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竜となったその先に  作者: おかゆ
第一章 出会い
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第6話 竜、見つかる

 俺たちは今、あの森からちょっと飛んだところにある雑木林に来ている。

杉のような樹木がたくさんあり、ルティいわく、この林の獣道を行くとカタリナの町に着くそうだ。


そんなことより、だ。

なぜ森からそう遠くないこの林に降り立ったかというと・・・。


『セ、セトさん、あの豚、ぼくより大きいです・・・』


『・・・つっても、お前虎だろ?豚を怖がることないんじゃ・・・』


そう。

ここに降り立ったのは、かなりでかい豚がいたためだ。

ルティと比べると、ルティの約3倍ある。

とはいってもルティがそもそも子供で、そこまで大きくないために、6mある俺にとっては小さいものだ。

しかし、こいつサイズを2匹も食べられたら俺でもきっと満足できると思う。


豚はまだこちらに気付いていないようで、無心に木の根元に生えているキノコを食べていた。

殺すのにはちょっと抵抗があるが、生きるためだ。

それにさっき兎も食べたし!


豚までの距離は10mほどあったが、俺は一瞬にしてその差をつめて豚の喉元を爪で引き裂いた。

きっと、即死だったのだろう。

豚は鳴き声ひとつあげずにその場に倒れた。


さて、食べるか。

こいつは流石に一気にパクリ、は無理だ。

俺は豚を前足で抑えて、背中に近い方の肉に齧り付いた。

兎とはまた違った味で旨かったが、俺的には兎の方が好きだった。


『ルティも食うか?』


聞くと、ルティは恐る恐る近づいてきて、臭いを嗅いだ。


『いいんですか?』


『ああ。 お前だってさっきのだけじゃ足りないだろ? 育ち盛りなんだから、しっかり食べないとな!』


するとルティはありがとうございます!と言って、ガブッと肩に噛み付いた。


『どう?』


『おいしいです! すごく!』


もしゃもしゃとお肉をほおばって、幸せそうに言った。


『そう、よかった』


なんだか俺まで幸せになるなあ・・・。



その後、今度はルティが自分で豚を狩ってみたいという要望を聞き入れ、見事狩ることができた豚を食べた。

これで、だいぶ腹は膨れた。

それと、この豚は肩肉が一番旨いということが分かった。

これはなかなかいい発見をした。


『はあ、お腹いっぱいです』


ぐぐっと伸びをして、体についた血を舐めながらルティが言った。

俺も口の周りや爪などについた血を舐め落とした。


(・・・なんだかどんどん人間から離れていっているような・・・)


と思ったが、だって俺竜だし! ドラゴンだし! と開き直ることにした。

お腹がいっぱいになったところで、食後の運動もかねてどこか遊び場を見つけようか?とルティに提案すると、流石子供、ものすごく喜んで賛成した。


そして再び、俺とルティは青空へと飛翔した。

しかしこのとき俺はうっかりしていた。

ルティが一緒だったために、人間に見つからないために透明の魔法を使うということを、すっかり忘れていたのだ。

だがかなり高いところを飛んでいたせいか、空を見上げた人間は、俺とルティを見つけても鳥が2羽飛んでいるようにしか見えていなかった。


そんなことには少しも気付いていない俺とルティは、上空から遊べそうなところを探していた。


『んー。 ルティはどういうところに行ってみたい?』


『そうですね・・・。 小川が流れていて、静かで、思いっきり走り回れるようなところに行きたいです!』


なるほどね。

この世界には機械類がまだあまり発達していないみたいだし、工場もないし、空気も綺麗で緑が豊かだから、そういうところは案外簡単に見つかりそうだな。


(そういえば、俺のこの人間の記憶って、この世界の人間のものじゃないよな・・・。 明らかに違う世界の知識だろ、これ)


なんてことを思ってぼーっとしていたら、突然左足とわき腹に激痛が走った。


「ギャゥウ!?」


あまりに突然のことで、翼の動きをうっかり止めてしまった。

しまったと思ったときには、俺の身体は急降下を始めていた。


離れたところにいたルティは、俺が突然声を出したのに驚いて、振り返ってみると俺が落下しているため、どうしたんですか!? と念話をとばしてきた。


しかし、俺はその返事に答えるどころではなかった。

翼を広げようにも落下スピードが速くて、空気抵抗でなかなか上手く翼を広げられないでいたのだ。


(くっそ・・・いってぇ・・・!! ってやばいこのままじゃ・・・!)


俺は背中を下にして落ちていた。

このままでは地面に激突してしまう!

必死の思いで尻尾を使ってなんとかバランスをとって腹を下にすることに成功し、そのまま翼を広げて落下から逃れられた。


心臓がバクバクしている。


(死ぬかと・・・思った・・・)


そして、まだ激痛を訴えている箇所を見ると、足首付近と左のわき腹に一本ずつ矢が刺さっていた。

え、と思った。

次に、地上を見た。

地上までの距離、約100m。

そしてそこには・・・。


『あ』


第一・・・どころじゃない。

何人もの村人発見。

そこではじめて、透明魔法の存在を思い出した。

下には村人の驚ききった顔がある。

・・・そりゃそうだ。めちゃめちゃ珍しい神的な存在が頭上にいるんだから。


(・・・やっべ・・・)


『セトさん!!大丈夫ですか!?』


ルティがやっと追いついたらしい。

そして、ルティも村人を見て、『あ』と言った。

ルティは俺以上に慌てた。


『どどどどうしましょう!?』


『ま、まあ、ひとまず落ち着こう。・・・っ!』


痛みが酷くなってきた。

ルティは俺に刺さっている矢を見て、ハッとなって再び村人を見た。

村人の中に、一人弓を持った青年を見つけ、ルティはその青年に向かって弾丸のように飛び出した。


『ま、待てルティ!』


しかしルティは聞こえていないようで、腕を振って青年の肩を抉った。


「うっ!」


青年が肩を抑えて呻いた。


俺はというと、ルティを止めなきゃと思うのだが、痛みがどんどん酷くなり、ゆっくりと落ちていた。


『ルティ・・・いいから、やめろ・・・っ』


だがやはり、とどかない。

ルティは怒り狂っているようで、青年だけでなくほかの村人にも襲い掛かっていた。

このままではそのうちルティが人を殺してしまうんじゃないかと思った。

俺はもうただただルティが止まりますようにと願って、腹の底からおもいっきり叫んだ。


「グルルァアアアアアアアア!!!」


村人もルティも、俺のその叫び声で動きがピタッと止まった。

そして、俺はとうとう地面に足がついた。

案の定立っていることができなくて、倒れてしまった。


 ズド―――ン・・・


(あー、身体がでかいから重いとは思ってたけど、こうリアルにこの音を聞くとちょっと凹むなぁ・・・)


倒れた本人はこんなことを思っていたが、ルティや村人はめちゃめちゃ慌てていた。


「り、竜が倒れてしまわれた!!」


「トクサお前、なんて事をしたんだい!!」


あの青年はトクサというのか。


「だれか医者を呼んでおくれ!!」


「あぁでも、人間の医者が竜なんて治療できるのかい!?」


「知らないよ! でもこのままじゃ・・・!」


村人達が騒いでいる。

起きなきゃ・・・と思うが、身体が上手く動かせない。

そこへルティが、真ん丸い目に涙をいっぱい溜めて俺の頭のところへきた。


『セトさん! セトさん!! ・・・しっかりしてくださいよ!』


『・・・意識はしっかりしているよ・・・。 でも身体がうまく動かないんだ・・・』


ルティとそんな会話をしていると、よく日焼けした強面の一人の男が俺に近づいてきた。

そして、俺の足に刺さっている矢に手を伸ばした。


・・・俺はここの村人にかなり警戒していたのと、何故か人間に弱いところを見られるのは嫌だと思って、気力だけで身体を起こした。


『・・・何をする気だ』


上から男を睨みつけて言った。

男は一瞬ひるんだようだが、まっすぐ俺を見てきた。


「黒竜様、あの青年、トクサがやったこと、どうかどうかお許しください。 そして、我々に手当てをさせてください」


男はそう言うと、ひれ伏すように地面に両手をつき、頭を下げた。

他の村人達も、トクサを含め、同じように頭を下げていた。

その行動で、トクサが竜を射るつもりは無かったことを確認した。


『・・・わかった・・・』


村人達はホッとしたように力を抜いた。

そして俺は、このままだと手当てしにくいだろうと思い、人間の姿になった。

あのとき盗賊の荷車から物色した黒い着物は、不思議なことに破れずにちゃんと存在した。

しかし、わき腹のところは流石に矢に貫かれていた。


村人達は、人間になった俺を、またまた目を見開いて見ていた。

人間になったのはいいが、俺は気力だけで立っていたために、魔力をつかってさらに体力を消耗し、そこで意識を失った。


意識がなくなる直前に聞いたのは、


『セトさん!』


というルティの叫び声だった。


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