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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第52話 学院へ ②

「よし」


 朝、俺は一番最初に目が覚めて皆の分の朝食を作った。

目玉焼きにレタス、ソーセージを皿に盛り付け、味噌汁とご飯を人数分テーブルに並べた。


そのにおいに誘われて皆一斉に起きだした。

ほぼ全員が俺が料理をしたという事実に驚いたらしく、俺と朝食を交互に見て絶句された。


「さりげなく失礼だな・・・」


直後ものすごい勢いで誤られた後、皆で並んで美味しく朝食を食べた。

俺が作った朝食は「食べたことない味だけど美味しい」との事で喜んでもらえた。

が、スティールでさえ初めて見る料理だというから驚いた。

かなり庶民的な朝食だと思ったのだが・・・。


考えてみれば、使った卵は鶏のものにしては小さく、レタスもおかしな楕円型をしていた。

皆が見たことがないという俺のこの料理の知識は、どこで得たものだったか・・・。


考えれば考えるほど混乱してきて、結局はやはりこの記憶はこの世界のものではないという結論に至った。

いつもいつも、この結論は同じだ。

冷蔵庫に見えるあの装置も、魔法具で動かしている。

もちろん、冷蔵庫なんて名前ではない。(冷魔器というらしい)

一体俺は・・・


「誰なんだろうな・・・」


「え?」


うっかり声に出していたらしい。

リーメルに慌ててなんでもないとごまかした。

彼女はしばし不思議そうな顔をしていたが、スティールの「準備はできましたか?」の一言ですぐに準備に戻ってくれた。

俺も急いで筆記用具を小さな鞄に入れると、最終チェックを行った。


『セトさん! 準備できましたか?』


ルティがはしゃいだ様子で羽をはためかせながらそう言った。


「ああ、大丈夫。 ・・・一回落ち着こうか、ルティ。 羽が舞ってる」


苦笑いして注意すると、ルティは恥ずかしそうに羽を折りたたみ、俺の膝へ喉を鳴らしながら顎を乗せた。

それを撫でながら、みんなの様子を見た。


「よ、よし、ここまできたら腹をくくれ、俺!」


「人生初の学校よ!」


各々、準備はできたようだ。

竜たちは特別準備するものもないため、人間体でくつろいでいた。




朝7時。

俺たちはスティール家を後にして、いよいよドラーク学院の校門をくぐった。






 + + + + +






職員用の玄関から校内に入ると、教職員達が中で待ち受けていた。

スティールが城を発つ前にこの時間に帰ると学院に手紙を送っていたらしい。


「おかえりなさい、スティール先生」


スティールは何人かとハグを交わした。


「ただいま、皆。 すまないが、校長はおられるかな?」


「ああ、校長なら先程校長室に入っていった。 それよりスティール、後ろの人たちは誰だ? 全員竜達か?」


「それにしては多すぎるわ。 女の子は転校生でしょ?」


「なんで虎がいるんだ? ・・・というか、どなたが竜なんだ?」


スティールはそれらの質問に苦笑いをして、「後でな」というと、俺たちを連れて校長室へと向かった。


教職員たちは、キョトンとしてそれを見送った。




 コンコン


「校長、スティール・ファムリア、ただいまグランティス城から帰ってまいりました」


室内でハッと息を呑む気配がしたかと思うと、目の前の校長室の扉がバッと開いた。

そこにいたのは、数本の白髪がある中年の男性だった。


「おお! おかえり、スティール君。 後ろの方々は・・・いや、とりあえず入ってくれ」


促されるままに中に入る。校長室の床は赤いふかふかした絨毯が敷かれてあり、なんとなく偉い人の部屋に居るんだという気になって少しばかり緊張した。


座ってくれと言われ、長いふかふかのソファに皆で腰掛けた。

校長は向き合うように反対側のソファに腰掛けると、俺たちの顔を順々に見た。


「よく帰ったな、スティール君。 で、そちらの方々は?」


スティールは咳払いを一つして、紹介を始めた。


「まず、俺の隣に座っているのがセトさん。 彼は俺の助手として、これから働いてもらうことになりました。 彼の横にいる虎はルティ君です。 その隣に座っている彼女は、手紙にも書きましたが転校生として来た王族のリーメル様です。 脇に控えている黒い服の男性二人はその護衛です。 そして彼女の横に座っている男性三人が、今回城から預かってきた竜たちです」


一気に言い終えると、スティールはふーっと長く息を吐いた。

校長は紹介された俺たちをもう一度順々に見た。


「・・・質問、いいかね?」


「ええ」


「セトさん、といいましたな、彼の横の虎なんだが・・・。 なんなんだね?」


『・・・僕?』


ルティが念話を放ったことに、校長は酷く驚いた。


『僕はセトさんの相棒です! よろしく、校長先生!』


ルティによろしくと笑顔(俺には分かる)で言われた校長はしかし、固まってしまっていた。


「・・・あの、天虎って聞いたことありませんか?」


俺が声をかけると、校長はさらに驚愕に目を見開いた。


「て、天虎・・・だと!? それにセトさん、貴方の相棒!? ・・・スティール、お前城からとんでもない方を連れてきたんじゃないだろうな!?」


その問いに、スティールは苦笑いをするしかなかったらしい。


「それ、なんですけど・・・」


スティールがチラ、と俺を見た。

校長には俺の正体を話しておいた方がいいだろうと言ってはおいたものの、今の校長に言ったらぶっ倒れるんじゃないかと少し心配になった。


「いつ言っても、多分一緒ですよ」


俺もスティールに対して、そう苦笑いで返すより他なかった。

スティールは「ですよね」と半ば諦めたように肩を落とし、校長の目をしっかと見た。


「校長、実はこのセトさんなんですが・・・かの『漆黒の天竜』その方です」


「・・・天・・・」


 ドサッ


「「「 あ 」」」


校長がソファに倒れた。

皆で慌てて駆け寄って、スティールが抱き起こした。


「校長! 起きてください! ・・・だめだこりゃ・・・」


ゆすっても叩いても起きないため、リーメルがしびれを切らして簡単な回復魔法をかけた。

それでやっと目を覚ました校長は、俺の姿を見ると急にかしこまってしまった。


「こ、こここの度はようこそ我が学院へいらっ、いらっしゃいました!」


「あの・・・」


俺がなんと声をかけたらよいか決めあぐねていると、スティールが思わぬ助け舟を出してくれた。


「校長、これはアーサーのやつの企みでして、セト様が俺の助手として来られたのは、後で職員や生徒達を驚かせたいからです。 アーサーは昔から人を驚かすのが好きでしたし、竜好きですから・・・。 あの、申し訳ありません」


校長は今の話をしばらくたってからやっと飲み込んで、額の汗を拭った。


「と、とんでもない話だな・・・。 セト様、先程は見苦しい姿を見せてしまって申し訳ありません」


少し禿げかけた頭を下げた校長に、俺は慌てて「あ、違います」と言った。


「これからはセトと呼んでください。 俺はスティール先生の助手として来たんです。 助手に様付けはおかしい」


俺がそうお願いすると、校長は「しかし・・・」と困ったようにスティールを見た。

スティールは校長にニッコリと笑いかけた。

それで校長も腹をくくったのか、すくっと立ち上がり、俺に手を差し出しながら「よろしく頼むよ、セト君」と言ったのだ。

俺は差し出された手を力強く握り、「こちらこそ」と言った。



 ちょうどその時、チャイムが鳴った。聞いたことのあるチャイム音。

懐かしいと思ったと同時に、俺は学校に来たのは初めてのはずなのにと、また数秒考え込んでしまった。

ルティに袖を引っ張られて、ハッと我にかえった始末。


『セトさん?』


「ごめん、少し考え事してた」


ルティを撫でてごまかした。


「では、早速いきますか」


スティールが声をかけ、皆その後をついていく。

生徒達はすでに全員教室の中に入っており、中からは楽しげな話し声が聞こえてきた。

打ち合わせどおり、スティールが最初に教室に入っていった。

途端、中からものすごい歓声が上がった。


「わ! 先生帰ってきたの!?」


「おかえりなさーい!」


「王様と友達だって本当ですか!?」


あれこれ質問をあびせられて、スティールの困った顔が目に浮かぶようだ。


「ははっ、ただいま皆。 アーサー王と友達だって話は本当だよ。 久しぶりに会ったけど、変わってなかったよ」


・・・おや?

俺の知っているスティールのキャラと違う・・・!?

サッとリーメルを見ると、彼女も驚いた顔をしていた。

竜たちまでもが「ほぅ」と感心したように彼の声を聞いていた。


『スティール先生、生徒の前ではクールですね?』


「そうだな・・・驚いた」


「ええ、これは予想外だったわ」


スティールはあれだけ騒がしかった教室をあっという間に沈め、生徒全員の点呼をすばやく行った。


「思っていたより優秀な教師だったんだな、あの人」


感心していると、スティールがいよいよ本題に入った。


「さて、今日は転校生がいるぞ」


『転校生』の単語にわっと歓声が起こった。リーメルを見ると、少し緊張しているようだ。

これが二十代だとは誰も気付かないだろう・・・。


「入って来てくれ」


スティールの合図で、リーメルと護衛の二人が中に入った。

途端、男子からの歓声と女子の「可愛い!」という声が上がった。


「自己紹介をお願いするよ」


スティールがリーメルに向かってニコリと微笑みかけた。

リーメルはコクンと頷き、背後の黒板に名前を書いた。


「私の名前はリーメル、王族よ。 横の二人はただの護衛だから気にしないでちょうだいね。 よろしくお願いするわ」


そう言って華麗にお辞儀した。

男子の指笛が響いた。


「わけあって、彼女の国は秘密事項だ。 詮索するなよー」


スティールが笑ってそういうと、生徒達は何故か盛り上がって、


「謎の美女、いいじゃん!」


などと興奮する始末。


「リーメル、あの席が貴女の席だ」


リーメルはスティールに言われた席に着いた。


「さて、城からお預かりしてきた竜は、本当は今日の昼休みに全校生徒に紹介する予定だったけど、お前達にはせっかくだから今紹介しておくことにする!」


またも教室に歓声が上がった。


「全員、入って来てくれ」


スティールの合図で、俺とルティと竜三人は同時に中に入った。



いよいよ、長いドッキリが始まる…。

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