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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第65話 昔々の物語

 廊下を走って教師に咎められながらも最低限の謝罪の言葉でその場を走り去る生徒。

 クラス内に響き渡る声でクラスメイトに指示を出すリーダー格。

 ふざけている男子生徒に注意をする女子生徒。

 そんな周りのことなど気にもしないで黙々と作業を続ける数名の生徒。


 ドラーク学院祭まであと一週間のこの日、学院内は上級生も下級生も上位の生徒も下位の生徒も入り混じって大忙しだった。

クラスを受け持つ教師やその助手もクラス内の出し物や教室の飾り付け、企画の準備などで休む暇なく学院中を動き回っていた。


もちろんスティールやセトも例外ではなかった。

一年生のクラスを持つ教師は2、3年生のクラスを持つ教師よりも苦労は多い。

なぜなら、一年生は「ドラーク学院祭」というものの経験を主催者側からしたことはないからだ。


ドラーク学院は国内外から人が集まるかなり大きなイベントで、集まる人も貴族、王族が多いために手を抜くことは許されない。

そんな大きなイベントに、これまで客として参加していた子供たちが、今回からは主催者の側となって上級生と協力してイベントを成功させなければならない大役を背負う。

期待も大きいが、その分プレッシャーも並ではない。

絶対に”失敗”は許されない。


2、3年生はそのプレッシャーを昨年度に経験しており、そんなイベントを無事に成功させた技術と知識、自信を持っている。

しかし1年生にはそのどれもが足りない。

だから教師がサポートしつつ、しかしクラスの個性をなくさないような出し物を生徒たち自身に導き出させなければならない。


・・・正直に言う。

物凄く面倒くさい!


1年生を担当しているスティールの助手である俺も、当然そういうサポートをしなければならないわけだが、もちろん俺もこの学院の学院祭なんて初体験だ。

1年生のほとんどは客として参加したことがあるために、大体はどういう催し物なのか分かっている生徒が多いのだろうけど、俺自身は参加したことも、見たことも聞いたこともない未知の領域。

だというのに、いきなり主催者側の、しかもサポート役を引き受けなければならないときたもんだ。

いくら俺が神竜だといってもこればっかりは無理がある!

誰か助けて!?


生徒がバタバタとせわしなく行き交う廊下で立ち尽くす俺を見て、ルティは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


『あの、セトさん・・・? なんて顔してるんですか?』


ルティの頭をぽんぽんと撫でながら、俺は無理矢理に口角を上げた。


「昨夜スティール先生に昨年の学院祭のパンフレットを渡されて、一応目は通したんだよ。 でもさ、紙面で見るのと実際にやるのとじゃあ話が違うだろ? 俺なんにも知らないんだが? そもそもこの学院の構造だってまだちゃんと把握したわけじゃないんだ。 知らない道も教室もたくさんある。 基本、スティール先生が行くところにしか行かなかったからね。 で、その何一つ分からない祭りのサポートをしなきゃないらしいんだが・・・。 な? 分かるだろ、俺の気持ち」


途方に暮れる俺になんと声をかければいいいのかしばらく悩んでいたルティだが、今の俺になんと声をかけても上辺だけの言葉になることが分かったために、結局なにも言えずに黙り込んでしまった。


とにもかくにも、教室に入らないことには何も始まらない。

何も知らない俺にも、何かしら手伝えることくらいはあるはずだ。


そう勇気を振り絞って教室に足を踏み入れた。

瞬間、生徒たちの目が一斉にこちらを向いた。


・・・やばい。







 + + + + +







「よっし完璧! だよな、相棒!」


「だね、デルタ!」


魔法で目の前に出した大きな鏡に映った自分たちの姿を見、デルタとロムの二人は喜びと満足の声を上げた。


「これだけの完成度なら上位に上がれるんじゃないか?」


デルタは興奮しきって自らの変身した姿をうっとりと眺めた。

ロムはさっさと元の姿に戻り、そんなデルタを見てやれやれと首をを振った。


「ほらデルタ、そろそろクラスの飾り付けの手伝いに行かなきゃ!」


ロムの注意を受けてハッと我に返ったデルタは名残惜しげに変身を解き、ロムと共に教室へ向かって駆け出した。


しかしデルタはまだ先ほど鏡に映った自分の姿を思い出してうっとりとしていた。


「俺もうずっとあの姿でいたい」


「何を馬鹿なこと言ってるんだい。 あんな大きなものに変身し続けていたら魔力を速攻切らしちゃうよ。 いや、それ以前に生活できないよ」


分かってるよと返したデルタは、そう言いながらもまだまだ物足りない顔をして、先行くロムの後を走った。

そんなデルタの心中をお見通しのロムは、仕方ないなとクスリと笑った。


男なら誰しも、小さい頃に読む童話に登場する天竜に憧れるものだ。

自分も会いたい、契約してみたい、と。





  昔々あるところに、誰にでも親切で優しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。

  しかしおじいさんとおばあさんは子供に恵まれず、長いあいだ二人だけで山奥で静かに暮らしていました。

  

  ある日大嵐がやってきて、二人の住んでいた小さな小屋はあっという間に吹き飛ばされてしまいました。

  住むところがなくなってしまったおじいさんとおばあさんは困ってしまいました。

  そこで二人は近くに住む人々に助けを求めました。

  しかし大嵐の影響で、どこの家もおじいさんとおばあさんにまで気を回せる人はいません。

  皆を助けていたおじいさんとおばあさんは、誰にも助けてもらえなかったのです。

  優しい二人はそれでも、皆も大変なんだろう、仕方ないねと、どこか雨風をしのげる場所を探して森へと歩き出しました。

  

  しばらく森の中を歩いていると、大きな大きな泉がある場所を見つけました。

  歩き続けて喉が渇いていた二人は、やっと水場を見つけ、大喜びで泉に近寄りました。

  夢中で水を飲んでいると、一瞬だけ泉に影が横切りました。

  その影は鳥よりも大きかったため、二人は驚いて空を見上げました。

  二人の頭上を通り過ぎていったのは、空と見紛うような色をした巨大な鳥に似た何か。

  その何かは二人の頭上を過ぎると、フラフラとその先の茂みに大きな音をたてて落ちてしまいました。

  おじいさんとおばあさんはビックリです。

  あんなに大きな鳥は見たことがない!

  落ちてしまったが怪我をしているのだろうか?

  二人は急いで何かが落ちた茂みへと向かいました。

  

  鬱蒼と茂った草々をかき分けかき分け進んで行くと、そこには先ほど見た空色の鳥のような生き物が横たわっていました。

  その体はトカゲのような鱗に全身を覆われ、両手は体に比べて小さいが、足はその体を支えるにふさわしい大きさをしている。

  そして背中には大きな大きなコウモリのような翼が生えている。

  よく見れば、片方の翼の翼膜に大穴が空いているではありませんか!

  それを見たおじいさんとおばあさん。

  大変だ! このままでは大空に飛び立つことができない!

  おじいさんは傷を洗ってばい菌が入らないようにするためにたくさんの水を、

  おばあさんは傷を治すためにたくさんの薬草をそれぞれ森の中から持ってきました。

  

  数日すると、おじいさんとおばあさんの看病のおかげで、大きな生き物は飛べるようになりました。

  よかった、よかったと二人は翼を広げた大きな生き物を見て喜びました。

  大きな生き物は二人に深々と頭を下げてこう言いました。

  「私は天竜という生き物で、竜の長です。

  大嵐の中空を飛んでいると、雷に翼を撃たれてあの茂みに落ちてしまいました。

  優しい二匹の人間よ、傷を治してくれてどうもありがとう。

  近いうちに必ずお礼をしに参りましょう」


  天竜が去ったあと、二人はまた雨風をしのげる場所を探して歩き始めました。

  ある日、二人が目を覚ますと、大きな大きなお城の中にいました。

  これは夢かと思っている二人のところに、髪が空色の一人の青年が現れました。

  「私はあの日助けていただいた天竜です。

  あの日のお礼をしに参りました。

  何が欲しいですか?

  地位、名誉、城、国、天下、金。

  お二人が一番欲しいものを何でも差し上げましょう」

  おじいさんとおばあさんはそれを聞いて言いました。

  私たちはこんな大きなお城はいりません。

  国も天下もたくさんのお金もいりません。

  それを聞いた天竜は困りました。

  「では何が欲しいのですか?」

  おじいさんとおばあさんは困っている天竜に向かってにっこりと微笑み、こう言いました。

  私たちに子供を授けてください。

  

  それを聞いた天竜は二人と契約を結び、自らが二人の子供となって、天龍が建てたお屋敷で3人で仲良く暮らしました。





小さい頃に読んだ童話を思い出しながら、ロムは以前は自分もデルタのように天竜の存在に憧れていたものだと思った。

それから竜にも興味を持ち、竜騎士の仕事に憧れ、今に至るわけだ。

そう考えると自分もデルタのことは言えないな。


未だに心が先ほどの光景の中にあるデルタを見て、本番が楽しみだとこちらも高揚感を抑えられないロムだった。


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