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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第58話 生物学 ②

「さて、次はこのセトさんが召還したワイバーン、カイ様に協力していただく」


カイは生徒たちに向けて軽く会釈をした。

何をさせるつもりだろう?

さっきは魔力を見る方法を説明していたから、その方法でも教えるのか?


興味を持って見守っていると、スティールが早速魔力を見る方法というのを黒板に書き出した。


「魔力は皆知っているように、理性のある生き物にはたいてい多かれ少なかれ宿っているエネルギーだ。 で、普段そいつを”見る”なんてことはできない。 けど、皆自分の魔力量は大体知っているだろう? たとえば、このくらいの魔法なら使える、このくらいの魔力なら出せるってな具合にね」


・・・どうしよう。

どれくらいも何も、魔力にあまり限界を感じない・・・。

以前の俺だったら、足りなくなった魔力は食事で補っていた。

そう、魔力が減ったという自覚を持っていたのだが、最近はそういった魔力の増減に気づかないことの方が多くなった。

いよいよ自分が化け物じみているなと感じた。


静かにため息をついた。

カイはそんな俺を心配そうに見つめてきたが、俺は大丈夫だと念話を送り、生徒たちの方へ視線を戻すように言った。


「で、魔力を見る方法だが、自分の魔力をほんの少し相手の魔力に”入れる”んだ。 そうすることで、自分と相手の魔力量、質の”差”が分かる。 つまり、自分の魔力に比べて相手がどの程度の魔力の持ち主なのかが分かるというわけなんだ。 だから、正確には”見る”というよりも”探る”の方が合ってるのかもしれないね。 さて、言うのは簡単だけど、実はこれものすごく精密な操作が必要なんだ。 ・・・ま、聞くより自分でやってみたほうが早い。 ということで、皆でカイ様の魔力を見てみよう」


スティールはカイにお願いしますと声をかけた。

カイはそれに応じ、生徒たちが魔力を見やすいよう、少しだけ魔力を自分の体に纏わせた。


なるほど。

そうすることで体内にある魔力を見るというとんでもなく高度な技術を要しなくても、体の表面にある魔力に直接自分の魔力を入れればいいために、感覚をつかむにはもってこいの練習になるわけだ。


「今回カイ様に協力してもらったのは、魔力量と質が我々人間に比べて高い竜の魔力の方が、皆にとってやりやすいからなんだ。 人間同士の魔力だと、もう少し難しい技術が必要になってくるからね」


俺はそれらの言葉をしっかりメモした。

今後、正体を隠す魔法を作るのに役立ちそうだ。


生徒たちはというと、実際に魔力を”見る”ことができたのは極数名だった。それもそうだろう。

もともと高等技術が必要な方法なんだから。


「意識が吸い込まれそうになった・・・」


カイの魔力量を見ることができた数名の生徒は口をそろえてそう言った。


「よしよし上出来だ! 今できなかった人も、できた人からコツを教わるといい。 練習しだいでできるようになる。 向き不向きはあるけどね。 あの竜騎士団長のラルク様も魔力を見ることは苦手だったそうだから、皆あせらなくても大丈夫!」


カイは役目を終えると俺の隣に座った。


『お疲れ、カイ』


『ありがとうございます。 それにしても、今のように大勢から魔力の探りを入れられたのは初めてです。 あれはできればそう何度も体験したくありませんね』


『だろうね。 気持ち悪そうだ』


『ええ』


二人だけで念話をし、お互いに苦笑した。


「竜の魔力量はとんでもなく多い。 質も高いから、魔力を見ればすぐに分かると思う。 今カイ様の魔力を見ることができた者は、きっと俺やセトさんの魔力も見てみたと思うが、その違いは一目瞭然だったはずだから、これで魔力での見分け方は分かったね?」


魔力を見ることができた生徒たちが頷いているところを見ると、俺のこの魔法は有効のようだ。


と、そこで授業終了の鐘がなった。


「よし、各自復習しておくように! 終わり!」


スティールはそのまま俺とカイをつれて職員室へと戻った。

途中、三人まとめて生徒たちに囲まれたため、職員室に戻るまでにはかなり時間がかかったが。

こうしてみると、やはりスティールは生徒たちから好かれている。

顔もいいし、優しいし、なにより生徒思いのいい先生だから、当然と言えば当然かもしれない。






 + + + + +







その日の放課後。


「なあ、セトさんのフルネーム知ってるやついる?」


「え、さあ。 なんで?」


不意に、スティールが受け持つクラスでそんな話が出てきた。


「だってさ、スティール先生が城から戻ると同時に連れて来た助手だぜ? しかも天虎を連れてる。 絶対只者じゃないって!」


「でたよ、お前のそういう漫画的展開を望む癖」


話をふった男子生徒の友達と見える男子生徒は、相手の言動に慣れているようにやれやれと話を聞いた。


「だってよぉ、怪しいじゃん。 めっちゃ美形だし、天虎連れてるし、フルネーム不明だし!」


「あ、ちょっとその話、あたしらも混ぜて!」


ついに話に興味を持った女子生徒まで加わった。

話はどんどん大きく膨らみ、ついにはセトが竜じゃないかという話にまで発展していった。


「セトさんって、あんだけ美形なんだから竜なんじゃないかしら」


「馬鹿だな、だったらあの授業のとき俺が気づいたはずだろ?」


その授業で魔力を見ることができた生徒が否定した。


「でもさ、ウィッチ先生は魔力を抑えたり隠したりする魔法もあるって言ってたじゃん」


「あ、そうか。 ん? ところでさ、セトさんってどこに住んでんの?」


「え? どっかの宿?」


「それじゃ金かかりすぎるだろ。 俺はスティール先生の家かなって思ってる。 助手だし」


「助手だからってそうなるか?」


「なあ、本人に直接聞けばいいじゃん」


「そだね。 明日の朝にでも皆で聞こうよ」


生徒たちは明日の朝、リーメル以上に謎であるセトの正体について問いただそうと心に決め、各々の家に帰った。






 + + + + +






翌朝。

俺は鳥の鳴き声で目を覚ますという、なんともベタで気持ちのいい朝を迎えた。


「・・・寝てるときはどうしても気が緩むからか? それとも俺の魔法が弱いからか・・・。 どっちにしても早く改善しないとね」


魔力を抑え、髪が黒くなったのを確認してから立ち上がる。

丁度そこに、朝食ができたと伝えに来たスティールがエプロンで手を拭きながら登場した。

こいつはいいお父さんになりそうだ。

なんて思いながら、おはようと挨拶し、まだ寝ているルティを起こした。


「ニャ・・・フ」


欠伸をした声だが、これだけ大きくなってもこの時折聞ける可愛い泣き声は変わらない。

もふもふの喉をなでてやると、気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らして喜んだ。


「セト様、ルティ君、朝食ができましたよ」


3日目ともなると流石に慣れてきたのか、前日の朝のようなおどおどっぷりは見られなかった。

少し残念。


朝食はやっぱり美味しかった。


「いつか俺にも料理を教えてくださいよ」


自分でもここまで美味しいものが作れたら楽しいだろうな、と思ってのお願いだった。

スティールは快く受け入れ、休みの日にでもと言ってくれた。


さあ学院へ出勤しようというとき、何故かいつもはいない多数の人の気配を玄関の前で感じた。

それをスティールに伝えると、スティールはドアにチェーンをつけて開けた。


「「おはようございます、先生!」」


何故か大勢のスティールのクラスの生徒たち。

これにはスティールも驚いていた。


「お、おはよう。 ・・・俺の家に何か用かい?」


相手が生徒だと分かり、スティールはチェーンをはずした。

生徒たちはスティールの後ろに俺がいることを確認すると驚いた顔をした。


「あ、セトさんってやっぱり先生の家に寝泊りしてるんですか?」


「え、そうだが・・・」


まさかこの子ら、わざわざそれを確認するためだけにここに来たなんてこと・・・


「ほら!俺の思ったとおりだった!」


まじですか。


「先生と一つ屋根の下? 恋か何か始まりました?」


いや始まらないよ。

何を言ってるのこの子は。


「ちょ、ちょっと待って、皆そろそろ登校時間だよ。 こんなところにいないで、早く行きなさい」


10人余りの生徒たちは、スティールが急かしてやっと立ち去ってくれた。


『本当にそれだけ確認しに来たみたいですね』


「先生の生徒たち、なかなか行動力ありますね。 先生譲りですか?」


「・・・俺も驚いてます・・・」


騒がしくその日は始まった。




「よし! まず第一目標達成」


「次は先生たちがホームルームに来たときだな」


聞こえすぎる俺の耳にそんな会話が聞こえてきた。

今日もまた、忙しくなりそうだ。



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