雪だるまと少女
海の見える小さな街に、20年ぶりの大雪が降りました。大人達は大きなシャベルで街の雪を道の端へ積み上げ、子供達は暖かい服や手袋を雪まみれにしながら遊んでいました。また、独りでひと気のない荒れ果てた公園で、僕を作っている女の子がいました。
長い木の枝、枯れた葉っぱ、真っ黒の小石を顔につけ、割れた小鉢を頭にのせて僕は完成しました。
「…可愛くない」
僕を作った女の子はそう言って僕を壊そうとしました。
「君だって可愛くないよ?」
思わず僕は女の子にそう言ってしまいました。女の子はびっくりした顔で黙っています。
「そんなしかめっ面じゃ友達できないよ?」
「…うるさい!」
女の子は僕にそう言うと走り去ってしまいました。あの子、ほんとに友達いなかったんだ。ひどい事を言ってしまったな。僕は女の子に何て謝ろうか一晩考えていました。
次の日、雪は止みましたが、曇り空で太陽の日差しはなかったので僕は溶けないでいられて安心しました。女の子は僕がいる公園に来ました。目の前に現れた女の子の小さな手にはシャベルを握り締めていました。女の子の目は怖かったです。僕を壊しに来たんだとわかりました。
「それで君に友達が出来るなら、僕は壊れても、溶けてもいいよ」
僕は昨日考えた謝る言葉を言う前にそんなことを言ってしまいました。
「…いらない。友達なんて、いらないもん」
女の子は俯いて黙って握り締めたシャベルを下ろしました。
「下ばかり見ているから友達が出来ないんだよ。友達は前にいるんだよ?前を見て、笑って、おはようって言ってみなよ。そうすれば、いっぱい友達は出来るよ」
僕はできる限り優しく女の子に言いました。女の子は何も言い返さないでそのまま帰って行きました。結局謝れなかったな。明日も来てくれるだろうか。待つしかできない僕は大人しく女の子を待ちました。
次の日、その次の日、5日後、女の子は僕の所に来ませんでした。友達できたかな。笑えているかな。僕は気になって仕方がありませんでした。だけど僕は動けません。僕はちょっとずつ溶けながら、女の子を待ち続けました。
久しぶりの暖かい太陽が顔を出し、路上の雪も少しずつ溶け始めてきました。僕は少しずつ柔らかくなり、後もう少しで僕は溶けてなくなります。すると女の子が走って僕のところに来る姿が見えました。
「…壊そうとして、ごめんなさい。私あなたのおかげでいっぱい友達ができたの。…可愛くないって言ってごめんなさい。うるさいって言ってごめんなさい。…ありがとう」
そう言うと女の子は泣いてしまいました。泣かないで。でも、それを聴いて僕は安心しました。初めてあった時の寂しい顔をした君はもういないんだね、よかった。
「ごめんなさいって言われるより、ありがとうって言われた方が嬉しいね。僕を作ってくれてありがとう」
僕は溶けてしまいました。
僕の最後の言葉となりました。
女の子は今日も、友達と楽しく過ごしていますように。
fin.