第62話 膨らむ疑惑
捕らえた怪しげな人間は、目出し帽を取ろうとすると酷く拒絶した。
最初のうちはなるべく落ち着かせて話を聞きだそうと思っていたために、無理に取ろうとはしなかった。
しかし表情が見えないとなかなか言っていることが嘘か本当か分からない。
「・・・しかもお前、大事なところで上手くはぐらかしやがって」
「はっ、俺はいくら拷問されたってはかない」
「そのかぶってるやつ、いい加減取るぞ」
目出し帽に手をかける。
すると男は酷く怯えて首を左右に振ってセトの手を振りほどこうとした。
その顔がよほど見られたくないのか、必死に抵抗する。
「帽子取られるか話すか、どっちかにしてくれよ」
「・・・」
黙り込んでしまった。
きりがないので思い切って勢いよく目出し帽を取った。
途端、男がものすごい形相で叫・・・叫んでいるような顔で固まった。
口からは息が漏れているだけだ。
目は焦点が合っていない。
「・・・おい?」
男のあまりの豹変に驚いたセトは、とりあえず男に声をかけた。
しかし、苦悶の表情のまま動かない。
肩に手を置くと、ものすごい勢いで飛び上がり、何かに怯えるようにきょろきょろと顔を動かしたが、どこを見ているのか分からない。
口は動いているものの、やはり息だけが漏れている。
そんな男の様子をただ事ではないと感じ、まさかと思ってとった帽子を見てみた。
すると案の定、帽子の裏側には魔術が仕掛けられており、帽子が取られると対象者に発動する仕組みになっていた。
その魔術を読み取った結果、どうやら対象者の視覚、聴覚、声を奪い、手足も動かなくなる術式だったようだ。
自分のことを話しても、結局は同じ結果になっていたようだ。
しかも、しばらくは全身を激痛が襲うというおまけつき。
この術式考えたやつはかなりえげつないなとひとりごちた。
「・・・ってことは、もうこいつから情報は聞き出せないか・・・」
可愛そうにと思った。
帽子を取られることを拒否したということは、取られたらどうなるか知っていたのだろう。
そんな厄介な帽子を自らつけるわけがない。
誰かに無理やりつけられ、何が何でもルティを探し出さなければならない状況にされた、というところか。
「・・・城にわたったやつら、どうなったかな。 とりあえず、アーサーにはこの帽子の術式のことは教えておくか」
『そうですね』
一部始終を黙って見ていたルティは、なんだか戸惑った表情をしていた。
「どうした?」
『もしかしてとは思ってたんですけど、確信が持てなくて・・・。 でもその術式を見てはっきり分かりました。 その帽子、見たことあるんです。お屋敷で・・・』
「なんだって!?」
これには驚いた。
そうなると、俺が今手に持っているこの帽子はルティがいた屋敷で作られていたことになる。
いや、もしかしたらどこかで作られていたものを屋敷に運んでいたということも考えられる。
どちらにせよ、そんなことができるのは屋敷の主人。
「・・・これはいよいよ・・・カタリナって町が怪しくなってきたな・・・」
今は誰も住んでいないカタリナの町。
確か盗賊団があちこちに火を放ったために今は焼け野原になっているはずだ。
「一度、屋敷に足を運んでみるか」
『・・・はい』
ルティも決心したようだ。
このドッキリも近々終わるようだし、そしたらすぐにでも向かおう。
二人でそう決めた。
+ + + + +
デルタは校門で誰かを待っていた。
相棒のロムはデルタに付き合って一緒にその”誰か”を待っている。
二人が待っている人物は今話題の助手、セトだった。
何故ルティでなくセトなのか?
それはデルタが後輩の噂を聞いたのが原因だった。
「あの超絶イケメン助手、セトさんが竜だったら、こんなにおいしい組み合わせはないぜ」
今日何度聞いたかわからないデルタのその言葉を聞き、ロムはクスッと笑った。
「デルタ、セトさんが竜だっていう噂はただの噂だよ? デルタらしくないね、噂に振り回されるなんて。 それにありえないだろ、そんな話。 あの人から竜ほどの魔力は感じなかったし」
それを聞いたデルタはロムのその言葉を鼻で笑った。
「馬鹿だな、竜は魔法の扱いに長けた種族だぜ? 魔力を消すのなんてどうってことないはずだ。 そんなことは俺たち人間でもできるんだから。 考えてもみろよ、正体を隠してこの学園に潜入してきた竜! もしあのセトって助手が本当に竜だったら、きっととんでもないこと隠してやがるぜ」
「どうしてそう思うのさ?」
「ったく馬鹿だな。 なんで竜が正体隠してまでこの学園に来なきゃならなかったんだよ」
こんどはロムが鼻で笑う番だった。
「あのねぇデルタ、セトさんが竜かもしれないっていうのはただの根も葉もない噂! 誰かがセトさんから竜並みの魔力を感じたわけでも、実際に竜になる姿を見たことがある生徒がいるわけでもないんだよ? どうしてそんなふわっとした噂にそこまでこだわってるのさ」
「でもな、ロム。 俺後輩から聞いたんだ。 あの助手が来た日、グラウンドに馬鹿でかい何かの足跡があったって。 スティール先生は誰かのいたずらだと言ったらしいが、偶然にしちゃあできすぎてると思わないか?」
「じゃあ何か? 君はあのセトって助手がその足跡をつけたとでも言いたいの?」
デルタは頷いた。
「で、だ。 見たことのないでかい足跡・・・。 もしかしたら新種の竜かもしれないぜ!」
「ありえないと思うんだけどな~」
セトはというと、そのころとっくに姿を消してスティール宅に帰り、引き取った怪しげな人物の帽子を剥ぎ取ったところだった。
結果、いつまでたっても出てこないセトを待ち続けていたデルタは、いい加減にしろとロムに引っ張られて寮へ帰ったのだった。




