第3話 露店主の悩み
城から出て二日が経った。
一日目にして仲間を加えることが出来たのだが
美少年とは……期待できそうに無い
まあ強いて言えば無駄にポジティブなところか
「新しい街に緊張感のある敵、特に楽しみなのはなんといっても魔王だよね。どんな人なんだろう」
「世界を畏怖させる魔王を楽しみにするな」
道中見かける勇者の死骸、時間的に人間には無害だったが胞子が飛んでいたらとてもじゃないが通れなかった。
にしてもあの街で見かけた少女……一体どこの勇者に毒を貰ったのだろうか
などと考えているとそこそこ大人びた女の人が一人露店を開いていた。
「露店だ! 何か珍しいものでも売ってないかな~っと」
その元気がいつまで持つかなどとは思わない
たぶんこの先もこの調子だろう。
「あ、いらっしゃいませ。欲しいものがあったら言ってくださいね」
……なんだろう、少し違和感を感じる。
まるで人形のように肌理細やか肌、宝石のような瞳。
とても人間らしいとは言えない
そしてそんな綺麗な肌に黒く文字が書いてある。異様なほどに目立つ
【78905】一体どういうことか、予想はつくが深くは探らないでおこう。
嫌な予感がする。
「う~ん、それではこれを下さい」
オリクエスはわけのわからない人形を手にした。
あれは一体何なのだろうか、ここらへんでは見たことが無い生き物だ。
無事に会計を済ませた俺たちは再び歩き始める。
すると数メートル先にそこそこ大人びた女の人が一人露店を開いていた。
「露店だ! 何か珍しいものでも売ってないかな~っと」
待て待て……さっきも見かけただろう。
しかもあそこにいた女とそっくりではないか
オリクエスは、また同じやり取りをしてわけのわからない人形を手に入れた。
「ほら、さっきと違う色だよ♪ 嬉しいなぁ」
「あの、先ほども会いませんでしたか?」
気になった俺は笑顔を絶やさない女の人に聞いてみた。
「さあ、どうでしょう」にっこり
その笑みは一体なんだ。知っているのかお前は
とりあえずその店を後にしてしばらく歩くとまた露店が……
「露店だ! 何か珍しい――」
俺は走り出しそうなオリクエスの襟を引っ張り、この状況について話す。
というかお前は全く気にならないのか……
「ん? あ、ついつい新しい人形ないかなーとか思っちゃってたよ」
こいつを当てにすることは出来ない
そう決め付け俺はオリクエスとは逆方向へと歩き出す。
オリクエスはそのまま進み再び露店で何かを買っているようだった。
俺は先ほど寄ったはずの露店に顔を出す。
「いらっしゃいませ」
その言葉にさっきも会ったよなと返す。
返事はさあどうでしょうと言うだけだった。
お前は一体誰なんだと問えば、勇者のために露店を開く何でも屋だそうだ。
【128450】やはりこいつは機械か何かなのだろう。
これは型番というべきか……しかし人間そっくりな機械を作る技術なんて無いはずだ。
こんなものが出回っていたら国が黙っちゃいない。
これほどの技術があれば今頃は立派な機械都市にでもなったろうに
どうしたらいいものかとしばらく考えていると
「これは機械人形だね」
手に十種類ほどの人形を持ったオリクエスがいつの間にか俺の後ろに来ていた。
集めたんだ、同シリーズの色違いが勢ぞろいしている。
一体どこまで先に言ったのやら
とにかくその機械人形とやらの詳しい情報を聞いた。
「この付近には大昔に機械都市というそれはそれは見事な素晴らしい場所があったんだってさ、そしてそこではこういった人間そっくりな機械人形が歩き、会話をし、仕舞いには恋愛の相手までしたそうで、なんだけどその機械文明は一人の科学者によって壊滅、レグリウスという天才科学者なんだけど、自分で機械人形を作っておいて自分で壊した謎の人物なんだよ」
どうやらレグリウスは機械都市の創設者であり壊滅者ということらしい。
理由はよくわからないが、ここにいる人形は当時いた人形の成れの果てというわけだ。
とりあえず人形についてはわかったのだが、同じ道を何度も何度も歩かせるこの状況をどうにかしてもらいたい。
「それは僕にはどうしようもないよ。この先もずっとこんな感じだったし」
機械というならばそれらを管理している親がいるはずだ。
一人ひとりが単体で稼動している可能性は十分にあるが、聞いてみる事にした。
「お前たちの親はどこにいる」
私からおよそ三十四番先にいる人だと答えられてひたすら歩くこと一時間
同じ景色に徐々に溜っていく人形、とうとう俺の手にも侵略してきた。
なんともいえない人形の目が俺を見つめてくる……
しかし、オリクエスの手持ちは一体いくらあるのだろうか、それともこの人形が安いのか
この出来だとタダでもいいくらいだがな。
さて、さらに歩くこと三十分、三十四番目にたどり着いた。
「いらっしゃいま――」
「お前ここらの人形を管理している親なんだろ」
「欲しいものがあったら――」
「とっとと何とかしてくれないか、こっちも暇じゃないんでね」
「ではこちらはいかがで――」
「……何かあるならその相談にのってやらないことも無い」
「本当ですか!!」
全く話の聞く耳を持たない店主に相談にのるという言葉を出した途端、急にテーブルを叩くと身を乗り出し俺の目をまじまじと見つめてきた。
なんだ相談にのって欲しかったのか、そんなことでこんなに歩かされたのかよ……。
最初から言ってくれればいいものの、ここまで疲れさせておいて、全く迷惑な話だ。
それにしても管理をしているこいつも機械なのか【3740】と表記されていた。
「私、ヴィーナスといいます。ここら一帯の人形を管理しているのですが、どうも最近調子が悪くて」
調子が悪いとはどうやら今体験しているこの状況こそがまさにそのことらしい。
ヴィーナスは人形一体一体に商売の方法を学ばせていたらしい、一箇所に一体、毎日順番に人形を交代させながら店をやりくりしていたらしいが、最近になって自己主張をしてくるようになり露店ではなく店を建てて新しくやっていこうと思っていたことろ、待ちきれなくなった人形が自分自身の空間を作り出し、その場所で店を勝手に開きだした。
自分自身の空間という「は?」という理解できないトンデモ技はやはりレグリウスが取り入れた高技術が影響しているらしい、それ以上は何を言っているのかわからなかった。
とにかくなぜか突然やる気を出した人形が勝手に店を開き、旅人を迷惑させているということだ。
この解決策としては大きな店を建ててやるということなのだが……このコイン、そんなこともできるのだろうか……
「協力してくれるのですね!!」
うわー眩しい。この期待に満ちた顔を見てしまってはどうにも断ることは出来ない。
コインを手に握り、だいたい何人分の広さなのかを聞いてみた。
「五百人くらいですね」
「いろんな色がありそうだ」
「つまりは五百人先まで歩いていけばこの空間からは抜け出せたのか」
その目は集めようとしているのか、とにかくオリクエスはスルーだ。
さすがにそこまで歩こうとは思わなかったがとりあえず念じてみた。
突如まばゆい光を放つと人一人分が出入りできるような入り口が現れた。
失敗か? と考えていたがその中をのぞいてみると地下に繋がっていた。
そしてその地下は立派な商売スペースがあり、五百人でも余裕で働くことが出来そうなほど広い地下室が出来た。
「ありがとうございます。これでこの子達をここで働かせることが出来そうです」
そういったヴィーナスの後ろには、ヴィーナスそっくりな人形がずらぁ~~っと並んでいた。
――――気持ち悪かった。
「マザー。ワタシタチ、モウヒトリデショウバイヲヤッテイケマス」
ちょいちょいちょいちょい!!!
どうした!? いきなり機械みたいな喋り方したぞ??
「プログラムされていること以外の言葉はこんなしゃべり方になってしまうのですよ」
そ、そうなのか……故障でもしたのかと思って焦った。
そしてヴィーナスはしばらく五百人を代表とした一人と話し終わると再び俺のところに来た。
「仲間に入れてください」
いきなりかよとは思ったが、なんとなく予想は出来ていた。
「俺、魔王討伐にいくんだよ。死にに行くようなものだぞ」
「それでも構いません。どうせ寿命がくれば死ぬ運命でしたし、この子達に生きる活力と場所を与えてくれた貴方には感謝してもしきれません。最後までお供させてください」
さすがにここまで言われて断ることも出来ず(後ろで見守る五百人の無言の威圧というのもあったが)
ヴィーナスが仲間になった。
こうして勇者は美少年と機械人形ヴィーナスを連れて魔王討伐に向かったのであった。