第67話 学院祭と天竜
最上級生によるステージ発表が、集まった人々を大いに楽しませていた。
魔法を専門に扱う学校としては最高位にあたるこの学校ならではの、最上級生による高レベルな変身魔法の数々。
それはそれは豪華なものだった。
その舞台裏で、待機するラストを任されている生徒が次々と出番で出て行く同級生にエールを送っていた。
一人は、このドラーク学院の最上級生の中でトップの実力を持つデルタ。
もう一人は、デルタには劣るものの、これまたトップクラスの実力を持つデルタの親友、ロム。
「いよいよ、俺たちの出番だな」
ステージ発表進行役の司会者が、ラストを飾る二人のことをこれでもかというほどに誇らしげに紹介した。
「さあ登場してもらいましょう! 今年度の我が学院上位一位と二位のコンビ、デルタとロム!!」
その声を合図に、二人はステージの真ん中に飛び出した。
ロムが二位かどうかは知らないが、それはきっとより盛り上がらせるためだろう。
「大げさだよまったく」
「まあ客の反応もよさそうだし、いいじゃないか」
「終わりよければ全て良し、と。 そういうわけかい?」
「そういうこと!」
二人の準備が整ったのを見て、司会者が二人に合図を送った。
その合図を確認し、デルタは天竜に、ロムはアーサー王に変身した。
会場から大きな歓声が上がる。
そこで、二人がサポートとして雇った一年生がステージ下から、魔法でセトとアーサーが大きく写った新聞を拡大して、変身したデルタとロムの前にかざした。
これで会場からはその新聞しか見えていない状態となった。
その数秒後、その拡大された新聞が大きくゆがみ破裂したかと思ったら、先ほど変身していた二人がその新聞と寸分違わぬポーズをとっており、観客を一瞬にして二次元が立体化したような感覚にさせた。
もちろん、割れんばかりの拍手が起こった。
その拍手が二人の耳に、体に、振動となって伝わり、なんともいえない達成感に浸った。
直後、会場に巨大な影がかかった。
何事だと空を見上げた観客たちは、次々に驚愕の色を浮かべていく。
デルタとロムはまだ気づいていない。
影はデルタとロムの真上に到達すると、そこでピタリと止まった。
デルタとロムが影にやっと気づき、見上げようとしたとき、学院中に轟く様な咆哮が降ってきた。
グルルァァァァアアアアアアァァアアアア!!!!
観客たちの拍手とは比べ物にならない音の振動。
ワイバーンでは作りえない、ありえない大きさの影。
はためく翼の音、風。
やっと空を見上げた二人が目にしたものは、二人の頭上に浮かんだ、巨大な足と、揺らめく尻尾。
それが、だんだんと自分たちに迫っていると気づき、慌ててステージの中央から端へと避けた。
間も無く、先ほど頭上にあった足が、ステージの中央へドシーンという音と共に付いた。
同時に、ステージにはまりきらなかった尻尾が、ステージの後ろの板をメキメキという音を立てて破壊した。
降り立ったその体躯には、ワイバーンにあるはずのない前足が存在した。
そしてその体色は目を奪われるほど綺麗な漆黒。
「本・・・物・・・?」
変身を解くのも忘れたデルタが、やっと発した言葉だった。
観客も誰一人、声を出せるものはいなかった。
そんな静けさに包まれた会場に、大きく、笑い声が響いた。
自然と声のする方に目を向けると、ステージの袖からロムが変身した人物、アーサー王その人が笑いながら出てきたではないか。
その姿を確認し、会場がどよめいた。
「そこの二人の出し物、なかなかの出来じゃった! 感心したわい。 しかしな、本物はこうじゃ」
そういいながら降り立ったセトの前に立ち、あの日とまったく同じポーズをとった。
それは先ほどデルタとロムがとったものと同じポーズだったが、デルタが変身した天竜の大きさと、実際の天竜の大きさとでは、月と鼈ほどの差があった。
ステージには、新聞にあったものとまったく同じ光景が作り出された。
数秒遅れて、割れんばかりの歓声が上がった。
その歓声でやっと我に返ったデルタとロムは、思い出したように変身を解いた。
すると、なんとアーサー王に手招きされているではないか。
二人目を見合わせ、おっかなびっくり天竜と王がいるステージ中央へと歩み出た。
アーサーは二人を自分の横に立たせると、両手を挙げて会場を静めた。
「グランティス王国の諸君、いきなりわしらが登場してさぞ驚いていることじゃろう」
観客が大きく頷いた。
「驚いてくれたのならわしもこの天竜も大満足じゃ! のう?」
天竜は目を細めてグルグルと喉を鳴らし肯定した。
しかし観客もデルタとロムも、今一状況がつかめていない。
今やこのステージに向かって飛んでいった天竜を目にした祭りにいた全ての人が、この会場に集まっていた。
「さて、ここで学院の生徒に問題じゃ! ここにいる天竜、いったい誰じゃと思う?」
その突然の問いかけに、最初は誰もが首をひねった。
しかしだんだんと、ハッとした表情になっていくものがいた。
そう、スティールのクラスの生徒たちだ。
角のことの記憶を消されたとはいえ、セトに対してその後もなんらかの違和感はあったのだろう。
そしてもちろん、デルタとロムは真っ先にピンときたようだった。
「どうやら分かった者も多いようじゃな。 わしの横にいるこの二人に、代表して答えてもらおうかの」
アーサーはそう言うと、二人を前に出した。
そして音声拡大魔法をかけた自分の拳を、二人の口元に持っていった。
二人は え、とアーサーを見る。
アーサーはにこにこしながら二人を促した。
「「セ、セトさん・・・?」」
半分まさかと思いながら、しかしやはりかとも思いながら言った。
二人が答えたと同時に天竜の姿が光り輝き、まぶしさに目を覆った。
再び目を開けると、そこにはよく見慣れたスティールの助手、セトが立っていた。
生徒たちが、教師たちが、一斉に驚きの声をあげた。
「これじゃこれじゃ、これが聞きたかったのじゃ」
アーサーは至極満足げに笑っている。
セトも、こうも綺麗に驚いてくれると気持ちがいいと感じていた。
ただ、一番近くにいたデルタとロムは腰を抜かしてしまっていた。
「なんだよ、お前ら半ば確信したような顔してたじゃん」
セトは苦笑いしながらそんな二人にそっと手を差し伸べた。




