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ピーチな片思い♡

作者: 藤里 真朱

雨雲が太陽を遮り、夕刻なのにすでに暗闇が周囲を包み込んでいた。

昼間は皆の笑い声で溢れいていた校舎も今は静まり返り、蛍光灯の光がどこか寂しく廊下を照している。

パチリと小さな音が教室に響き、同時に明かりが広がった。


明かりをつけた少女は一度教室を見回した後、教壇へと目をとめる。

少女の胸の内を占めるのは柔らかくそして激しい思い。

その思いが溢れ出ないようにか、胸を抑えながら少女は恐る恐る教壇へと近づく。


そっと教壇に手を添えてみる、数時間前アノヒトが立っていた場所。

そう思うだけで少女の胸に秘める思いが溢れ出そうになる。

人を好きなるということは楽しい事だと思っていた。


いや、今でも楽しいと思えている。

「アノヒト」の声を聞くだけで胸に広がる喜び。

「アノヒト」がいると思うだけで、陰鬱な雨の日も楽しめた。

けれど「アノヒト」を好きになって少女は知ってしまった。

本当の恋とは楽しいだけではないと。


苦しくなる、切なくなる、そして我がままな自分が嫌になる。

思いを伝えてしまいたい、でも伝えてはいけない。

押さえつけた気持ちが涙と姿を変えて瞳からこぼれる。

先生と生徒、それは近くてとても遠い。

いつでも会える、いつでも話せる、けれど決して思いを伝えてはいけない人。


けして「アノヒト」に胸の中に咲き乱れる思いを乗せて触れていけない。

その思いが真剣であればあるほど、伝えてはいけないことを少女はわかっていた。

ただ、ふくれあがる思いを慰める場所を求めていた。

そして「アノヒト」と少女の繋がりの象徴とも言える教室で、「アノヒト」がいつもいる教壇に触れる。

「アノヒト」の代わりに。


目を閉じて思い出す、数時間前の教壇。

アノヒトがココに立って、楽しそうに歴史を教えていた。

楽しそうに歴史上の人物の性格を話すその姿は、本当に歴史が好きなんだとわかった。

楽しそうに話すその言葉が自分だけに向けられたら…

あの微笑みの側にずっといられたらならば…


広がる思いを抑えきれず少女は思わず思いを口にする。


「…先生、好き」


「嘘だ!!」


突然教室に響いた叫び声に少女は驚き後ろを振り向いた。

それと同時にパーンと掃除用具入れのドアが弾け飛んだ。

弾け飛んだドアの向こうからまるでこの世の終わりの様な顔をした少年がフラフラと数歩進み出た。

そして、驚きと悲しみの色を湛え少女をジッと見つめる。

「烏の濡れ羽色」と言うに相応しい漆黒の美しい髪。

そしてその髪のしたで負けず劣らずと、きらめく漆黒の宝石と言わんばかりの瞳。

少し切れ長の瞳は冷たい印象を与えるが、それが彼の美しさを際立たせていた。


「剣崎君…どうして掃除用具入れに」


驚きに震える声で少女は質問する。


「美化委員長ですから」


少年は表情と身なりを整えてから誇らしげにそう言った。

少年の言葉の意味が掴めず少女がさらに質問をしようと口を開くが、それを遮るかのように少年は真剣な面差しを浮かべ少女に歩み寄る。


元来の生真面目な性格と育ちの良さから、少年の歩く姿は独特の美しさを讃えていた。


「それより桃原さん、先ほどの発言はなんですか!」


少年の中に渦巻く激情。

その感情の激しさは、いつもならば完璧である少年の自己抑制を吹き飛ばしてしまっていた。


春の日差しの中、柔らかくそして控えめな少女の笑みを見た時から少年は不可解な感情に悩まされていた。

少女を見るだけで完璧であった少年の感情コントロールにノイズが入った。

全てを完璧にこなす少年にとってそれは重大な問題であった。


問題の解決方法はわかっていた、問題の原因である少女を視界に入れなければいい。

始め少年は簡単なことだと思っていた、そしてすぐにそれが間違えであることに気がつく。

少年の漆黒の瞳は、少年の意志に反しまるで引きよ去られるように少女を捕らえ続けた。


「嘘だ」


少女を捕らえる少年の黒曜石の瞳はかすかに潤む。

少女が思いを口にした瞬間に広がった、驚き、恐れ、そして確かな喪失感。

今少年の心に渦巻く激しい感情の名は嫉妬。

少年は気がついた。自分の中に芽生えた不可解な感情の名を。


「嘘だ」


始めて知ったこの感情を消さないといけないとは信じたくなかった。


「往生際が悪いぞ!剣崎」


教室に低くそして少年とは全く違った大人の男の声が響く。


「誰だ!」


「俺だぁ!」


パーンと教壇の向こうに側にあった黒板が弾け飛ぶ。


「銃峰!」


弾け飛んだ黒板の向こうから白衣の男が現れた。

少し茶色に染まった髪を軽く後ろにならし、ラフにまとめた髪。

完璧なバランスを保つ目鼻立ち 、そして少したれ目がちな目尻は男に優しい雰囲気を持たせていた。

化学教師の為に着ている白衣の下には、黄金律を誇る体がその存在を主張している。

教師というよりモデルのようなその男は、この学園の教師の中で一番人気を誇っていた


「銃峰先生…どうして黒板の後ろに?」


驚きに震える声で少女は質問する。


「教師だからね」


化学教師はそういうと軽くウインクをした。

化学教師の言葉の意味が掴めず少女がさらに質問をしようと口を開くが、それを遮るかのように化学教師が勝ち誇ったように少年に告げた。


「諦めろ剣崎、桃原は俺の事が好きなんだ」


少年の黒曜の瞳に怒りが籠もり、今にもつかみかかりそうに腕が震えていた。

少年の中に渦巻く怒りがピークを迎え、拳を振り上げようとした瞬間


「そんなわけはありません!」


綺麗なボーイソプラノの声が教室に響き渡った。


「誰だ!」


「誰です!」


「僕だぁ!」


パーンという音共に壁に備えられていたスピーカが弾け飛ぶ。

その噴煙の中から一人の少年が現れた。

天使のようにフワリとした少し濃い金色の髪。

北欧人の母親譲りの白磁の様な肌の上に揺らめくはサファイアの瞳。

日本人の父親の血を引いたのか幼さが際出すその顔は、可愛らしく小動物を彷彿させる。


「矢島だと」


名前を呼ばれた北欧人は宣戦布告と言わんばかりにニコリと微笑んだ。


「矢島君…どうしてスピーカーの中に?」


驚きに震える声で少女は質問する。


「放送委員だから」


北欧人はそういうと可愛らしく微笑んだ。

北欧人の言葉の意味が掴めず少女がさらに質問をしようと口を開くが、それを遮るかのように北欧人が美しいボーイソプラノを響かせる。


「桃原先輩は騙されているだけです」


フワリとした天使の髪を揺らしながら北欧人は少女を見つめる。


「いや、桃原は俺の事が好きだとさっきその口でいった。それは否定できないだろう」


化学教師の言葉に反論ができない北欧人。


「そうだとしても、私はそれを阻止させて頂きますよ。桃原さんの為にも!」


「僕だって、誰にも桃原先輩を渡す気はないよ」


「おいおい、先生が諦めるという言葉をお前達に教えてやろう」


3人はお互いを睨み合い、今にも戦いがはじまろうとしていた。


「まって!」


少女は渾身の力で叫ぶ。


「私が好きなのは…歴史の頭真法苦先生よ!」


「「「え」」」


3人の男が振り返り信じられないものを見るように少女を見る。


「わかってるわ、釣り合わないって。でも、好きなんだもの」


半ば強制的に引き出された少女の思い。


「何でだ、あんな奴…あんなもうすぐ定年を迎るヨボヨボを」


天国からいきなり地獄に落とされた化学教師の絞る様な悲痛な声。


「ふふふふふ」


しばらくの沈黙の後北欧人が突如小さく笑い出した。


「そういえば50代後半の人が突然なくなる事って良くありますよね」


サファイアの瞳が妖しく揺らめく。


「あぁ、定年前なのに可哀想な話だがな」


黒曜石も揺らめきだす。


「そういえば…化学室で事故とかおこりそうだな」


化学教師の象徴とも言える白衣を軽く引っ張る。

絶望に染まっていた3人の男の立ちに妖しい笑みが浮かんだ。


「……させないっ」


先ほどまで震えていた少女の声が急に強くそして大きくなる。


「貴方達に先生は殺させない!」


少女は背中に背負っていた竹刀にをとり、それを3人の男に向ける。


「桃原さん」


「桃原」


「桃原先輩」


3人の男達は驚きの目を少女に向けるが、少女の覚悟をみとり、真剣な表情に変わった。


「そこまでの覚悟ですか桃原さん」


「ちっ、しかたがないな…桃原」


「負けません、先輩が好きだから!」


それぞれ、剣、銃、弓を握りしめ少女に向ける



「「「「覚悟!!」」」」



このときはまだ彼らは知らなかった…

この数時間後に、なんやかんやあり、

4人が魔王、頭真法苦を倒す光の戦士として目覚める事を……


ピーチな片思い♡ー完ー

ご、ご、ごめんなさぁぁぁい。

ふざけた話でごめんなさぁぁぁい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思わず変な声出してしまった 「ぐふぅ」 家人に変な顔されてしまった。 私はいったい何を読んでしまったのでしょうか? 記憶が曖昧です
[良い点] ど う し て こ う な っ た [一言] 笑いました! 楽しい話をありがとうございます!
[良い点] 吹き出しそうになりました。 掃除用具入れの破壊から最後の一行まで予想がつかず、振り回されました(笑) [一言] 教室破壊から始まる勇者と魔王(定年間近) の物語…それだけで面白そうです。 …
2014/12/30 09:30 退会済み
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