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竜となったその先に  作者: おかゆ
第四章 別れと出会い、旅立ち
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第73話 反逆

突然だが、“記憶をいじる”という魔法は本来非常に高位なものであって、誰でも使える魔法ではない。

 ウルテカやルーネがあまりにも簡単にお手頃に使っていたせいでそんなイメージはなかったかもしれないが、本来は最高ランクの魔法使いが最後の切り札として使うような類の魔法だ。

 

何故そんな高位の魔法をウルテカやルーネがああもやすやすと使えていたかというと、幼い頃からの英才教育と呼ばれるものの影響が非常に大きい。

 魔力量も相当量必要な記憶変換魔法は、英才教育云々でどうにか習得できるような魔法ではないが、そこは二人の才能が優れていたことでどうにかなってしまったのだった。

 生憎グランティス国王の一男で後継者のアーサーには、魔法の才はおろか武術の才もほぼなく、自分には無駄だと悟った彼は早々に努力を諦め、経済や法律など国に関わることや、大好きな竜の研究などに青春を注いだ。


 一方魔法の才に秀でたその妹ルーネは成長とともにその才覚をどんどん現し、幼くして新たな魔法を編み出すまでに育った。

 そうして自分の周りには自分に何かを与えてくれる存在がいないことに気付くと、さっさと自ら家を捨て、上を探した。


 弟ウルテカはというと、魔法の才はルーネには今一歩及ばなかったが武術の才に秀で、こちらも若くしてグランティス王国お抱えの防衛長官を完膚なきまでに叩きのめしてしまい、その日のうちに竜騎士団の団長へ任命された。

 しかし幸運はいつまでも続かないもので、先の大戦で契約竜を失い、自らも体と心に大怪我を負ったウルテカはそのまま引退し、団長の座を一番弟子のラルクに譲り、城から遠く離れた今の村で村長として暮らすようになった。


 残されたアーサーは、可愛い妹と弟がいなくなった寂しさを紛らわすかのように、一層竜を愛するようになったのだった。







 + + +







「何故だルーネ! 何故このようなことをお前が・・・」


大広間に声が響く。その主は、両手両足を縛られたグランティス国王、アーサーだった。


「なんででしょうね、お兄様。 それは私が直接言わなくてももうすぐ分かるわ」


 ルーネがいつもと変わらぬ笑顔で微笑む。

 ああ、なんて面白いのかしらとでも言うように。


「ルーネ、いくらわしの妹だからと言って、やっていいことと悪いことが・・・」


「あら、そんなことはお兄様にわざわざ教えてもらわなくても百も承知よ」


 ルーネは少女のように軽やかに笑い、アーサーの頭を撫でた。

 妹の仕草、言動は何一ついつもと変わらないのに、アーサーは背を流れる冷や汗を止められなかった。

 何か違う、何かがおかしい。これは自分の知っているルーネであって、ルーネでない何かだ、と。


「お兄様? お顔が面白いわよ? まるで私を疑ってるかのような目をしているわ」


 アーサーは、そりゃ疑いたくもなると心の中でつぶやいた。

 ルーネを疑う前に、周りの状況が理解できないでいるのだから。


 今現在、アーサーの周りには、先ほどまでアーサーをルーネが投げつける魔法から防御していた警備の兵士や竜騎士、その竜たちまでもが倒れ伏し、起き上がれないで呻いていた。


「お前、この者たちに何をした?」


 己の顔が真っ青になっていることに気づきながら、聞かずにいられなかった。


「何って、見てのとおりよ? あたしの魔法で兵士さんと竜騎士さんは足の腱を、竜たちは魔力源を縛ったの」


 ルーネは説明を終えると、どう?すごいでしょ?とアーサーに問い掛けた。

 その笑顔に狂気さえ感じられた。


「そんな顔しなくても彼らは大丈夫よ、痛みは感じてないはずだわ。 傷もつけてないでしょう? お兄様は心配性ね」


「もう一度聞く。 ・・・では、何故このようなことをする? 何故わしを縛った? 何が目的じゃ?」


 ルーネはため息を吐いた。


「だから、もうすぐ分かるわよ。 だってお兄様もう知ってることだもの」


「・・・? どういう・・・」


 ルーネがアーサーの口に人差し指を当てた。


「シィー」


 クスッと笑うと、ルーネは床に転がったアーサーの隣に体育座りになり、|そのとき≪・・・・≫を待った。


「きっともうすぐ来るわ。 思い出したときに彼らが動ける状態だと困るのよ。 動けなくしたのはそのためよ」


 人と竜が倒れ伏しただだっ広い異様な部屋の中、ルーネだけがその部屋の入り口を見据え、微笑みを浮かべて座っていた。







 + + +







 セトはカスティとルティをその大きな背に乗せ、城を目指していた。

 しかし不意に、よく知った気配が城の方からすっ飛んでくるのを感じた。


『なんだ・・・?』


 誰の気配だっけと考えていると、その気配はすぐに目に見える距離にまで達した。そのシルエットは、ワイバーンだった。

 名前を思い出す前にそのワイバーンはセトの眼前で空中停止し、慌てふためいた様子で話し出した。


『セト様! 城が!!』


『あ、思い出した、お前ギルバートか』


『そ、そうですが・・・。 そんなことよりも! 城が大変です!』


 随分漠然とした報告だなと思いつつ、つまり?とその先を促した。


『ルーネお嬢様にグランティス城がのっとられました!!』


「・・・は?」


 カスティが目を白黒させて聞き返した。もちろん俺もルティもわけが分からない。

 どうしてルーネさんがそんなことをする必要がある?

 目的はなんだ?

 どうやってのっとった?竜騎士や兵士、竜の数はとんでもない数なはずだが・・・。


「ちょ、どういうこと!?」


 カスティがギルバートに問う。ギルバートはしかし、らしくもなく慌てており念話が成立しない。


『・・・とにかく、早く城へ行こう』


 俺の言葉にうなずき、ギルバートは人間体となって俺の背に乗った。

 それを確認し、俺は一気に加速した。


『いったい何がどうなってる・・・』


 分からないことだらけだが、今はとにかく先を急がなければ。


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