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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第59話 向けられた疑惑

「おはようございます。 ほらそこ、しゃべらない! ホームルーム始まってるぞ」


朝のホームルーム。

もちろん俺もいる。

スティールに注意された生徒たちは、何らやひそひそと相談事をしていた。

ところで、初日以来の目線を感じるのは気のせいだろうか。

いや、きっと気のせいじゃない。

朝の生徒たちの会話からして、これが終わった後、大変なことになるだろう。


「ということで、ギルド希望の人は放課後俺のところに来るように」


・・・うん、待って。

考え事してたらなんかものすごい大事なこと聞き逃した気がする。

後で聞きなおさないと。


「んー、連絡はこのくらいかな。 ホームルーム終わり」


「起立! 礼!」


「「 ありがとうございました! セトさんちょっと待ってください聞きたいことが!」」


・・・え、うん。

びっくりした。

何そのハモリ方。

さっさと立ち去ろうと思っていたらそんなサプライズが待ち受けていた。

スティールを見るとこちらも同じく驚いていたようで、目が合った。

が、すぐに親指をぐっと突き出して頷くと、さっさと教室を出て行ってしまった。


「え、ちょ、先生!?」


あんなに俺におどおどしていたのに、まあなんともたくましくなられて・・・。

じゃない。

誰か助けて!?


スティールの行動にあっけにとられている間に、いつの間にかクラスの生徒たちに周りを包囲されていた。

これでは動けない・・・。

ちらりと出入り口を見ると、ご丁寧にちゃんと見張りがついている。

城の貴族の女性達よりも強敵だ。


「・・・俺に何か用か?」


とりあえず、笑顔で聞いてみる。


「セトさん! 彼女いますか!? じゃなかった。 スティール先生の家に寝泊りしてるって本当ですか?」


「あ、ああ」


「ほら! だから俺らちゃんと朝確認してきたって言ったろ?」


「だってぇ・・・。 あ、じゃあ、ルティ君・・・だっけ。 どこで会ったんですか?」


「ああ、俺がいた村の近くにある泉」


「泉なんてまたメルヘンな場所で・・・」


「え?」


「あ、いえいえ。 じゃあ、じゃあ、本題に移ります!」


今まで本題じゃなかったのか。


「セトさんのフルネーム教えてください!」


・・・フルネーム?

そういや考えたことなかったけど、俺セトって呼び名しか持ってないな・・・。


「フルネームか・・・」


生徒からは期待のまなざしを向けられている。

どうしてそんなにフルネームが知りたいんだ?

・・・ところで、フルネームがないなんて言ってしまえば、このドッキリを明かした後で問題になる。

ギルバートからは記憶がないことを他へ漏らすなと言われているし、もしここでルティにもらった名前だなんてことを明かせば絶対おかしいと思われる。

そこから記憶がないことがバレる恐れもある。


悩んだ末、出した答えは・・・


「ヒミツ」


瞬間、明らかに全員に「えー」という顔をされた。


「なんでですか?」


「教えないよ」


笑顔で対応。

そして笑顔でごまかす!

生徒たちは不満そうだった。

しかしこればっかりは教えるわけにはいかない。


「んー、じゃあ最後の質問・・・」


「こらお前ら、何してる。 一時限目始めるぞ」


来た!

救世主!

一時限目の先生!

俺は散っていく生徒たちを見送り、その先生に「ありがとうございます」と礼を言った。

この先生はどうやらスティール先生から俺がきっと困っているだろうからと聞いて早めに来てくれたらしい。

俺を見捨てて行ったと思っていたが、流石スティール先生。

優しい人だ。






 + + + + +






とある生徒は、下の学年のあるクラスにとんでもなくイケメンの助手が来たという話を聞き、気にはなっていたが全校生徒の前で軽く紹介された時を除き、一度も会ったことがなかった。


「天虎連れかー」


「デルタ、またその話かよ」


デルタと呼ばれた生徒は、このドラーク学院の最上級生の中でも一,二を争う優等生。

家柄もそこそこよくて、父親はグランティス大王国で右大臣を勤め、母親はグランティス大王国の属国であるレーベル国の元第三王女。

学院では大の動物好きで通っている。


「だってよ、天虎だぜ天虎! お前だって天虎がどれだけ珍しいか知ってるだろ?」


「知ってるさ。 俺だって貴族の端くれなんだから」


「天竜に次ぐ珍獣! いいなあ、もふもふしてぇ~」


「・・・お前のそういうとこ、きっと王様の竜好きにも負けないと思うよ、ほんと」


「馬鹿言え、王様より俺のほうが動物を愛してる。 そこは誰にも譲らねぇ」


「はいはい分かったよ」


デルタは友人の適当な返事を聞いて満足した。

デルタの言う動物には竜も含まれている。

果ては魔獣でも可愛いと言い出すから、初めてデルタと会話をしたものは大抵目を丸くする。


先ほどデルタと親しげに話をしていた生徒は、デルタとは幼いころからの友人で、デルタのことをよく知っている。

昔からの付き合いであるだけに、デルタに付き合っていろんな危ない場所や状況に陥ったことがある。

それでも尚一緒にいてくれる存在であるため、デルタは自分で思っている以上に彼を気に入っている。


「よし決めた。 昼休み、職員室に行く」


「また急だな」


「ロムお前も来るだろ?」


「・・・ま、興味あるしね」


「よし決まりだ」


こうして二人は昼休み、とんでもないものを見ることになる。






 + + + + +






一時限目が行われている時間、俺とスティール先生は何の授業もなかったため、職員室ですることもなくのんびり珈琲(に似た飲み物)を飲んでいた。


「なんか、生徒たち俺に随分興味持っちゃってますよね」


「はははっ、セトさんそりゃそのルックスしてりゃあ誰だって気になりますよ」


中年の教師が答えてくれた。


「そこらのモデルなんかよりよっぽどいい男だもの」


これはそこそこ若い(30代前半か?)の女性教師だ。


「竜でもここまでのイケメンはなかなかいませんよ」


その言葉に一瞬ドキッとしたが、幸い誰も気づいていない。


「お、大げさだなあ」


ここでも笑ってごまかすしかなかった。

あははー、だって俺神竜ですもん、とか口が裂けても言えない。


『これ、いつばらすんでしょうね?』


『さあ・・・アーサーからは頃合を見て知らせるとか言われたけど、あの王、どこでその頃合を見てるんだ?』


『・・・さあ・・・』


俺とルティがうーんと唸っているのを見て、スティールは首を傾げた。


「・・・あ! そうだ。 スティール先生すみません、今朝のホームルームで言ってたことをうっかり聞き逃してしまったんですが、ギルドってなんですか?」


職員室に流れた微妙な空気。

あれ?

やばいこと聞いちゃった?


「ギルド、ご存知ないんですか?」


「え、えーと・・・。 そうではなくて、ギルド希望の生徒がどうのっておっしゃっていた前の言葉を聞き逃したので・・・」


ごまかせるか!?


「ああ、それでしたら、」


ごまかせた!!!

思わず小さくガッツポーズをとった。


「うちの学校では主に城での職業の国家試験を受けられるようにと教育を行っているのですが、中にはギルドに入って名を広めたいという生徒もいましてね。 そういう生徒たちの支援も行っているんですよ。 ギルドといってもたくさんありますからね。 公認されているものはもちろんたくさんありますが、そうでない危ないギルドも数多くありますから、そうしたギルドに入らないようにしっかりした公認ギルドを紹介してるんです」


「『へぇ』」


なるほどね。

・・・あとでギルドが何か、ちゃんと調べよう。


「それじゃ、私からもちょっといいですか?」


「なんです?」


「セトさん、修理屋をする前に国家機関か何かに勤めていたことがあるんですか?」


・・・うん、なんで?

急な質問だな。

どこから来たんだその疑問。


「はい?」


「いえ、授業のとき、生物学を随分難しく考えておられましたし、どうやらそうした体の仕組みを理解していらっしゃるようでしたので」


あ、ああ!

あのときか!

それがまさかそんな疑問を生んでいたとは思いもしなかった。


「え、何? セトさんってそんなことを知っているの?」


「こりゃ、スティール先生の方が助手になったほうがいいんじゃないか?」


職員室は若干の笑いと俺への興味であふれた。


「し、城で見た本にあったんですよ。 その本のタイトルが『生物学』だったので勘違いをしていました」


そう言うと、皆「なあんだ」という顔になり、仕事に戻った。

・・・もちろん大嘘だ。

城でそんな本なんぞ読んだことがない。

ここでもこのよく分からない記憶が出てくるのか・・・。


『スティール先生は気づいているんでしょう?』


念話で話しかけると、思案顔になっていたスティールが一瞬ビクついた。

そして俺に視線を戻すと静かに頷いた。

スティールにはすでに俺が神竜だと明かしている。

信じたかどうかは分からないが、勝手に神竜というものが何でもかんでも知っているような存在だとでも思ってくれれば幸いだ。


そこで、一時限目終了の鐘が鳴った。

あ、次竜騎士学だ。



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