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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第56話 学院生活 ④

セト様が俺の助手として学院に来てから二日目の朝を迎えた。


昨日の朝のようにセト様に朝食を用意させるわけにはいかないからな。

まだ起きてきていないようで安心した。

慣れた手つきで素早く簡単な朝食を作ってしまうと、セト様とルティ君を起こしに向かう。


「セト様、ルティ君、朝食ができまし・・・たって、え?」


我が目を疑った。

本当に自分の目が信じられなくなることがあるのかと変な感心をしつつ、目の前のありえない現実を目の前にして立ち尽くした。


「・・・白?」


別にルティ君の体の色のことを言っているわけじゃない。

天虎を見るのはルティ君が初めてだから全ての天虎が白いのかどうかは分からない。

そうじゃなくて、セト様の髪の色だ。

綺麗な漆黒だったはずが、どうしたことか目の前にいるセト様は純白だ。


『漆黒の天竜』という二つ名まであるほどに、歴史書でも類を見ない黒い色が特徴の天竜。

それがセト様で、その特徴はもうほとんどの国に知れ渡っていると言ってもいいだろう。

その漆黒が純白に変わっていては、目を疑うのも当然か?

いやいやまてまて、問題はそこじゃない。

問題は、どうして髪の色が変わってしまっているのか、だ。


「・・・脱色?」


口に出してみて馬鹿らしいと思った。

竜の髪色は鱗の色に等しい。

竜の鱗が脱色できるなんて話、聞いたことがない。


「というか、魔力量が半端じゃないな・・・。 流石天竜といったところか。 まさかこれほどの魔力を昨日まで隠していたというのか・・・。 一体どうやって・・・」


『・・・ん? あ、先生、おはよーございます』


くあっと欠伸をしながら、ルティ君が目を覚ました。


「あ、おはようルティ君」


『朝から何一人でぶつぶつ言ってたんですか?』


毛づくろいをしながら念話で尋ねられ、返答に困った。


「え、ええーとね・・・あ、そう! 朝食二人の口に合うといいなーって」


あからさま過ぎるか?


『え! 先生が作ってくれたんですか! 楽しみです!』


どうやらごまかせたようだ。

ルティ君のおなかを枕にして寝ているセト様はまだ起きない。


「ルティ君、セト様は・・・起こしてもいいのかな」


『あ、遠慮しなくてもいいんですよ。 セトさん前に僕がなかなか起きないからって泉に落とそうとしたんですよ? そうだ! いっそ思いっきりびっくりさせて起こしましょう!』


ルティ君がとんでもないことを言い出した。


「待ってルティ君!? 俺はできればやさしく起こしたい!」


『冗談です。 先生の反応が見たくて』


ルティ君はいたずらっ子なんだろうか・・・。


「あれ、もう起きてたんですか・・・」


流石に俺とルティ君の会話でセト様も起きたらしい。

よかった、変な起こし方をせずにすんだ。


『セトさんセトさん、朝食は先生が作ってくれたんですよ! 早く食べましょう!』


「え、本当ですか? 楽しみです」


「あ、ありがとうございます。 ・・・と、ところで、セト様?」


「なんですか?」


言うべきかものすごく迷って、結局切り出すことにした。


「その・・・御髪おぐしは?」


数秒間をおいた後、セト様の顔が引きつった。

セト様が慌ててその場で素早く手櫛てぐしで髪を一すきすると、髪色は見慣れた漆黒へと戻った。


「先生、お願いですからこのことは誰にも言わないでください」


いつもの優しげな雰囲気は消し飛び、真剣そのものの顔だった。

興奮しているせいなのか、セト様の目が黄金色に輝き、瞳孔が縦にキュッとしぼんだ。

まるで竜そのものの目を見ているかのように思われた。

そのあまりの迫力に、俺は黙ってうなずくしかなかった。


「絶対ですよ」


セト様がそういってふっと笑うと、先ほどの緊張感が嘘のように消えた。

セト様の魔力も、いつの間にか収まっている。

何が何やらよく分からなくなってその場に立ち尽くしていると、ルティ君から早く食べようと急かされ、食卓へ向かった。


俺が席に着くと、ルティ君が『いただきます』といい、食べ始めたのはいい。

しかし空気が微妙だ。

別に俺の料理がまずいとか、そういう話じゃない。

料理は「おいしいですね」と褒めていただいた。

・・・変な空気にしているのはもしかして俺か?

俺がさっきのことを気にしすぎているのか?

ええいまどろっこしい、聞いてしまえっ!


「セ、セト様、聞いてもいいですか?」


「嫌です」


まさかの却下の即答。

しかも笑顔なのが逆に怖い。

少しは答えてくれるかなと思ったが、さっきの光景は俺が思っている以上にセト様にとって見られたくないものだったようだ。

しかし、一緒に住んでいる以上どうやったって見てしまう。

そんなに見られたくないものだったのか?


「どうしてもですか・・・?」


「・・・では逆に、さっきのを見て何だと思いました?」


「えっ」


そうくるとは思っていなかった。

何故髪が・・・つまり鱗の色が変わっていたかについてか・・・。

正直、分からない。

けど、一つだけ髪の色と比例していたものがあったな…。


「・・・魔力量と関係しているんですか?」


「ご名答」


「どうして魔力量が多いと、その・・・先ほどのようなお姿になるんです?」


「・・・」


黙ってしまった・・・。


『セトさん?』


「ルティ、俺が天竜じゃないこと、はっきり感づいてるだろ」


・・・今なんて・・・?


『ただの噂だと思っている人の方が多いですけどね。 でも先生とはしばらく一緒に暮らすわけですし、そのうち先生にも感づかれると思いますよ? さっきみたいなこともありますし』


「だよなぁ・・・」


セト様は短いため息を一つついた。

そうして俺に向き直って言ったのだ。


「先生、今から言うことも他言無用です。 今言ったとおり、俺は天竜じゃありません。 一緒に暮らしてればすぐにばれると思うので、先生の人柄を信じて言っておきます」


天竜じゃない?

あのお姿で?

なんだ・・・?

セト様は俺に何を言おうとしている?


「は、はい」


「俺は神竜です」


・・・は?

一体何を馬鹿なことを・・・あ、さてはこれもドッキリですね。

アーサーのやつ、セト様にどこまで無理を言ったんだ・・・。


「何を言って・・・」


「スティール先生なら、神竜についての知識を多少はお持ちじゃありませんか?」


・・・神竜・・・。

もはや神話に登場する伝説の竜だ。

この世界を作ったという逸話まである、あってないような話。


「し、神竜なんて、神話の中にしか出てきませんよ? 今の世の中、神竜という存在すら知っている人は少ない。 そんな竜がいるはず・・・」


「ないですか? ・・・まあ、信じる信じないは先生に任せます。 俺がお願いしたいことは、それを誰にもばらさないでもらいたいということだけです。 へたに感づいて周りにそれを言いふらされても困るので今言ったまでです。 記憶を消すこともできますが、その方法は取りたくない」


・・・俺今本当にとんでもない人・・・いや、竜と一緒にいる・・・!?


「わ、私は口は堅いほうだと思っています。 ご安心を」


「ありがとうございます」


セト様はそこでホッと息をついた。


『言ってよかったんですか?』


「もともと勧めたのはお前だろ?」


『あれ、そうでしたっけ?』


「調子のいいやつだな」


セト様とルティ君がじゃれているのを、まだ整理し切れていない頭でボーっと見ていた。



  「今日、仕事になるかな・・・」



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