第8話 トクサと俺
二度寝に落ちてからそう時間は経っていないと思う。
なにやら外が騒がしいなと思って、割とすぐに目を覚ますこととなった。
「・・・なんだ? 騒がしいけど・・・」
『あ、起きたんですね。 ぼくも今まで寝てたんですけど、騒がしくて起きちゃいました』
起きたところで、二人で外の様子を音だけで窺ってみた。
「・・・い・・・たか?」
「いや・・・」
「あの量じゃ・・・・いと思・・・・たが・・・」
遠くで話しているのと、魔力が足りず聴力が落ちているせいで、会話がなかなか拾えない。
「ルティ、聞こえたか?」
『はっきり聞こえたわけではありませんが、たぶんセトさんを探しているんだと思います』
・・・あぁ、なるほど。
あの時はなんか必死だったから、何も考えないで無断で抜け出してきたからな・・・。
だんだんと、村人がこの馬屋に向かってくる足音が近づいてきた。
村人Aの顔が入り口にのぞいた。
「あ」
まさか、ここにいるとは思わなかったのだろう。
Aの口がパカッと開いた。
「お、おはようございます・・・」
とりあえず、挨拶。
Aはあたふたとその場で変に慌てて、
「お、おはよう・・・ございます」
と、微妙な挨拶を返してきた。
そして、ハッとなって外にいる他の村人に呼びかけた。
「りゅ、竜様はここにいた!」
すぐに、どたどたと何人もの足音が聞こえ、馬屋の入り口に何人もの顔がそろった。
ルティと寄り添うようにしている俺を見て、皆忙しなくルティと俺を交互に見た。
「りゅ、竜様、なんでここに?」
「・・・」
なんでと言われましても、ルティのことで無我夢中で・・・とは言いずらい。
俺がなんて返答したらいいか迷っていると、
「あの・・・動けたんですか?」
という質問がとんできた。
声がしたほうを見ると、あのトクサだった。
「・・・さっき動けなくなったとこだ」
ここで強がっても仕方ないか・・・と観念して、正直に話した。
村人達は、俺が動けたことにかなり驚いているようだった。
「あの量で動けるなんて・・・」
「流石は竜様だ」
村人達が顔を合わせて驚いている中、トクサはスッと前に出てきて俺の前まで来た。
俺は、故意にではないが俺に毒を盛った彼を少なからず警戒していたために、少し身体がこわばった。
何をするのかと思えば、彼は手を差し出してきた。
「・・・竜様がこんなことになったのは、すべて僕のせいです。 お嫌でしょうが、どうか僕にも手当てをさせてください。 責任を取りたいんです。 ・・・竜様、まだ毒が抜け切っていないのでしょう?」
トクサの目を見た。
真っ直ぐな、とても綺麗な目をしている。
(トクサはきっとすごく優しい青年なんだな・・・)
勝手だが、そう思って俺はトクサの手を取った。
トクサは一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔になった。
「ありがとうございます、竜様!」
「・・・セトだ。 そう呼んでくれ、トクサ」
俺が名乗ると、トクサは目に涙さえ浮かべて、
「はい、セト様!」
と力強く返事をした。
(様付けはできればやめてほしいんだけどな)
村人達はそんなトクサと俺の様子を見て、笑ったり泣いたりして喜んだ。
馬屋から出る前に、俺はルティを檻から出すように頼んだ。
事情を話すと村人達も分かってくれたようで、ルティはやっと檻の中から出ることができた。
・・・後に、どうやら俺はあの小部屋で目覚めたとき、すでに倒れてから5日経っていたらしいことを聞いた。
動けなかったのは魔力のせいかと思ったが、それだけではなかったようだ。
馬屋から戻ってあの小部屋のベッドに寝かされた後、俺はまた気を失ったらしい。
目を覚ましたとき、トクサからそう聞いた。
そのときにはもう、傷はまだまだ完治にはいたらなかったが、魔力はほとんど回復していた。
そのため、角もちゃんとしまうことができていた。
俺は、7日ぶりの食事にありついていた。
「セト様、どうですか? そのお芋はこの村で取れたものなんですよ」
『まじで?めちゃくちゃ旨いな、このスープ』
食べているときは普通に話せないため、念話を使って話していた。
ちなみにトクサは料理が上手い。
俺が今食べているポトフ系のこのスープも、トクサが作ったと聞いて驚いた。
トクサはトクサで、最初竜の俺が何を食べるか分からなかったために、かなり悩んだらしい。
起きた俺がボソッと漏らした、「スープ飲みたい・・・」を聞いて、何を作るかを決めたらしい。
生肉を食べた俺が、人間の食べ物を食べれるんだろうかと思ったが、普通に旨い。
が、生肉とどっちが美味しい?と聞かれるとちょっと困る。どっちも旨いのだ。俺には決められない。
ルティも食事にありついている。めっちゃ念話しているが、俺にしか聞こえていない。
・・・しばらくはこの生活が続きそうだなと思った。