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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第51話 学院へ ①

 もうすぐ出発の時間だ。

時計を確認した後、荷物をまとめた鞄を肩にかけて、ルティと共に部屋を出た。

スティールを迎えに部屋の前まで来ると、ちょうど彼も出てきた。

やはり緊張しているからなのか、動きが最初に城に来たときのようにぎこちない。


「・・・大丈夫ですか?」


「え、あ、だ、だい、大丈夫ですっ!」


うん、全く大丈夫ではないようだ。


「あ、セト様、先生」


リーメルもどうやら同じタイミングで部屋を出たらしく、廊下の角でばったり行き会った。

そこからは城の外まで一緒に行った。


外に出ると、予想していた通り使用人から騎士、王族までがお見送りのために外に出ていた。

俺たちの姿を見つけたアーサーが、ニコニコしながら近づいてきた。


「いや~、やっとこの時が来たようじゃな!」


この大掛かりなドッキリを企てた張本人だけあって、一番楽しそうだ。

だが、俺はそんなことよりもアーサーに言いたい事があった。


「アーサー、カスティの件、忘れてないでしょうね?」


急にその話を持ち出したのは、俺が忘れないうちに言っておこうと思ったからだ。

深い意味はない。

が、アーサーは何故か面白いように動揺した。


「あ、ああ! 忘れてないとも! もちろん! し、しかし、今か? まさか連れて行く気か!?」


「まさか。 流石に定員オーバーでしょう? そうじゃなくて、帰ってきてからしっかりお話させてくださいね」


アーサーは困ったように、しかししっかり頷いた。

すると、アーサーの横に控えていた大臣が一歩前へ出てきた。


「あの、セト様、本気なのですか?」


「俺がそんな冗談を言う人間に見えるんですか?(竜だけど)」


大臣は「いえ・・・」とだけ言うと、あとは黙った。

スティールとリーメルは頭の上にハテナが浮かんでいるが、これは放置だ。話したら絶対に大騒ぎするに決まってる。



アーサーが大きめの咳払いを一つして注目を集めた。


「さて、セトたちには今回スティールが選んだ竜達に乗って学院まで向かってもらう!」


城門前で三人が三頭のワイバーンへと変身した。


「さあ、張り切って行って来い!」


城門までの道筋にいた者たちが俺たちが通るためにサッと脇にはけて道をつくった。


「・・・俺、てっきり先生が乗ってきたような馬車か竜車で行くと思ってたんだけど?」


「「同じく」」


『我々も先程までそうだと思っておりました』


リーメルとスティールと三頭の竜のうちの誰かが俺の言葉に頷いた。

アーサーをチラッと見ると、口の動きで「そのほうが速いじゃろ?」と言っている。

確かにそうだが・・・。


「そういう話なら・・・」


俺は竜体へともどった。


『俺がまとめて乗せて行った方が速い』


風魔法でスティールとリーメル(護衛つき)とワイバーン三頭を背に乗せた。

が、スティールは現実を受け入れられていないらしく口をパクパク動かしているし、リーメルは顔を紅潮させて両手で口元を押さえているし、ワイバーン達は人間体に戻っている。

ルティはやはりすでに定位置にいた。


貴族たちの中には俺の竜体を初めて見た者もいたようで、リーメルやスティールと同じようなリアクションをとっている。

アーサーはまた子供のように目を輝かせている。


「確かに! お主が飛んだ方が速いな! 10分もかからんのではないか?」


『ははは、そうかもしれないですね。 じゃ、行ってきます』


そうして俺は首を背中に向けた。


『行きますよ。 ちゃんと捕まってくださいね』


足に力を入れて翼を広げ、思い切りジャンプすると共に羽ばたいた。

ある程度の高さまで来てから城を見ると、皆で手を振って見送ってくれていた。

それに対して俺は城の上空をニ、三回旋回して応えてから、ドラーク学院へ向かった。




「ま、まさか天竜の背に乗る日が来るとは・・・」


城が見えなくなったあたりにようやく正気を取り戻したスティールがそう呟いた。

リーメルがそれに対して何度も首を縦に振っている。


「なんて速いの・・・。 それにセト様、私達の身体を気遣って風魔法使っているでしょう?」


『そりゃあ、この高度とスピードに人間の身体じゃあ耐えられませんから』


「確かにこのスピードは・・・熟練の竜騎士でも耐えられないでしょうね・・・」


竜のうちの一人が言った。


「そもそも、私達ではこんなスピードは出せません。 流石さすがですね」


なんだが褒めちぎられているようで気恥ずかしくなった。

そうこうしているうちに目的地が見えてきた。


『ほら、見えましたよ。 あれですよね、ドラーク学院って』


背中から「え、もう!?」という声が聞こえてきた。

スティールが確認して、そうですと上ずったような声で言った。


『とりあえず、グラウンドに下ります』


広いグラウンドに降り立った後は、スティールの部屋に皆でお邪魔した。

グラウンドに降り立ったのはまだ真夜中のことで、透明化魔法こそ使用していなかったもののセトの身体は闇色のため、全く目立たずに降り立つことができたのだ。

スティール曰く、明日は早めに起きて皆で校長のもとへ挨拶に行くのだという。




「それは分かったけれど・・・狭すぎません?」


・・・スティールは一般市民。

貴族や王族のような大きな部屋のある家を持っているはずもないため、六畳ほどの小さな部屋に人間体の竜四人と人間四人と天虎一匹がぎゅうぎゅうになって納まっていた。


「ちょっといじってもかまわないかしら?」


リーメルが部屋の壁を触りながらスティールに問うと、スティールはコクンと頷いた。

それを合図に、リーメルが自身の魔力を練り始めた。


「・・・よしっ! いくわよ! 『拡大エンラージ』!」


唱えたと思ったら六畳しかなかったスティールの部屋が、家具はそのままにまるで王の間並に広くなった。


「お、おお・・・」


スティールは感動しているようで、アーサー並に目を輝かせている。

・・・この感覚は、おそらくルーネがいつも使っているあの魔法だ。

なるほど、拡大エンラージというのか。


「セト様はもう知っていると思うけれど、先生のために言っておくわね。 この魔法は空間魔法で、ここはさっきの小さな部屋の空間を捻じ曲げて作った空間なの。 だから部屋の外側から見ても何も変わりはないわ。 それとこの魔法の効力は、術者の腕にもよるけど一日よ。 だから明日中にあたし達が住めるような場所を見つけないといけないってわけ」


「あ、その点はご心配なく。 校長に言えば恐らく寮を貸していただけると思いますので」




その夜俺たちは各々持ってきた枕や毛布に包まって眠った。

因みに、この部屋に女性はリーメルだけだったため、何かあったらいけないと思って彼女の周りに防御結界を張って寝た。



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