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竜となったその先に  作者: おかゆ
第一章 出会い
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第5話 ルティの目覚め

 ルティがまだ起きない。

あれから結構時間がたった。

時計が無いから正確な時間は分からないが、この日の高さからしてもう昼だろう。


(いくらなんでも寝すぎだろ・・・)


この数時間で、外に転がっていた盗賊達はいつの間にか来ていた荷馬車につめられて、どこかに運ばれていった。


(そういえばあの荷馬車、ここに盗賊団がいるってどうやって知ったんだろう)


そんなことを考えて首をひねると、背後から「ンニャー・・・」なんて鳴き声が聞こえてきた。

驚いてそろりと振り返ると、どうやらルティの寝言らしい。

虎の子供とはいえ、虎の口から「ニャー」なんて鳴き声が出るとは思わなかった・・・。


『ルティ、そろそろ起きて。もう昼だよ、たぶん』


「ニャウ~」


寝返りを打って背中を向けられてしまった。

正直、可愛すぎて起こすことが罪なんじゃないかと思えてくる。


俺は頭を振って、そんなわけ無いだろと心の中でつっこんだ。


『あーもう、しょうがないなぁ・・・』


俺はルティの首根っこを咥えて、例の泉に向かった。

水浴びでもしたら、頭がスッキリするんじゃないかと思ったためだ。


崖から飛び降りて、翼を広げた。

このときのフワッと身体が浮く感じが、実はかなり好きだったりする。

チラ、と口元のルティを見た。

風を受ければ流石に起きるかな?と思ったが、これはかなりの強敵だ。

まだ夢の中にいるようだ。


『ルティ?ルティくーん・・・?』


『・・・』


だめだこりゃ。

ルティの母親は、どうやってルティを起こしていたのだろうか・・・。


そうこうしている間に泉に到着した。

俺は大胆にも泉のど真ん中に降り立った。

ゆっくり着地したつもりだったが、結構な水しぶきがあがった。

その水しぶきが、予期せずしてルティの足にかかったらしい。


「ピャッ」


面白い鳴き声が聞けた。


『起きた? ルティ』


声をかけると、状況が上手く飲み込めていないルティは少しの間呆けていたが、ハッとなって手足をじたばたさせた。


『あわわわっ! お、おはようございます!!』


その慌てっぷりがなんとも可愛らしくて、思わず「グルルル」と笑ってしまった。


『おはよう、ルティ』


言いながらルティを地面に下ろした。

ルティは顔に少し跳ねていた水滴を前足で拭った。


『はぁ、吃驚しました』


吃驚したまんまの顔でそう言われた。


『だってなかなか起きなかったから』


笑って返すと、ルティも『えへへ』と笑った。


『では明日から、ぼくの耳元で大きな声を出してください。 吃驚して起きるので』


『それ結局吃驚して起きるんじゃん』


するとルティは『あ』という顔になり、また笑った。


『それもそうですね』


俺はルティと話している間、気付かれないように爪を洗っていた。

血がこびり付いていたためだ。


それにしてもこの泉、思っていたよりもずっと深い。

中央の深さは、背丈が6mほどある俺が、翼の生え際の辺りまでどっぷりとつかることができるほどだった。

そこで十分に身体を水で流し、血や盗賊団の臭いを完全に消すことに成功した。


(これでよし)


満足したところで陸に上がった。

ルティも毛づくろいをしていたようで、寝癖(?)がついていた毛並みが綺麗になっていた。


ルティが俺を見上げてきた。


『・・・何?』


『セト様、水がキラキラして綺麗・・・』


え、と思って自分を見た。


・・・なるほど。

黒い鱗に水が付き、それに日の光が当たって反射しているようだ。

ところで・・・。


『なあルティ、その”様”っていうの、やめないか?』


するとルティは、小首を傾げた。


『どうしてですか?』


『その・・・なんていうか、落ち着かないんだ。セトでいいよ』


お願いすると、ルティは困った顔をした。


『え、そんなのできません!竜を呼び捨てにするなんて!』


『だって、この名前はルティが付けてくれたものだろ?いいじゃないか』


そう言うと、ルティは『う・・・』と言葉に詰まったようだった。


『それは・・・そうですけど・・・。 ・・・じ、じゃあ、セトさんで・・・』


ルティはうるんだ上目遣いでじ…と見つめてきた。


(ぅぐ・・・。 それは反則技だろ・・・)


『・・・しかたないなぁ・・・』


とうとう、俺が折れた。

ルティはホッとしたようだった。


昨日の時点では、とりあえず俺の巣に来いと言ったが、いつのまにか俺もルティもこれからずっと一緒に行動を共にする流れになっていた。

俺はそれが嬉しかった。


そんなことを思っていると、ルティから「くぅ~」という音が聞こえてきた。

俺はまた、ルティが鳴いたのかと思ったが、違ったらしい。


『・・・お腹すきました』


ルティがニッと笑って言った。

力が抜けるような、そんな笑顔だった。


『そうだな』


俺も同じように笑顔で返した。


・・・ん? でもちょっと待てよ・・・。


(竜って何食べるの!?)


思わぬ壁にぶちあたった。

そういえば昨日から何も食べていない。

そう思うと、急にお腹がすいてきた。


『なあルティ・・・ってあれ!?』


さっきまでルティがいた場所を見ると、ルティがいなかった。


(ど、どこいった!!?)


キョロキョロと探していると、右の茂みからルティがぴょんと飛び出してきた。

口にはすでに事切れている2羽の兎が咥えられていた。


『ただいまー』


『お、おかえり・・・?』


ルティは俺の近くまで歩いてくると、足元に兎を置いた。


『1羽どうぞっ』


ルティは赤に染まっている口で、そう言った。


『え、あ、うん』


俺がうなずくとすごく嬉しそうな顔をして、もう1羽の兎の腹に勢いよく齧り付いた。


・・・子供とはいえ、流石虎の子。

狩りなんてできたのか。


俺はごろごろと猫みたいに喉を鳴らして兎を食べているルティをまじまじと見た。

するとルティが、血が飛び散った顔で俺を見てきた。


『食べないんですか?』


ハッとなって口を兎の元に持っていった。


『た、食べる。 食べるよ?』


ルティはまた満足そうに自分の兎に向き直り、食べた。


(・・・意外と、ルティが食べてるのを見てもグロいとか気持ち悪いとかは思わない。 ・・・けど)


食べるのはまた違う。

俺のこの人間の記憶が正しいものであるなら、兎の肉を生で食べたことなど無かった。

そもそも、竜は兎を食べる生き物なのかどうか・・・。

まあ、こんな立派な牙もあることだし、肉を食べるのは確かだ。

・・・生で?

い、いやでも、さっきは人間の姿にもなれたし、案外人間が食べるようなものを食べるのかもしれない・・・なんて・・・。


考えたところで、腹は満たされないのは分かってる。


(・・・男は・・・度胸!)


意を決して兎を宙に放り投げ、そのまま空中でパクン。

血が兎から溢れたのがわかった。

しかし、想像していた鉄の味は無かった。

恐る恐る噛んでみると・・・。


(うまっ・・・)


なんていったらいいのだろう・・・。

とにかく、旨み成分的なものだろうか? それが噛むたびに口の中に広がっておいしかった。

まあ噛むと言っても、竜の俺には頬袋が無いため、数回顎を動かして飲み込んだのだった。


『流石竜ですね。一口で食べてしまうんですね!』


『身体の大きさが違いすぎるからな・・・』


と言っても、これが俺の記憶では初めての食事だったわけだが。

・・・一回食べ物を口にしてしまうと、余計にお腹が減った。


(この身体にあの兎は小さすぎるよな・・・)


どうしたものかと考えたが、いい考えが浮かばなかった。

この身体は一体どこで餌を調達していたのだろう・・・。


『ルティ、ちょっと今日は遠くまで飛んでみないか?』


餌場を探しに行きたかった。


『はい!』


案外あっさりOKしてくれた。


『疲れたら、言ってくれよ?』


『分かりました』



そうして俺達は、雲ひとつない綺麗な青空へ白と黒の翼を広げた。


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