第74話 真実
城下町は異様なほど普段通りで、城でなんにも起きていませんよというかのような明るい賑やかさだった。しかしいざ城に着いてみると、いつもいるはずの見張りの兵や見回りの竜騎士がまったくみあたらない。これはおかしい。異常事態だ。
人間体になり、見張りのいない城の中へゆっくりと入っていく。やはり、城内も人の気配は感じられなかった。いや、正確には、ある部屋を除いてだが。
「王の間・・・だな」
セトの呟きにギルバートが頷いた。
王の間から、異様な魔力を感じるのだ。そしてそれは間違いなくルーネのものだった。
何故だという問いは今すぐにでも口を出てしまいそうだが、そんなことは今ここにいる誰もが知らないことは分かり切っているため、何度も何度もその言葉を飲み込んだ。
そうして、王の間の大きな扉に手をかけた時、内側から弾むような声がした。
「待ってたわよ、セト様」
ルーネの声だった。それを聞くが早いか、セトは扉を勢いよく開けた。
開け放した扉の中、王の間には、アーサーを含めた数多くの使用人と兵と竜達が転がっていた。その中で、ルーネただ一人が王の間の中央に立ち、まっすぐセトを見据えていた。
「思ったより早かったわね。もう2,3分かかるかと思っていましたわ」
にこやかに笑う、いつもと何も変わらないルーネ。
師匠である彼女にカスティは喜んで飛んでいくかと思ったが、当の本人はなぜか複雑な表情で固まっていた。
「・・・何故です」
そう問いかけたのはセトだった。
「そりゃあ村から来るんですもの、セト様の翼といえどもう少しかかるはずだと思っ・・・」
「なんでこんなことをしているのかを聞いてるんだ」
ルーネの言葉を遮り、セトはルーネをキッと睨んだ。語尾が荒くなったのは、その余裕ぶりにイラついてしまったからだろうか。
睨まれたルーネはしかし、ふふっと柔らかくほほ笑むと、セトの問いに素直に答えた。
「あたしの弟子を返してもらうためよ」
カスティが戸惑ったような、困ったような「えっ」という声を漏らした。
そんな弟子の様子を気にすることなく、彼女はまるで我が子を迎えるかのように両腕を広げて言う。
「さあカスティちゃん、こちらにいらっしゃい」
しかしカスティは動かない。どころか、その場から一歩下がった。
「師匠・・・どうして・・・」
ルーネはおびえた様子の弟子を見て、広げた両腕を静かに下ろして小さなため息を吐いた。
「カスティ、あなたをセト様から返してもらうためだって、今言ったばかりでしょう?」
ルーネの答えにカスティは首を横に振った。
「違う、そうじゃない!僕を取り返すためならわざわざこんなことをしなくてもよかったはずでしょう!?」
セトもカスティの言葉に被せるように言い放つ。
「そうですよ、カスティを取り戻すためならこんなことをする必要ないはずです。それに、俺はあなたに聞きたいことがあってここにきました」
ルーネが初めて眉をひそめた。
「・・・何かしら?」
意を決して、ルーネに問い掛ける。
「ルーネさんあなた、カタリナの町の屋敷の主人の妻だったんですか?」
「そうよ」
とんでもない事実を、いとも簡単に教えてくれたことに驚き、セトは一瞬耳を疑った。
しかしここで慌てては相手のペースに飲まれてしまいかねない。一度深呼吸をして、次の質問をつなぐ。
「・・・では、村にしばらくいたというのは嘘ですか?」
「いいえ、村の人たちにとっては本当よ」
なるほど、そういう事か。矛盾が解けた。
カスティとルティの記憶違いの理由がやっとわかった。
「あなたお得意の魔法ってわけか。記憶操作・・・ですね」
ルーネはそれを聞くと満足そうに笑った。
「ご名答!そうよ、あの村を訪れるようになったのはセト様達が村に来る数日前からよ。ルティ君の記憶は檻に入れられてた時に変えさせてもらったわ。私が屋敷にいたことを知られるのはちょっとまずかったから」
ということは、カタリナの町の情報はカスティの記憶が正しかったわけだ。
「その様子だとカスティちゃんから話を大体聞いていたみたいね」
「ああ。それと、あの仮面を作ったのもあなたですね」
もうおおよそ予想はついているが、念のための確認だ。
「そうよ。とっても苦労して作ったのだけれど、あの魔術式はセト様には簡単すぎたかしら?」
楽しげに笑うルーネに、カスティが問いかけた。
「師匠、僕の質問に答えて。どうして王様と皆を動けなくしているの?師匠はそんなことする人じゃなかったじゃないか。僕を取り返したいだけならこんなこと・・・」
カスティの訴えを遮るように、ルーネが大きなため息を吐いた。
「ああもう、面倒ね。分かったわよ、あんたのことは諦めるわ、カスティ」
あまりにも急な手のひら返しにその場の全員が固まった。
「・・・え?どういう・・・」
「嘘の説明が面倒になったのよ。ここらが引き際ってところかしらね。これから私があなたたちにかけた記憶操作魔法を解いてあげるわ」
「おいちょっと待て!!!」
セトの制止も聞かず、ルーネが指をパチンと鳴らした。
途端、セト以外のその場にいる全員が頭を押さえ、一瞬だが苦しむ様子を見せた。
「どうした!!?」
蹲ったルティに駆け寄る。
ルティは痛みに耐えるように声を振り絞って言葉を紡ぐ。
『思い・・・出しました・・・。カスティとルーネさんが屋敷にいた記憶・・・』
どうやら本当に記憶が戻ったらしい。
しかし、苦しんだところを見るとカスティまで記憶を変えられていたらしい。
「カスティ、何か思い出したのか」
問いかけると、カスティは虚ろになった目からぽろぽろと涙を流し始めた。
ただならないと感じたセトはカスティの肩を揺さぶって問いかける。
「カスティ!何を思い出したんだ!?」
すると、ハッとなったカスティは己の肩を力強く掴んでいるセトの目を見つめて言った。
「セ、セト・・・。僕、は・・・僕の家族は・・・あいつに、ルーネに殺されたんだ」




