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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第60話 不穏

 驚愕の顔。

何度となく見てきたその表情。

人間というのは、驚いたとき決まって似たような表情を作る。

 困惑の顔。

これもまた、何度となく見てきた。

人間というのは、自分の理解に及ばない出来事に出会うと、こういう表情を作る。


いい加減、慣れてもいいんじゃないかと思うのだが、何度見てもこれらの顔は見慣れない。

それどころか、見る度見る度こちらの心臓が止まるんじゃないかと思うほど、ドキリとする。

冷や汗が流れる。


何故こんな表情が、今俺の周りにあるのか。

ついに正体を明かしてドッキリ大成功?

いやいや違う。

これは俺も承知して受けたドッキリなんだから、仕掛け人がドッキリしてたら元も子もないだろ。

じゃあなんで俺の周り、つまり生徒たちが、そろいもそろってこんな表情をしているのか。

それは竜騎士学の最中に起こった出来事。










 竜騎士学は、今回もまた屋外での実習だった。

リンドブルムを上手く乗りこなせるようになった生徒たちが、いよいよワイバーンの騎竜に挑戦する。

馬や牛、クク(人を背に乗せて陸を走る鳥)など、陸上で乗れる生き物は多い。

しかし、その背に乗って空を滑空できる生き物は少ない。

人間だけでは行けない世界。

空を飛ぶ生き物では人を乗せられるほど巨大なものは、魔獣を除いてそういない。


では人間を乗せて軽々空へ舞い上がることのできる生き物は何か。

竜だ。

それも、空を唯一飛ぶことのできる竜、ワイバーン。

竜騎士志望の生徒たちにとって、ワイバーンの背に跨ることはこの上ない喜び。


スティールが先日城から連れて来た、人を乗せて飛ぶことに慣れた3頭のワイバーンが、生徒たちの目の前にいた。

まだリンドブルムを上手く乗りこなせない子達が、ワイバーンの前に並んだ子達を羨ましげに見ている。

今回セトはワイバーンに乗る子達のサポートに回るとスティールから聞いた女子たちからは不満の声が上がった。


「俺だと不満だってか」


スティールは苦笑しながらワイバーンにまだ乗れない彼女たちをリンドブルムに乗せていた。


『人気ですね』


1頭が俺に話しかけてきたが、苦笑いしかできなかった。

その人気のあまり、この休み時間も大変なことになるんだろうなと考えると、気が重くなる。


「よし、人数もそんなに多いわけではないから、何回か練習できると思う。じゃあ順番に、ワイバーンの背に乗る練習から」


ワイバーンは竜種の中でも大きい。

いくらワイバーン側が人間が乗りやすいようにと気を使ってその身を伏せても、大きいものは大きい。

リンドブルムに乗るよりも難しいのだ。

いかに貴族の子といえど、ワイバーンに乗る機会はまずない。


「俺が手本を見せるから、それを見て覚えてくれ」


どこに足を置けばいいのか、どこを掴めばいいのかは、俺が実際にラルクさんに乗られるときに感じて覚えている。

授業の直前にスティール先生にも教えてもらったから、完璧だ。


「よし、じゃあさっそく乗ってみようか」


意気揚々と歩み出た生徒たち。

しかし、見て覚えたものを実際にやってみることはそう簡単なことではなく・・・。


「無理だぁあああああ!」


一人の生徒が音を上げた。

やはり最初からできる子はいなかった。

んじゃ、俺の出番ですか。

風魔法で足の置き場に導いたり、弾みをつけて乗るところでタイミングを合わせてあげたりと細やかなサポートをしてやることで、皆コツを掴み始め、最初に比べると随分上手く背に跨れるようになった。

しかし、全員飛ぶところまではいかず、今回は背に跨る練習だけで終わった。


「皆お疲れ様」


彼らにそう声をかけると同時に、竜たちにも念話でそう伝えた。

竜たちは「キュルルル」と鳴き、学院の竜舎へと戻っていった。


この後が大変だと思ったその瞬間、一斉にたくさんの殺気を感じ、ハッと思ったときには目だけが出ているおかしな衣装に身を包んだ人たちに取り囲まれていた。


「・・・え?」


生徒たちとスティール先生が、驚いた顔をしている。困惑した顔をしている。

俺の周りを取り囲んだ者達は、ざっと20人はいる。

何が起こった?

こいつらはなんだ?


「お前ら、何者だ?」


「・・・カタリナの町・・・」


うち一人が、そう言った。

カタリナの町。

つまり、ルティがいたお屋敷がある町。

つい先日、その町がおかしいと思ったばかりだ。


「・・・それがどうかしたのか?」


「天虎はどこだ」


それが狙いか。

大体、読めてきた。


「お前ら、カタリナの町を襲った盗賊団と関係あるだろ」


俺の言葉でこいつらの目元がピクと動いた。

どうやら図星らしい。


「なるほどね。 で? もし取り逃がした天虎が何か知っていて、それが誰かに話されると困る話だから捕まえに来た、ってところか?」


じりっと距離をつめられた。

あ、これ最初に俺をっちまおうってことか。


「でも、なんでここが分かったんだ?」『スティール先生、皆を連れて逃げてください』


こっそりスティール先生だけに念話を放つ。

スティールは頷き、生徒達をその場から離れさせた。

これで、遠慮なくこいつらと向き合える。

生徒達が俺から離れたことを確認すると、俺と俺を囲んでいるこいつらの回りに結界を張った。

周囲から結界の中を見えなくする結界だ。

その結界に、一人がすぐに気づいた。


「・・・何の真似だ?」


「いや、この方が俺にとって都合がいいからさ」


どうやら、俺が天竜だということは知らないらしい。

それでいてルティを狙ってきたということは、学院に天虎をつれた男が来たとか何とかいう情報をどこからか聞きつけて、慌てて駆けつけた、そんなところか。


「まあ、見えないなら俺達にとっても都合がいい」


「本当にそうかな?」


「何を言いたい?」


「あんたら、俺のこと誰だか知らないだろ」


「さあ知らないな。これから死ぬやつの素性なんて」


嫌な笑みを浮かべているのが、目だけでもわかる。


「ルティに手を出そうとしたこと、後悔させてやるからかかってこい」


途端、一斉攻撃が始まった。

四方八方から魔法や手裏剣のようなものの嵐。

その攻撃の中心で、俺は腕を組み、防壁を張って隙をうかがう。


「チッ、なかなか堅い防壁張るじゃねーか。 教師だけあって、そこらの一般人とは違うってか?」


「は? 俺は助手だ」


「たいした腕だな、助手さんよぉ!」


どこのチンピラだよ・・・。

まったく、呆れて物も言えない。

この程度の腕でルティを捕まえに来たのか。

ルティはもうこいつらが思っているような子虎じゃない。

ほとんど成獣に近い能力を持っている、1頭の立派な天虎だ。


「その程度、痛くもかゆくもないね。 さあどうする? 降参するなら今のうちだけど」


「馬鹿め! 気づかなかったか? お前の足元にある魔方陣に」


気づいていたさ。

なんか詠唱してるな~って。

そして自分の真下に魔方陣があることくらい。


「だから?」


「燃え尽きろ!」


瞬間、足元から轟音とともに炎の柱が上がった。

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