第50話 集合
昼になった頃に、俺とルティは昼食を摂るために姿を消しながら食堂へと足を運んだ。
食堂に着くなり姿を現すと、すでに食堂にいたお嬢様方が即座に俺に気付いて寄ってきた。
「ま、予想はしてたけどね・・・」
『こればっかりは仕方ありませんね』
部屋に食事を持ってくるように頼むこともできたが、俺自身は自分がそこまでの存在だとは思っていないため、はばかられたのだ。
「ご一緒してもよろしいですか」と興奮気味に言ってくる女性陣に、どうしたものかと困っていると・・・
「あらセト様、これから昼食ですか?」
声のしたほうへ首をひねってみれば、なんとリーメルがいつもの黒い護衛二人を従えて立っていた。
「あ、ああ。 リーメル様も?」
「ええ。 ちょうどいいわ、一緒に食べましょう」
「あ、はい」
リーメルという王族の登場で、今まで周りにいた貴族たちは身を引いたようだ。
助かったと思いながら、白い丸テーブルの席に腰掛けた。
「いよいよ今日ですね。 それにしても、リーメル様はどうして学院に行こうと思ったのですか?」
「リーメルでいいわよ。 敬語も要らないわ。 貴方の身分って、正直王族なんかより遥かに上なのよ? 自覚あるの?」
「え、そうなんですか? ・・・でも、俺はこのままでいいです。 急に直せといわれてもやりにくいですし」
鼻の頭をポリポリ掻きながらそう応えると、リーメルは「まあ、貴方らしいわね」と笑った。
「で、どうしてあたしが学院に行きたいと思ったかだけど、単純に興味があるのよ。 貴方自身にも、学院にも。 あたしは王族だから、小さい頃から英才教育っていうの? それを受けていてね、学校に行く必要がなかったのよ。 そのせいもあるかな、学校っていうものにいつからか憧れていたのよ。 因みに、今回あたしは転校生として付いて行くことになっているわ。 お兄様に頼んだの。 あっさり承諾してくれたけどね」
やはり王族には英才教育なるものが存在するのか・・・。
大変なんだな。
「じゃあ、友達とかは?」
「友達って言える友達はいないわね・・・。 過去にものすごく仲の良かった貴族の男の子がいたけど、誘拐されてそのまま殺されちゃったから・・・。 よくある話よ、王族とか貴族とかっていう身分だとね。 あたしも何回か誘拐されかけたことがあるわ。 だから彼らがついてるの」
言いながら、両サイドの護衛の二人を交互に見た。
「そうなんですか・・・。 殺されることもあるんですね・・・」
「あ、ちょっとセト様、そんな暗い顔をしないでよ! 王族に生まれるってことは、そういうことなのよ。 皆それは割り切って生きているの。 それに、他人に心配されるほど弱くはないわ。 誘拐されることがあるから、あたし達は幼い頃から武術も習うの。 あたしだってそんじょそこらの大人の男には負けないわ。 殺されたらその人自身の責任。 なんかこうして考えてみるとある意味、弱肉強食の世界ね」
フフッと肩をすくめて笑って見せたリーメルだったが、俺の目にはどこかさびしそうに見えた。
友達はいない、自由な幼少期を送れない、社会の目を気にしなければならない、常に命を狙われている。
それって、息苦しくないんだろうか・・・。
『そんなの、つまらないです』
ルティが言った。
「え?」
リーメルは首をかしげてルティを見た。
『楽しくないじゃないですか。 何一つ自由じゃない。 それじゃ、他愛ないおしゃべりだってままならないはずです』
ルティはリーメルを真っ直ぐ見てそう言った。
リーメルの目に、一瞬の動揺が見えた。
「そ、そんなことないわよ。 確かに友人と呼べる人はいないけれど、社交界で同年代の人たちとおしゃべりできるもの」
『・・・リーメル様は、草の上を誰かと駆けたことはありますか?』
リーメルは首を横に振った。
『すごく、楽しいです。 セトさんと遊ぶとき、僕らは草の上を駆けてそれから空を飛びまわるんです。 何も考えないで身体が動くままに。 何が楽しいかと言われたら困りますが、自分は何からも縛られていない、世界の一部だって感じることができるんです。 それがすごく、すごく気持ちいいんですよ』
ルティの念話は軽くはずんでいた。
本当に楽しそうに。
そこで、リーメルは幼い頃の記憶を思い出した。
あの草原にいた自分と同年代の子達は、何がそんなに楽しいのか、草原を勢いよく走ったかと思えばそのままごろんと横たわり、乱れた息のまま笑い合っていた。
そうしている彼らを羨ましく思ったことも思い出した。
「・・・そうね、そうできたら、楽しいでしょうね・・・」
「じゃあ、今度乗せてあげますよ。 一緒に風を感じましょう。 きっと気持ちいいですよ」
俺の言ったことが信じられないのか、リーメルは大きな瞳を何度もパチパチと瞬きした。
「ほ、ほんと?」
「ええ」
『セトさんはここでそんな悪質な嘘はつきません』
悪質って・・・。
しかしリーメルを見ると、少女のように目を輝かせて喜んでいた。
それから料理が来るまで、やはり三人(二匹と一人)で学院について語り合った。
運ばれてきた料理を食べていると、食堂の入り口に男が立っているのが見えた。
やけにおどおどしていると思ったら、スティールだった。
「先生、こっち!」
手を振って気付かせると、彼はホッとし表情でこちらに早足で向かってきた。
「ああ、良かった。 どうしたらいいかわからなかったんです。 ・・・あの、こちらは?」
「え? ・・・ああ、先生あの時パニックでしたから、覚えてないんですね。 こちら今回一緒に学院に行くことになった、カスカード王国の第一王女リーメル様です」
「セト様から紹介されたとおり、リーメルよ。 転校生としてご一緒させていただきます。 よろしくお願いしますね、先生」
スティールがまたもぶっ倒れそうになった。
『先が思いやられますね、セトさん、リーメル様』
「全くだな」
「全くですわね」
次回やっと学院に行きます!
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