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竜となったその先に  作者: おかゆ
第五章 竜達の神殿
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第81話 現われた謎

 セトが飛び去った先は、依頼元の村だった。その一歩手前で降りたち、人化して透明化を解いた。

 村に着くと、早速村長の元へ向かった。その途中、恐らくイノシシにやられたのであろう、倒壊した木造の家や小屋、荒らされた食糧庫などを目にした。


「酷いな…」


 村人は家の中に閉じこもっているようで、外には誰もいない。


 村長の家につくと、人のよさそうな小太りな中年男性が出てきた。その人が村長だと名乗り、ひとまず家の中に入れてくれた。


「すんませんねぇ、イノシシがいつやってくるか分からんもんで、迂闊に外に出られないんですわ。こういうものしか出せませんが、まずは長旅ご苦労様でした」


 そう言って村長自ら冷たいお茶を出してくれた。


「いえいえ、ありがとうございます。ところで、早速ですが、巨大なイノシシというのは、どのくらい巨大なんですか?」


「そうさなぁ…。普通のイノシシの2,3倍はあるんでないかな。色もなんだか黒々としているし、牙も妙に多い…」


 そりゃあただのイノシシじゃなくて魔獣だよ村長。と言おうかどうか迷ったが、ただでさえ怖がっているのにこれ以上怖がらせる必要はないなと思い、黙っておくことにした。


「なるほど、分かりました。では、早速これからイノシシ退治に行ってきます」


 ルティとカスティはそれを聞くとお茶を飲みほして立ち上がった。


「こ、これから!?もう少し休んでいかれてもいいんですよ?」


「俺たちはそのために来たんですから、お構いなく」


村長ににっこりと笑顔を向けて、大丈夫、安心してくださいと声をかけた。

行ってきますと言って村長宅を出て、さっそく妙に魔力が密集している林の中へと足を踏み入れた。


「セトさあ、ほんとにどこで育ったの?人間にここまで慣れ慣れしい竜、僕見たことないんだけど」


 不意に、カスティがそんなことを言った。


「え、変か?」


「変じゃないけど…いや、変かな…。野生の竜にしては変かも?」


 野生、ね。自分の今の状態を野生と言えるのかどうか微妙なところだ。

 目を覚ましてから数日はルティと野山を駆け回って、それはそれは野生そのものだったが、ウルテカ村長の村に居ついてからはずっと人間と暮らしているわけで、野生感が全くない。


「ルティ、何を持って野生とするんだ?俺はとりあえず野生な気がしない」


 苦笑いしながらルティに問うと、ルティもうーんとしばらく考えてから首を傾げた。分からないようだ。


「僕は、竜に関しては人間と契約を結んでいない状態が野生だと思うな。さっきの竜達も言ってたじゃない、首輪付きって。契約しちゃうと野生じゃなくなるんだよ」


「そんなもんか?」


 カスティはそうだよ、と頷いた。


「だからね、傷をつけられた相手に手当てしてもらっても、そこにセトほどの信頼感は生まれないわけ。最初は人間に近寄られるのも嫌だったんでしょ?それがどうしてそこまで近づけるようになっちゃうの?…僕が言うのも変な話だけどね」


 セトは返答に困った。それは以前、たぶんきっとあった世界で、自分自身が人間として生きていたかもしれないから、とは言えない。


「人間が、あの竜達が言うようなそこまで悪い種族じゃないって知ってるから…かな」


「…ふーん」


 なんとも要領を得ない回答だったのは自分でもわかってる。この中途半端な別の世界の記憶はなんなんだ。今もっとも俺が知りたいのはそれだ。何かの些細なことで不意にその断片がよみがえるが、それでもよく分からないことばかりだ。


「まあ、いいじゃないか、そんなこと。あ、ほら、あれじゃないか?イノシシ」


 セトが指さした先に、何十頭いるんだろうというくらいの数の黒々とした巨大なイノシシの形の魔獣の群れがいた。その口元には鋭く伸びた牙が両サイド合わせて合計6本。

 村人に犠牲者は出ていないそうだが、不幸中の幸いだったのだろう。あの巨体にあの牙だ。人間が突進されたらひとたまりもない。


「さてさて、あの大群をどうするか」


「僕の魔法で群れごと拘束して、セトとルティが焼き払う」


「悪くないが、お前あの大群囲めるのか?」


 カスティは胸を張って「楽勝」と答えた。流石、一度は神竜を捕まえただけある。


「でも、焼いちゃうと林に火が移っちゃいますよ」


 ルティの言うとおりだ。林に被害が出てしまってはまずい。


「じゃあ水攻めはどう?皆で水魔法であの大群を囲んで、そのまま溺死させる」


 この数だ。一頭ずつ殺していたら面倒だ。その作戦が一番いいかもしれない。


「えー、セトさんの風魔法で一気に切り裂いちゃえばあっという間ですよ?」


「それもいいかもと思ったんだけど、魔獣ってやたらと回復力強いから、エネルギー源の空気を無くしちゃった方がすぐに死ぬと思う」


 小さい子二人がものすごく怖い話をしている…。


「と、とりあえず、水攻めでいいな?」


「「はーい」」


 ルティとカスティが返事をしたところで、セトは二人を空中へ移動させ、イノシシの群れの全貌が見える位置で止まった。


「よし、攻撃開始!」


 セトの合図で全員が魔法を発動し、群れの周りを水の壁で取り囲んだ。そしてその中を一気に水で満たす。もがいて逃げ出すイノシシがいないように、3人で息を合わせてそのまま水の檻を宙へと浮かせた。これで足場がなくなり、水の檻から逃げ出すことは不可能となった。

 泳ごうにも中に水流を作って外には出られないようにしてあるため、完全に逃げ道はない。


「あとは窒息するのを待つのみですね。これが普通のイノシシだったらカスティも食べられたのに」


「魔獣って水中でどのくらい息続くんだろう。叫んでるんだろうけどほとんど水の壁でほとんど遮断されて分かんないや」


 子供って残酷!怖い、何この子たち!

 そう思ってげんなりしていたとき、不意に念話が届いた。


『やめてヤメテやめて苦しイ!!!!』


 ハッとなって水の檻を見る。今の念話は明らかにその檻の中からだった。


「ちょ、全員攻撃やめ!」


 反射的にルティとカスティが魔法を解いた。セトはすかさず群れに拘束魔法をかけた。


「なんで急にやめちゃうのさ」


「セトさん?」


「しっ、今念話が届いたんだ」


 セトは群れを見渡した。イノシシ達がセト達を凝視している。


『攻撃をやメテくれてアリがとウ』


 その中の目に傷のある一際大きなイノシシが念話で話しかけてきているのが分かった。


『お前たち、なんで人間の村を襲うんだ?』


 イノシシがプギッと一鳴きした。


『ここには食ベ物がナイかラ』


『食べ物がない?今までどうやって生きてきたんだ』


『俺たチはココに連れてこらレタ』


 連れてこられただと?いったい誰に…。


『じゃ、じゃあ、もともと住んでいた場所は分かるか?俺が帰してやろう』


 途端、イノシシ達が一斉に鳴きだした。それが、喜んで鳴いているのだとすぐに分かった。


『俺タチがイタのハここカラ西に山一つ越えたところにアル森ノ中』


『分かった』


 セトはイノシシ達と話したことをルティとカスティにも伝えた。2人も分かったと頷いた。竜体となり2人を背に乗せて、イノシシ達の群れを浮遊魔法で浮かせ、透明化をかけて西の山を越えた森へと送り届けた。


 森の中には彼らと同じようなイノシシ達がいて、彼らの帰還を喜んだ。しかし、彼らは誰にあの林まで連れてこられたかは分からないという。気づけばあの林にいたと話した。


 ひとまず別れを告げ、セト達は林に戻ってきた。


「んじゃあとりあえず、村長にミッションクリアを報告しに行きますか」


 意気揚々と村に戻ろうとしたとき、背後に怒った竜の気配を感じて振り返ると、真っ赤な鱗を持つ…サラマンダーが大きな口を開けて威嚇していた。


「え…」


 その口から赤々とした炎が噴き出す。ルティとカスティを自分の背に隠したが、突然すぎ防御が間に合わず、炎を防いだ左手に竜の鱗を纏ったが不十分で火傷を負ってしまった。


「くそっ、なんだこいつ!」


 サラマンダーは念話を発することもなく今度は前足で襲い掛かってきた。人間の体ではもたない。

 セトは再び竜体となり、その前足を足で踏みつけた。


『なんでサラマンダーがこんなとこにいる!?』


 サラマンダーの口から、再び炎がちらついた。


サラマンダー登場はカスティのとき以来ですね。

いつかサラマンダーの住処にセト達を連れていきたいです

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