お手伝いの不透明な会計録
俺の名前は花森九25歳、職業は小説家だ。まぁ、小説家とは言ってもそれほど、それほど売れている人ではない。そう適当に一冊本を書けば売れに売れて増刷の嵐を巻き起こしベストセラーになって数多の賞をとってしまい、1000万以上の収入が確定しているしがない作家だ。
しかも高身長でイケメンと来るものだから作家なのにファッション雑誌の表紙も何度も飾った経験もあるのだ。。あー、まじ恐ろしいわー。自分の才能が怖いわー。いったいどうやったら賞とらないで済むのか悩みだわー。
だがそんな文才・容姿と双方優れている完璧な人間に見える俺なのだが欠点もある。それは家事炊事の類が一切と出来ないということだ。
いや、正確にはする時間が無いというべきかな。本当は家事炊事なんてお茶ノ子祭々に出来るのだけど、日夜、俺の新たなる作品首を長くして待っているファンの為にも執筆活動に専念しないといけないからね。
悔しいが家事炊事は断念するべきに決まったのだ。
なので我が家には、雇っているお手伝いさんがいる。いや、お手伝いさんと文字面を見ると市原悦子みたいなのを連想させてしまうので、俺はここではメイドと読んでいる。ほら、お手伝いさんをメイドという言葉に変換してイマジンしたらとても欲望の仮面が掻き立てられるだろ?
黒のワンピースに白いエプロンとカチューシャを身にまとい、ちょっぴりドジなメイドが每日、俺の世話を甲斐甲斐しくするなんて・・・・・・官能小説の世界のようだろ?
現に俺はメイドを募集する時に採用項目にも『家事炊事が完璧に出来・若く可愛く美しく・尚且つメイド服が日本で一番に似合う女性だと俺が思えるほどならば即採用!』という条件で募集したのだ。
我ながら男女均等雇用を無視したヤバイ無理な注文しちゃったかな。と思っていたら、まさかに条件に該当した人が来ちゃったんだな。
あんな無茶な条件に当てはまって奇跡の人物の名前は枢木永水という女性で年は俺のひとつ上の26歳だ。
確かに彼女を事業所かた紹介されて会った時には、それは驚いたものだ。しっかりした隆鼻をもった整った顔立ち、そこら辺にいるモデルが裸足で逃げるほどのプロポーションには感嘆したね。勿論採用項目であるメイド服にも袖を通してもらいましたよ。感想は「採用、ついでに俺と結婚してくんねぇかな」と言った記憶があったかな。まあ今では言ったことに後悔しているがね。
ああ何故かって? 彼女は家事炊事は完璧にこなしているよ。料理は彼女の手料理意外食べたく無いと思ってしまったくらいだし、掃除は高級ホテルのスイートルームの清掃より綺麗になっていて、自分の部屋かと疑いたくなっているくらいだ。
え? ならなにも問題なんてないじゃないか、だって? 確かに此処だけ見れば彼女は俺と同じく完璧に近いメイドだ。だがしかし彼女にもあるのだよ、欠点ってやつがね。
それはだな――
「ご主人様、そろそろ長い長いモノローグをやめて原稿を進めたらどうですか? 締め切りに間に合わなくなりますよ?」
「うるさいな! 突然出てきて人の独白を邪魔するなよ! せっかくこれからお前がいかにダメでムカつくメイドかというエピソードを盛りに盛って語ろうと思ってたのによ!」
「私がダメなメイドとは心外ですね。私ほどこの世でメイドという職業に向いているものはおりませぬよ」
「だったらな、まずはその服装をなんとかしろよ!」
今、コイツの服装は俺が以前着させたメイド服一式ではなく、灰色のパーカに黒Tシャツ・ジーパンというメイドとは程遠い格好をしているのだ。
だが、ラフな格好でも凄く着こなしてしまうのが永水マジックなのだがな。でもなんだその格好は。お前は大学生のバイトか? もしくは専業主夫か?
「申し訳ありませぬが、あのような奇抜な格好で買い物になど出かけたら頭の湧いた可哀想な人と思われてしまいますので」
「だったらせめて家の中くらいではメイド服に着替えたらどうだよ! これならば問題無いだろ!」
「申し訳有りませぬが、現在、メイド服10着はその消息を立ってしまったので着替えることは出来ないのでございます」
「んな一気になくなるわけ無いだろう。失くしたとしてもお前の部屋のどこかにはあるのだろう、探してみろよ」
「いいえ、部屋には・・・訂正、この家には完全にないと思われます。もしあるのならば我我我屋にあるようなないような気がしないこともありませぬ」
「質屋じゃねぇーか! 売ったのか、お前、あのオーダメイドのメイド服を売ったのか!?」
「合計14万7千円になりました。私の財布はホクホクです」
こいつは悪魔だ。俺が本場イギリス職人に頼み永水に合う最高のメイド服を仕立ててもらったのに、あろうことかこいつそれを売りやがるなんて。
「私のご不満はそれだけでしょうか?」
「いいや、まだあるぞ。これは大事な、そりゃ大事なお話だ」
「何でしょうか?」
「お前、最近、不必要な買物をしていないか?」
「記憶にございませぬ・・・・・・」
「否定しないってことはあるんだな」
「あ、ありませぬです」
永水は普段のポーカーフェイスが崩れ去って目をあちらこちらに泳がせている。てか、動揺し過ぎだろう。そこは普段みたいにやり過ごせよ。
「じゃあ、最近の買ったもののレシート、領収書を見せてもらおうか」
「か、風で飛ばされてしまい、どどどちらも紛失してしまいました」
「困るんだよな、勝手に私用なものを買ってもらうのはさー。これはアレだよ、不透明な金の流れってやつだよ。もしこの場所が国会ならば追求に追求されまくって辞任ものだよ君。まぁ、君の場合は解雇ってことになるのだがね」
「そ、それは・・・困ります・・・」
オロオロと慌てふため始める永水。何故だろうか、この様な姿の永水を見るともっといじめてやりたくなる被虐心が生まれてしまうよ。
「んー、仕方ない。君はこの2ヶ月よくやってくれたよ。寂しいが――」
「じ、実はこの家で猫を飼っていて、そのエサ代をご主人様の財布から頂戴していました!」
そんなんじゃないかと思ってたよ。時たまに夜中でにゃーにゃーミャーミャーと騒がしかったからもしやと思ってみたらやっぱりか。
つまり、永水は自分の飼っている猫のエサ代を俺の財布から捻出していたわけか。
「誠に申し訳ありません! これからは自費であの子の餌の費用はこちらが出しますので、どうか許してもらえませんか? それとついでと言ってはなんなのですが、この子を飼っていただける許可を貰えませぬでしょうか? けしてご主人様に迷惑は掛けませぬので!」
そう言って普段、そこまで下げない頭を必死になって下げる永水。よせやい、ここまで言われちゃったら俺も色々と思ってしまうだろうが。
俺は永水の肩を優しく叩き。
「先ずは質屋に向かい至急にメイド服を取り戻してこい。それと每日、メイド服着用することな。あと紅茶やコーヒーを入れる時最後に「美味しくな~れっ」って胸にハートマーク作ってやることだ。それが猫を飼うことの条件だ。安心しろエサ代も俺が持ってやるぞ」
「・・・・・・かしこまりました」
マリアナ海溝の深く絶望しうなだれたて答えた永水に、俺はその姿を見てしばらくは愉悦な気分に浸ったものだ。
うん、俺優しいな。