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竜となったその先に  作者: おかゆ
第四章 別れと出会い、旅立ち
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第69話 突然の別れ

自分が放った魔力をできるだけ吸収、分散し、事態を収めた。

なんだってあんなに興奮してしまったのかと自分を問いただしてみても、明確な答えが出てこない。

 

『セトさん・・・カスティはセトさんを利用しようとしたんですよ?』


そんなことは実際拉致られて操られた上、ルティを危険な目に合わせてしまったセト自身が一番よく分かっていた。


「でもカスティはさ、そうするしかなかっただけなんだよ。 まだあんなに幼いんだ、ちゃんと正しい生き方や幸せを教えてやれば、頭もいいし立派な大人になれると思う」


『でも・・・僕は嫌です、あんなにセトさんを苦しめたやつと一緒に過ごしたくありません!』


「ルティ・・・」


 ルティの言うことは最もだし、気持ちも分かる。

 今一番おかしなことを言っているのは自分だということも、分かっていた。しかし・・・。


「カスティは、本当はいい子だよ・・・、いい子なんだよ。 話せば皆それを分かってくれると思うのに、罪人だということだけでだれもカスティの話を聞いてあげないし、ハナっから聞く気もない。 まだ子供なんだ、人生をやり直す機会を与えてやったっていいと思うんだよ」


 ルティはそれでもなお、納得いかない様子だった。

 セトはそれならと、ルティをカスティのところへ連れて行った。

 久しぶりに会ったカスティは思っていたよりも痩せていた。


「お前、ちゃんと食べてるのか?」


「食べてるよ、出された分をちゃんと。 ・・・ああでも、以前に比べたら量が少ないかも? 気のせいかもしれないけどね」


 いや、気のせいなんかじゃない。カスティが最後に見た時よりも明らかに痩せているのは事実だし、生きると約束してくれたのだからカスティの言うことに嘘はないだろう。


「アーサー、お前の国は・・・いや、この世界は、罪人というだけで人権は剥奪されるのか」


 再び怒りが満ちてくる。

 そんなセトを見て、カスティは力なく笑った。


「仕方ないよ、僕はそれだけのことをしたんだから、当然の報いだよ」


「生きる権利は誰にでもあるんだ! だいたい、お前がここに閉じ込められてるのはグランティス王国がお前をそうしないと国民から反感を買うからっていう理由だけなんだ。 無事だったんだからいいじゃないか、お前は変わった、もうあんなことはしないだろ?」


 カスティは頷く。


「セトが、誰もが笑っていられる世界を作ってくれるって約束してくれたからね。 僕はそれまでここで頑張る・・・」


「ダメだ! こんなところにいたらいつか何かしら理由をつけて殺されるぞ、食量を減らされてるのがその証拠だ。 放っておけばどんどん減っていくのは目に見えてる。 お前は俺がここから出してやる」


 カスティには初耳だった。戸惑いを隠せない。


「え・・・? そ、んなことしたらセトが・・・」


『カスティを話し合いで出すことは不可能ですよ・・・。 セトさんがあんなに交渉してもアーサー様が動かなかったんですよ、無理ですよ・・・。 話を聞いて、僕も気づきました。 カスティはただ不幸なだけだったんですね。 出来ることなら出してあげたいですけど、アーサー様が動かないんじゃあ無理ですよ・・・』


「僕のためにそこまでしたの?」


 カスティは信じられないとセトを見る。


「僕、僕セトに、皆に、あんなに酷いこと、したんだよ? 許されるはずないよ、あんなこと許されていいはずないんだよ!」


「ああ、多くの人は許さないだろうな。 でも、被害者の俺とルティが許すって言ってるんだ、助けたいと言ってるんだ。 周りなんか知ったことか」


 カスティは尚も戸惑う。

 あれほど苦しめたのに、あれほど嫌な思いをさせたのに、どうしてここまで思ってくれるのかと。


「ダメだよセト、僕のせいでまたセトが苦しい思いをしてしまう。 皆セトが大好きなんでしょ? 裏切ったらダメだよ、僕なんかのために繋がりを失ったらダメだ、僕にそんな価値はない」


「価値だなんだってのは、自分で決めていいものじゃない! 第一そんなことは人間が勝手に決めた差別だ。 それに子供にはまだまだ未来がある。 ものを知らないんだから間違うのは当たり前だ。 それを正すのは大人の、社会の義務だと俺は思う。 それに、カスティがあんな事件を起こしたのだって元はといえば社会が悪かったからだろ? 大元をたどれば、悪いのは国王だ。 だというのに、スラム街には目もくれず、一般市民の世話ばかり・・・。 それもある程度裕福な層のだ。 弱い立場の声なんてちっとも届かない。 俺はそんなのは良い政治とは認めない。 そんなのは上辺だけ取り繕った偽物だ」


「でも、僕は・・・」


『セトさんの言うとおりだよ、おかしいよこんな政治』


 いつの間にかルティもカスティ救出に積極的になっていた。


「アーサーは悪い王だとは思わない。 でも、治すべきところはある。 気付いていないことに気付くべきだ。 それになにより、俺はお前に幸せを教えてやりたい、普通を教えてあげたいんだ。 それは悪いことか?」


 カスティは首を横に振った。


「でも、僕が幸せなんて・・・普通なんて、貰ってもいいのかな・・・」


「俺はもう決めた。 明日、ここからお前を出す。 どんな方法を使っても」


『僕も手伝います!』


そうして、三人で夜まで作戦会議をしていた。






翌朝。

 

「よし、やるぞ」


『はい』


 早朝、セトとルティが覚悟を決めた顔でカスティがいる地下牢へと向かう。


「思ったとおり、見張りは少ないな。 裏に回り込むぞ」


『はい!』


ルティとともに透明化魔法でカスティが閉じ込められているであろう場所の真上に立つ。

深呼吸をし、竜体になる。


 透視でカスティの位置を確認し、その場で地面を思い切り踏みつけた。


ドン!!


 爆発のような音が、早朝のグランティス城周辺に鳴り響いた。

 当然、城から多くの兵士や竜騎士達が事態を把握するために続々出てきた。彼らが目にしたのは、地下牢がある位置に空いた大穴。


「いったい何が・・・」


 誰かがそう呟いたとき、その大穴から巨大な竜が頭を持ち上げた。

 その口には大罪人、カスティがくわえられていた。


「セト・・・様・・・!?」


 ざわざわと動揺が広がっていく。


「何事じゃ!」


 今朝まで塞ぎ込んでいたアーサーが、流石に驚いて出てきた。そしてカスティをくわえたセトを見て固まる。


「セ、セト・・・? お主、何をしておるのじゃ・・・?」


 アーサーの声が震える。

 セトはカスティを背に乗せ、集まった人々を一瞥いちべつした。


「お主、何をしているか分かっておるのか?」


セトの目が光る。


『分かってないのはお前だ。 国民の声を聞かないからこうなるんだ』


「なんじゃと・・・? わしは皆の暮らしが良くなるように勤めてきた!」


『お前の言う皆とは誰のことだ? 城の周りの住民だけだろ。 城から遠く離れたスラム街の人たちを、お前は国民として見ていない』


 その言葉に、アーサーがハッとなった。

 図星か。


『カスティは被害者だ。 俺はこの子を育てる』


そう言うと、セトは翼を広げた。


「ま、待てセト!! 皆の者、セトを引き止めよ!」


 アーサーの合図で集まっていた戦士達が一斉にセトに向かってきた。セトの足、尻尾にしがみつき、飛び上がらせまいとする。まさか剣や槍を使うわけにはいかないと判断したからだろう。

 竜騎士達は陸から空から、セトが飛び上がるのを邪魔した。ワイバーンたちがセトの翼に絡みつく。

 しかし。


『どけ』


 セトの命令に、彼らは逆らえない。契約者の戻れという言葉を聞かず、大人しくセトから離れた。

 魔術師たちが拘束魔法をかけてくるが、セトにとってそれは蜘蛛の糸より容易くちぎれるものだ。全く意味を成していない。


『大罪人カスティは死んだ、そう広めてくれ。 それなら問題ないだろ』


 そしてついに、セトはその翼を動かした。天竜の巨大な体躯が、宙へ浮かぶ。

 地上には、困惑しきった人々の顔。


 上空まで舞い上がると、彼らに一言、『ごめん』とだけ言うと、姿を消して城を後にした。


 竜たちが、悲しく高い鳴き声をあげる。

 それはセトが見えなくなってしばらく続いた。


 アーサーは「何故」と問うが、答えるものは誰もいなかった・・・。


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