く光を発光させた後に閉じていた目を開いた。

「クロコ、いい名前をありがとうございます。武田様」

おっと、ここでも武田様ときたか。

もう呼ばれ慣れてしたけど、最初はすごく違和感があったな。

クロコに微笑んで手を頭に載せる。

恥ずかしそうに少し身じろぎをしたが、目を閉じて俺の手の感触を味わってるようだ。

最初はとてつもなく恐ろしいかったけど、今では恐ろしいどころか親近感が沸いている。

クロコから手を放すとボスリスの方を見る。

ボスリスは少し緊張しているようだけど、受け入れ準備万端だぜって顔だ。

シマリスだからシマリでいいか。

…すごい安直な名前だけど、怒られたりするかな。

「では君の名前はシマリだ」

ボスリスもトムやクロコ同様(グリズの時はすぐに気を失ってしまったので見れなかった)に少し光を放ちすぐに収まった。

「おおっ!すごく力がみなぎってるっす!」

シマリはすごく走り回り、最後は俺の服をつたって肩まで登る。

「ありがとう武田様、オイラすげーうれしいっす!」

喜んでくれて何よりだ。

「では会議を始めたいが、ここじゃなんだし、どこかいい所ないかな?」

俺の意見にグリズが我の町でどうですかと提案し、クロコとシマリは快諾した。

「仲間たちに伝えてくるから少し待っててほしいっす」

「私も仲間に伝えてきますのでしばしの猶予を」

とういなり2匹は各住処に消えていった。

「どうなる事かと思いましたがさすが武田様、無事解決ですね!」

トムがそういうとハスキーも同意する。


スバラシイ


そしてグリズもとても感謝している。

「武田様のおかげで我々の問題が一気に解決出来そうだ。本当にありがとう」

いつのまにか人間の姿に戻っていたグリスにお礼を言われた。

…裸で無ければいいシーンなんだけどな。

まあでも感謝されるのはとても気持ちのいいことだ。

雑談をしていると湖から水飛沫を上げて泳いでくる姿が見えた。

クロコか、結構早かったな。

なんて思ってたら違った。

いや違うかどうかはわからないが女性だった。

しかもグリズと同じように真っ裸でとてもすばらしい美女だった。

「ちょ!?」

俺は短い悲鳴を上げるが美女の方はそのままコチラに歩いてきた。

「おまたせしました武田様。私も人化に成功しましたので慣れる為に当分の間この姿で行動しようと思います」

まままままてまてまて!

「服、服着ろ服を!」

直視してしまったがため先ほどから前かがみだ。

健全な高校生になんて姿を!

目に毒やら保養やら。

あああ、とにかく落ち着かねば。

「私たちは服を着る習慣が無い為に持ち合わせがございません」

そうだろうな!

グリズがそうだったし!

このままじゃ俺は行動不能で歩けないぃぃぃ!

すかさず上着とズボンを脱いでクロコに渡した。

「これ、これを着てこれを!」

クロコは渡された俺の服を受け獲るが首を傾げる。

「どうやって着るのか教えていただけませんか?」

そうきたか!

結局10分くらいかけて、ようやくクロコは服を着ることに成功した。

もう桃源で頭がいっぱいだ。

「これが服というものですか。とても歩きにくいですね」

そりゃそうだろうさ。

「なるほど、武田様はクロコの姿を見て欲情したのだな」

グリズが冷静に分析した。

言うなーー!

言うなやーーー!

俺は耳をふさぎ座り込む。

「我がクロコを見てもなんにも感じなかったのは、やはり熊とワニという種族が違うからだろうな」

「なるほど、今のクロコ殿は武田様と同じ人の姿ですし、クロコ殿の素肌を見て生殖行為の衝動に駆られたわけですね」

頼むから説明しないでー!

「なるほど、私は武田様にお気に召す肢体をしていたという事ですね。生殖行為ですか。人間はどのように行うのでしょうか」

クロコが思案顔で悩んでいる。

「おまたせっす!ってあれ武田様どうなさったんですかい?」

シマリが不思議そうに俺を見ている。

見ないでぇぇ。

俺の姿を見ながらくすくすとクロコが笑う。

「小さき鳥にいいようにもて遊ばれ取るに足らない人間だと思っていましたが、まさかこの森の救世主となり名前まで授けてくれた。どれが本当の武田様なのでしょうか」

クロコの疑問にトムが颯爽と答えた。

「もちろんすべてが武田様です。私も驚かされてばかりですが、ユーモアがあり決断力がありそしてなにより人を惹きつけるカリスマがある。すばらしいお人です」

トムの言葉はこれ以上ないくらいの褒め言葉だったが俺は普通人なんだよ。

だからこんな前かがみなんだよ、とむなしく独り言を呟いた。

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