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第2話 小さな村

 城を出て一日が経過した。


 俺は小さな村にたどり着いた。

 人はそれほど多いわけでは無いが穏やかな村だった。

 とりあえずある理由で一日歩きっ放しだった俺は宿で休みたいと思い一泊することにした。


 勇者には注射の影響で気味の悪い紋章が浮かび上がる。

 それを見せれば宿の代金は必要ない


「おや勇者さんかい? ゆっくり休んでいっておくれ」


 なぜだろう、ある意味で嫌われている勇者という存在だがその宿主は嫌っているようには見えなかった。

 そういう風に装っている可能性は十分にあったが深く考えるのは止めた。

その一言でも十分嬉しかった。


 今までに寄ってきた村はまるで汚いものでも見るかのような目で見てきた、宿に泊まるにも宿主は何度も聞こえないふりをしてついには泊まることを止めた。


 確かに勇者が嫌われるのも無理は無い。

 勇者は奇妙な紋章がある限り人から裁きを受けることは無い

 つまり自由というわけだ。なにをやろうとも

 過去にそう言う奴がいたのだろう。

 さらには勇者が死ぬと体中に回った液体が空気中に散布し毒性のある植物を繁殖させる。

 俺が暮らしていた町の隣町で畑を営んでいた人は結構有名な畑職人だったが、勇者の死骸から発生した毒性のある植物に汚染され畑は全滅

 次の日から顔を見ることは無かった。


 とまあ勇者に選ばれるとろくなことが無いのだがこの村は特別だった。優しい店主のおかげでその日はとてもよく眠れた気がした。


「よお、お目覚めかい。勇者さん」


 朝食を食べようと移動中、愛想のいいおじさんに声を掛けられた。

 この村が少し怖くなった。一体なぜここまで勇者に優しいのか?

 隙を見て勇者を殺して村の秘密として隠しているのか……


「なぜここのみなさんは勇者に対してここまで優しいのですか」


 聞いてしまった。好奇心とはいえ、こういう事を訊くのはまずかっただろうかなどと考えているとおじさんはこう述べた。


「昔、この村にゴロツキが集団で押し寄せてきてね。村を襲ったんだよ。だけど、ただ勇者と名乗る少年に村は救われたんだ。一瞬でゴロツキを倒すと何も言わずに去って行ってね。ここはあんまり有名な場所では無ければ大きな街の道なりにあるわけでは無いから、勇者が来てくれたのはあれで最後だった。とにかく勇者には敬意を払ってなるべく楽をさせてあげようと村の人たちと話し合ったんだ。世の中は勇者の事をよく思ってないのかもしれない。もちろんあの時はたまたまだったのかもしれない。でも私たちはその勇者を見たんだ。他がどうだろうと私たちには関係ないんだよ」


 他の意見にとらわれない素晴らしい人たちだと思った。


「あー、勇者さんだよね」


 だが勇者に特別な思いを抱かれているとはいっても


「おーい、魔王退治頑張れよ」


 俺は何もしてあげることは出来ない。


「応援してますよー」


 とくに誰かが襲ってくることは無いし、少しだけ居心地が悪くなってしまった。もちろん平和が一番だし襲ってこないのはそれはそれでいいのだが……


「全く、あの宿屋の店主、一晩で勇者の事言いふらしたんだな」


 もはや俺が勇者だと知らない人はいなかった。

 後ろ髪引かれる思いだが、さっさとこの村から離れてしまおう。

 少し早足になりながらも村の出口に向かう

 しかし


「君、勇者だよね」


 目は会わせなかったが確実に目の前に誰かが居た。

 俺はその横を通り過ぎようとしたが腕を掴まれる。


「待ってよ。僕も君について行っても良いかな。僕の名前はオリクエス」


「魔王退治だぞ。ついてくればお前も死ぬ」


「最初から決めつけは良くないよ。絶対死ぬとは限らない、勝てるかもしれない」


 そんな正義感で俺の心が動くか、白々しい。

 勇者とともに行動し、あわよくば自分の手柄にするつもりだろう

 と一瞬頭に考えがよぎったがこの村というだけで考えは変わる。


「何か理由があるのか」


「理由……理由か、魔王に会ってみたい。かな?」


 前言撤回。コイツ馬鹿だ。

 俺は溜息をつくとその場から立ち去――


 その場から去ることは出来なかった。


「ねえとにかくいいでしょ? ねぇったら!」


 しつこく迫る女々しい少年は何が何でもついてくる気だった。

 俺がいい加減にしろと言おうとした時、村人の1人が大声を上げた。


「今朝から様子が変だと思ったら俺の娘が病にかかった。それも普通の病なんかじゃねぇ とにかく変なんだ! 誰か診てくれっ!!」


 瞬く間に人が集まり幼い少女の様子を見た。

 汗をかき酷く苦しそうに顔をしかめている。見ているだけで辛くなる表情だ。

 俺も出来ることがあるならと様子を見に行ったのだが最悪の診断結果が分かっただけで告げることは出来ずその家を後にした。


「ちょ、ちょっとどうしたの!」


「あの娘は助からない」


「なんで!」


「あの娘は勇者の毒を吸っている。どこかに遠出した時に菌を貰ってしまったんだろう。この村人たちも一刻も早くここから離れないと一日持たずに死ぬだろう」


 勇者の毒と言えど直ぐに症状にかかるわけでは無いし、感染者から1㎞以内に24時間以上いなければ問題は無い。

 だが元の毒を吸えば時間に関係なく一発アウトだ。


「なんとかならないのかい」


「なんとかできるのならとっくにやっていた。勇者と言えど医者では無い。万能ではない勇者を勇者と呼べるのか? 全く役立たず過ぎて笑えてくるよ」


 しかし仮に医者だとしてもこの病を治すのは無理かもしれない。

 体を蝕むスピードが尋常ではないこの病はかかれば最後といわれている。


「そうか。なら君は早くここから出るべきだね。勇者でも感染するんでしょ」


 その言い方はまるでオリクエスもここに残るような言い方だった。


「当然だけど家族もここにいるんだ。残して村を出て行くわけにはいかない」


「それじゃあ魔王討伐だって無理な話だっただろう」


「僕は死ぬつもりはないからね。魔王討伐であろうと生き残る。絶対にね。でも家族が危機に陥ったら助けないと」


 あまりに勝手な言い分に唖然とするしかなく、ふざけているのかと思ったがそういう風にも見えない。

 ただただおかしなやつだと思った。

 だがそんなあいつを見て無理だとわかっていながらも俺も協力しようと思った。

 何かできるかもしれないなどと希望の無い期待をして……


 結果から言えば無理な物は無理だった。

 本で調べようが知恵を借りようが、少女を助ける術は見つからず、村人たちの目は涙でぬれていた。

 その村は村自体がまるで家族のように思えた。

 こんなのあんまりだと思った時、俺は思い出した。


「魔道具」


 俺は知らないうちに言葉にしていた。

 そしてポケットからコインを取り出すと透き通っていたそのコインは七色に鮮やかに輝きながらまるで使ってくれとでも言うように主張していた。


「それはなんだい」


 オリクエスが訊いてきた。

 俺はただ一言


「国宝の魔法が込められた万能道具だ。治す術は無いと思っていたがこれを使えば助けることが出来るかもしれない」


「待って、本当に使っても良いの、国宝だなんて言ったら城さえ買える額だよ」


「どうせ使い道なんかないさ。人一人の命が救えなくて勇者なんて名乗ってられるかよ」


 コインを少女にかざすとそのコインが粉上に変わり少女の体を通り抜けて行く、そして同時に少女が目を覚まし何食わぬ顔で「おはよう」何て言ってくる。先ほどまでダラダラと汗をかきながら苦しんでいたのが嘘のようだった。




「まさか村を救っちゃうなんて流石勇者だね」


 村を出て歩く俺の隣にはオリクエスがいる。

 あの少女を助けてからというものの、何を言ってもついて来る。


「勇者って言うのは凄いよ。僕に出来ない事をやってしまうんだから」


 こうして勇者は美少年オリクエスを仲間にして魔王討伐の旅に出た。


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