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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第47話 相対する

 城内に戻ると、ルティは庭で遊んでくると言って俺から離れた。

一人になった俺はダニエラを探していた。


「結局まだカスティに加担した理由が分かってないんだよな・・・。 アーサーはすっかり忘れているみたいだし」


呟きながら城の廊下をうろうろ歩き回っていた。

こうしていればどこかでダニエラに会えると思ったのだ。

しかし、この広い城の中でこの間のような偶然はそうそう起きない。

しばらく城の中を探索したが、やはりダニエラには出会えなかった。

途中メイドや執事に聞いてみるも、分からないという。



そうこうしているうちに、夜になった。

俺を見つけて「王の間へおこしください」と伝えた騎士の後をついていくと、やはり王の間には食事が並んでいた。

ルティもすでに来ており、アーサーの隣に座っている。

現在城にいる王族や貴族もほぼそろっていた。

個室で食べると言ったものもいるようで、ダニエラは王の間にはいなかった。


がっかりしながらとりあえずルティの隣に座ると、アーサーのもう片方の側の席に城門のところで竜を選んでいた教師の男が座っていた。

・・・見たところ、ガッチガチに緊張している。


(それにしても、アーサーが隣に座ることを許すこの人って、アーサーとはどういう関係だろう?)


ただの一般人の教師が城に招かれるはずもないし、その上アーサーとああも親しげに話しているとなると、そのドラーク学院ってのは結構なお坊ちゃま学校か、この教師の身分が実はものすごく高いか・・・。

でも王と対等に話せる身分なんて、他国の王くらいのものだ。

言っちゃ悪いが、この人はそうは見えない。


俺が手を顎に当てて考え事をしながら教師を見ていると、ルティが前足でつついてきた。

なんだと顔を向けると、『何してるんですか?』と聞いてきた。


「ああ、王の隣にいる人がいるだろ? あの人、なんであんなに王と親しげなのかなって思ってさ」


『確かに、平民ではまず城に入ることすら難しいですもんね。 アーサー様とかなり仲良さそうですし』


「だよな・・・。 ま、どうせすぐ紹介されるだろ」


『そうですね』




 そうして、全員揃ったところで、アーサーが立ち上がった。


「皆さん集まりましたな。 今宵わしがこの場に皆を集めたのは、友人を紹介しようと思ってのことじゃ」


そう言って教師を立たせた。

ああ、そういや古い友人とか言ってたっけ。


「あ、あの、スティール・ファムリアです! ドラーク学院で「竜騎士学」を教えています。 此度は城にお招きくださり、ありがとうございます!」


言い終わるが早いか、スティールは90度ほども頭を下げた。

緊張しすぎているのが端から見ても分かるため、そのうちぶっ倒れやしないかとはらはらしてみていた。


しかし、スティールの紹介が終わると、所々から拍手が起こった。


「あんたがスティール先生か。 息子がお世話になっているよ」


「スティール先生、お久しぶりです! 覚えておいでですか? 学院が懐かしい!」


「娘が言っていたとおり、なかなかのイケメン先生ね! セト様には敵わないけど!」


「貴女、そりゃセト様に敵う男がこの世にいるもんですか」


などなど、この場にはスティールを知っているものは少なくないようだ。

スティールもそのことに気付いたのか、ハッと顔を上げて王の間にいる面々を見渡すと、緊張でこわばっていた顔がフッと優しくなった。


「ああ、リーク君か! いや、もうリーク様ですね。 お久しぶりです。 すっかりたくましくなられましたね! それから、皆さんのご子息は大変優秀でいらっしゃいますよ!」


見知った顔がいることに安心したのだろう。

表情が随分やわらかくなった。

場が少し盛り上がってきたところで、アーサーが手を叩いて注目を集めた。


「スティール君を招待したのは、皆すでに知っておると思うが、学院へ一時的に行ってもらう竜を選んでもらうためじゃ。 そして選ばれたのはこの竜たちじゃ」


アーサーの合図でアーサーの後ろから三人の人が飛び出してきて、王の間の中央に並んだ。

そして綺麗にお辞儀をした。彼らは人間体になった竜たちだった。


「「「 スティール様、よろしくお願いいたします! 」」」


スティールは彼らの気迫に負けず、「こちらこそ」と言った。「竜騎士学」を教えているだけあって、流石に竜にはなれているようだ。


その時、アーサーは俺に向かって楽しげにウインクした。


(あ、なんか企んでる・・・)


「さてさて、スティール君については皆よく分かったじゃろう。 じゃが、わしがこの場に皆を集めたのは、このためだけではないぞ?」


その一言で、その場に「え?」という空気が流れた。


「実はな、スティールを驚かせてやりたかったんじゃ」


アーサーがそう言ってニヤッと笑うと皆なんとなく分かったようで、「ああ~」という顔をした。

ちらちら俺を見るものもいる。

スティールはキョトンとしてアーサーを見ていた。


「セト、ルティ、前へ」


「だから、俺は見世物じゃないっての!」


とは言いつつも、一応王の命令なので、ルティと共に前に出た。

アーサーは次にスティールを俺たちの前に立たせた。

何がなんだか分からないようで、スティールは首をかしげてアーサーを見た。


「スティール、お主、天竜についてはどの程度知っておる?」


「え、なんだ、突然? ・・・えーと、竜よりも一回りも二回りも大きくて、竜には前足か翼のどちらかしかないが、その両方が備わっていて、魔法を自由自在に操る存在。 姿を隠すのが上手く、存在が確認されても見つけ出すのは難しい。 また、過去に天竜と契約したものは世界を統一する力を得たとされている。 今年300年ぶりにこのグランティス王国で漆黒の天竜が確認された。 その天竜はグランティス王国の危機を救い、国民からは『英雄の天竜』と呼ばれている・・・と、このくらいかな」


スティールが話した内容には俺の知らないこともあった。


(え、姿を隠すのが上手い? それって透明魔法のこと? でも普通の竜も使ってたぞ? それに『英雄の天竜』は初めて聞いた)


アーサーはスティール説明に満足したようで、うんうんと嬉しそうに頷いている。


「では、スティール。 その今年現れた天竜については?」


「え、うーん・・・。 闇を連想させるような漆黒の鱗を持ち、このグランティス王国を救った英雄。 女子の間では人間体はかなりの美男子だという噂が流れている・・・としか・・・」


スティールが困ったようにアーサーを見ると、アーサーはイタズラっぽく笑って言った。


「なるほどな。 じゃが、その説明は不十分じゃ。 それでな、スティールお主、天竜の名前は知っておるか?」


スティールは首を振った。アーサーは楽しげに笑った。


「その天竜の名前はな、セトといって、傍らにいつも天虎を引き連れておるのじゃよ」


スティールはアーサーの言葉を受け、俺を見て、それからルティを見た。

それを数回繰り返した後、明らかに彼の顔が強張った。


「ア、アーサー、まさかとは思うけど、俺の目の前にいるこの方は・・・」


「『英雄の天竜』であり、漆黒の天竜、セト、じゃ」


途端、スティールは足の力が抜けたようにその場にぺたんと座り込んでしまった。

俺は慌てて彼に手を差し出した。

しかし彼は「とんでもないです」と言って慌てて立ち上がった。


「アーサー! 天竜様は帰られたのではなかったのか!?」


スティールのあまりの慌てぶりに、アーサーは随分満足したようだ。

めちゃくちゃ楽しそうに笑っている。


「はっはっはっ! 実はな、お主の学院にセトを連れて行ってもらいたいのじゃよ。 お主の助手としてな」


スティールはもはや涙目だ。

ワケがわからなくなってきたのだろう。

今の彼の状況はかなりかわいそうだ。

もし俺も頭が上がらないような大勢の人たちの前でこんなドッキリを仕掛けられたらパニックになるだろうな。

そんなことを考えていると、ガタッと誰かが立ち上がった音がした。

見れば、それはリーメルだった。


「アーサー兄様! 私もそのスティール先生について行ってもよろしいかしら?」


これには会場中がざわついた。

護衛の者たちまで驚いている。


「かまわんが、何故じゃ?」


「「「 えぇええ!? いいのですか!? 」」」


いいのかよ!? と俺もつっこんだ。


「兄様の友人がいる学院を見てみたくなったの。 セト様ともお話したいしね」


俺と話すという単語に貴族の女性達が反応したが、アーサーが「リーメルだけじゃぞ」と言ったことにかなりがっくりしていた。



その後、スティールには頭を整理する時間が必要だろうということで、食事の後は皆速やかに自室に戻った。

だが、俺だけは皆が出て行くのを最後まで待っていた。


(ダニエラの件、今度こそ聞き出してやる)


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