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竜となったその先に  作者: おかゆ
第五章 竜達の神殿
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第78話 ギルド

 ガチムチと別れた後、ハンターギルドのことを聞くことをすっかり忘れていたセト達は、街の人にギルドの場所を教えてもらい、街の中央にあるというギルドに向かった。

 普通、街の中央といえば特に賑わっている場所で、それこそ人や店が多く立ち並んでいる・・・なずなのだが、中央に行けばいくほど、なんだか人の影を見なくなり、店も開いてるんだか閉まってるんだかという怪しさだ。

胸騒ぎ、というほどのものではないが、嫌な予感もしてきて、だんだんと足取りは重くなっていく。


 そうこうしているうちに、目的のギルドと思しき建物の入り口に立っていた。以前は鮮やかな白と青で彩られた綺麗な建物だったのだろうが、今はその塗装の大半が剥がれてしまい、遠目から見ればボロいログハウスだ。

 しかも、一度も塗装し直した様子もない。


「酷いな」


 元修理屋のセトは見かねてそう呟いた。

 意を決して中に入ろうとしたとき、中から怒声が聞こえてきた。3人でビクッと固まり、顔を見合わせる。セトはルティとカスティにその場で待つように言った。

 こんな危なそうな場所に無垢な子供を二人も連れていけるか。


 セトが今一度意を決して建物内に一歩足を踏み入れると、まだ昼間だというのにアルコールの臭いがむわっと鼻に突き刺さった。しかし酒を飲んでいるのは一部の壮年を迎えたハンター達で、建物の隅の方で数人で飲んでいるだけだった。

半数以上のハンターは依頼書が所狭しと貼ってある掲示板に群がって依頼に目を通している。武器や防具の手入れをしている者もいる。

喧嘩をしていたのは、酒を飲んでいた2人組だった。


「おいてめぇ、もういっぺん言ってみやがれ!」


「何度だって言ってやるよ、この負け犬が!」


「んだとぉ~!」


 セトの目の前で、とうとう取っ組み合いの喧嘩が始まった。

 セトはため息を吐き、喧嘩している2人をかわしながら受付嬢と思われる女性がいるカウンターへと向かった。


 青を基調としたメイド服を着た女性は、2人の喧嘩を止めるでもなく、珈琲(らしき飲み物)を飲みながらその様子を頬杖をついて退屈そうに眺めていた。


「あのぉ・・・」


 セトが遠慮がちに声をかけると、彼女は今気が付いたというように視線をセトに移し、まっすぐセトの目を見据えた。

 しかしそれだけで、彼女は何を言うでもなくセトを見つめるばかりだった。それが、用件は何?と言われているようで、セトは慌てて言葉を紡いだ。


「あ、えっと、ここはハンターギルド・・・で、あってますか?」


 彼女は頷く。


「俺と、あと外に2人いるんだけど、合わせて3人、ギルドに入りたいんだ。手続きをお願いできるかな」


 セトの言葉を聞くと、彼女は無言でカウンターの下から3枚の小さな用紙を取り出してセトに差し出した。それを片手で受け取り、内容を確認する。

 名前と国籍、使用武器を記入する欄があるだけで、それ以外は何もなかった。


「え、これだけ?」


 女性はじろりとセトを見る。容姿はとんでもなく可憐で可愛いのにこの態度がすべてを台無しにしている、と感じた。

 セトが何も言えないでいると、彼女は短く息を吐いて初めて声を発した。


「書くもの書いたらそのあとでいろいろ調べる。とっとと書いてわっちのとこに持って来い」


 口は悪いがなんて色気のある声を出すんだこの人は・・・。思わず生唾を飲みそうになった。


「わ、分かった」


 ひとまずその場を離れてルティとカスティが待っている外に出た。2人は出てきた俺を見ると少しホッとした表情を見せた。


「すまん、遅くなった。とりあえず各自これを書いてくれ」


 2人に用紙を渡し、セトも用紙にペン先を向けた。が、すぐに手は動かなくなった。名前は呼び名だけ、国籍なんてない、使用武器は魔法とでも書いておくか。


「・・・どうしたもんかな」


 ちら、と2人の用紙をみれば、2人とも使用武器のところで迷っているだけで、名前と国籍はきちんと書いている。2人ともグランティス大王国と記入していた。

 ・・・俺は?俺はいったいどこで生まれた?どこの国に所属している?グランティスと書いていいものか、否か。名前も・・・。


「俺は誰だ・・・」


「何か言いましたか?」


 しまった、また口に出してしまっていたようだ。ルティが不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。なんでもない、と笑って、素直にセトという呼び名と、グランティスという去った国の名前を遠慮がちに記入した。

 そして今度は3人一緒にギルドの中に入った。中ではさっきの二人組がまだ喧嘩をしていた。ルティとカスティはそれを横目に見ながら、セトの着物を掴んでついてきた。

 カウンターにいた女性は、セトがギルドに入ってきたのを確認するとカウンターの奥からなにやら大きめの木箱を抱えてカウンターから出てきた。

 それを見たハンター達が、なにやらセト達に興味を示しだした。


「あれ、クーちゃんそいつら新人?」


「めっずらしいなー。どこからかの派遣とかじゃなくて?」


「なんだ、まだ子供じゃん。あ、でもそっちの黒い変な格好した兄ちゃんはなかなかのイケメンだな」


「ホントだ。マスターが好きそうだな」


 また好き勝手言われてるなーと思いながら、それらの言葉は聞かないようにしてクーちゃんと呼ばれた彼女についていく。

2階へと続く階段を上ると、そこは小奇麗な客間になっていた。


「ん」


 彼女はソファを指さした。どうやら座れと言っているらしい。3人は大人しくソファに座る。


「・・・えーっと、調べるって言ってたけど、何を・・・?」


 お茶を入れながら、彼女は肩にかかるくらいの綺麗な群青の髪を耳にかけてセトを見る。そうして視線をお茶に戻してお茶をすべて入れてセト達の前へ置き、自らも向かいのソファに座ってお茶を一口飲んだ。そして口を開く。


「魔力量とか、犯罪歴とか、種族、得意なこと、狩りの経験なんかも聞く」


「犯罪歴・・・?」


 疑問を口にしたルティをぎろりと見やる。ルティはヒッと短く喉を鳴らしてセトにくっついた。


「今、マスターが来るからそれまで待て」


 とことん、必要最低限のことしか口にしない人だ。こんな子を受付嬢にしたマスターがどんな奴か、若干興味が湧いた。

 それから、数十分経った。・・・遅い。


「マスターが来るまでどれくらいかかりそうなんだ?」


「知らぬ」


 そうきたか。まいったな、今夜の宿はまだ予約していない。セトは街に入った段階でどこか予約しておくんだったと後悔した。

 はあ、と小さくため息を吐いたとき、下の階から誰かが上がってくる足音がした。おそらくマスターだろう。

 3人は、やっときた!と顔をほころばせる。


「待たせたねクー。それからお客人、我がギルドにようこ・・・そ・・・っておや」


 セトの顔が引きつった。なんてことだ。どうしたらこんなことになるんだ。

なんの巡りあわせか、ここのギルドのマスターはあのガチムチ男だった。


「やあやあハニーじゃないか!さっきぶりだねぇ!」


 セトの額に青筋が浮かんだ。


「お前、まだ言うかこの筋肉達磨!!」


 瞬間、セトの言葉を聞いたクーと呼ばれた彼女が突然立ち上がり、セトに目にも留まらぬ速さで瞬時に距離を詰めると、太ももに仕込んであった短刀をすばやく抜いてセトの額めがけて刺しかかった。

 セトは咄嗟に防壁を張って攻撃を防ぐと同時に右手で手刀の形を作りそこに魔力をこめてチェーンソーのように魔力を回転させ、彼女の喉元に突き付けた。


「2人ともやめ!」


 ガチムチが叫んだ。2人は大人しく武器と魔力をひっこめ、距離を開けた。

 ルティとカスティは突然のことに状況が飲み込めなず、あたふたしていた。


「クー、客人に謝りなさい」


 マスターに注意された彼女は、視線はまだセトを睨みつけたまま、片頬をぷくっと膨らませて文句を言った。


「だってあのひょろひょろがマスターを悪く言った」


「謝りなさい」


 それでもなお同じく注意されたため、むーっと膨れてから極々小さな声で謝った。


「・・・ごめん」


 クーと呼ばれた彼女はしぶしぶ、といった様子でセトに頭を下げた。


「どっちかっつーとな、俺はあんたに謝ってもらいたいんだけど?」


 セトは彼女を気にしながらガチムチを睨んでそう言った。


「ん?ああ、そうか。腕相撲に君が勝ったらハニーと呼ばない約束だったね。すまない」


 あっさり謝られて拍子抜けした。


「とりあえず、座ってくれ。まさかうちのギルドの志望者だったとはね」


 俺はお前がここのギルドのマスターだってことの方に心底驚いたよ。


「さて、まずは自己紹介といこう。私はラッキーハートという。この子は受付のクーフェイだ」


 ラッキーハートはクーフェイの頭を撫でながらそう言った。


「俺はセト。で、こっちがルティ。こっちがカスティ」


 名を名乗ると、ラッキーハートはよし、と頷いて部屋の箪笥から何やら大きな透明な石が付いたペンダントを持ってきた。


「ハンターギルドについて簡単に説明させてもらうよ。ハンター達は皆この最初のギルド登録の時に魔力を測定して、その他の運動技能や戦歴、経歴を見て、それらを総合的にまとめてハンターランクというのをもらう。因みにランクはCからSまであるんだ」


 そこまで説明すると、彼は「とにかく測ってしまおう」と言ってペンダントをカスティの手のひらの上に乗せた。すると突然透明な石がまばゆい光をはなち、そしてその光は徐々に青や水色に変わりながらカスティを丸く包んでいった。

 ラッキーハートはなにやらメモを取り、カスティの手からペンダントを預かった。


「うんうん、その年にしてはなかなかいい魔力の量と質だね!ずばらしい!これは有望な新人がきたね」


「光、綺麗」


 クーフェイが無表情にそう言った。


「はい、じゃあ次はそこのふわふわな君」


 次にペンダントを手のひらに乗せたのはルティ。カスティの時と同じように光を放つと、その色は黄色や橙色に変わりながら、カスティの時よりも大きくルティを丸く包んだ。

 ラッキーハートはその様子を見て目を見開いている。表情という表情を見せなかったクーフェイも、少しであるが目を見開いていた。


「これはすごい!ルティくんとカスティくんだったね?2人ともどんな環境で育ってきたのかな。とても興味深い」


 そしてルティから受け取ったペンダントが、セトの手のひらに乗せられた。セトはかなり不安だった。どうも魔力量が随分と正確に測られてしまうようであるため、自分の魔力を隠す魔法はこのペンダントには通じないのではないかと。

 結果はその通りで、この透明な石はいかなるごまかしもきかないらしい。


 石は前の二人同様まばゆく光ると、確実に黄色ではない、輝きを持つ黄金の光を放ちながら、セトを丸く包んだ・・・はずなのだが、その円の輪郭が見えない。部屋は石から放たれた黄金の光で満たされている。

 ラッキーハートの手から、持っていたペンが落ちた。クーフェイは口元に両手を当ててセトを凝視している。


「なん・・・だと・・・!?」


 どこかで聞いた覚えのあるセリフだな、と一瞬思った。


「こ、故障か、石の寿命かな」


 ラッキーハートはそう言っているが、その口調からそんなことはありえないということが分かる。


「い、いや、しかし・・・こんなことは・・・」


「ありえぬ・・・です」


 クーフェイが取ってつけたような敬語を話した。明らかに動揺している。

 ルティとカスティが、2人の様子を面白そうににやにやと見つめていた。


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