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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第44話 セトと王女様

 部屋に戻る途中、もう一度アーサーの下まで戻ってダニエラのことだけでも聞いてこようかと迷いながら歩いていた。


曲がり角。


 ドンッ


「うわっ!?」 


誰かにぶつかり、尻餅をついてしまった。

なさけねーと思いながらぶつかった人物を見ると・・・


「いたたた・・・。 ・・・ハッ!? セ、セト様!? ぁあの、お怪我はありませんでしたか!? 申し訳ありません! 私がぼーっと歩いていたばかりに!」


早口で全力で謝罪してきた可憐な少女は見紛うはずもない。


「・・・ダ、ダニエラ・・・?」


例の天竜誘拐事件に関わった彼女、ダニエラだった。

俺は困惑しながらも、彼女の差し出してくれた手を取り、立ち上がった。

まだ俺の目の前でぺこぺこと頭を下げている三大貴族の娘からは、本当に申し訳ないという気持ちが伝わってきた。


「あの、セトさ・・・。 いえ、名前でお呼びする資格は私にはありませんね。 ・・・天竜様、私は貴方に・・・なんとい言ってお詫び申し上げたらよいのか、ずっと考えておりました。 しかし、今こうして目の前にいる貴方に、私は『申し訳ありませんでした』というごくごく単純でありふれた言葉しか思いつきませんでした。 お許しください」


やっと頭を下げなくなったと思ったら、今度は目の前でぼろぼろ涙を流しながらそんな真剣な謝罪をされた。

俺は戸惑って、しかし彼女をこれ以上悲しくさせたらいけないと思い、今できる一番の笑みを彼女に向けた。


「ダニエラ、名前で呼んで。 俺の名前はセトだ。 『天竜様』なんて硬い名前じゃない。 君は確かに俺にひどいことをしたけれど、そんなに必死に謝ってくれるってことは、何か事情があったんだろ? 真剣に謝っている人を、俺は軽蔑したり馬鹿にしたりはしないよ。 カスティに手を貸した理由ワケ、教えてくれる?」


ダニエラは少しの間キョトンとしていた。

が、言われた意味をゆっくり理解していって、それが脳全体に行き渡った時、再び涙を流した。


「お、お許しくださるのですか? あんなひどいことをされたのに・・・? あんな・・・ひっく・・・ぅう・・・うわぁあああああん!」


俺はいよいよ困り果てて何とか泣き止んでもらおうと宥めに入った。

彼女の泣き声は長く続く城の大理石の廊下によく響き、数分で何事だと駆けつけた兵士や騎士達により、とりあえずその場はおさめられた。


後は頼みますと彼女を彼らに託し、俺は逃げるように部屋へ戻っていった。







 + + + + +






『どうしたんですか?』


部屋に入るなりその場でヘタ~っと座り込んだ俺に歩み寄りながらルティは尋ねた。

俺は先程までの出来事をルティに簡単に伝え、頭を抱えた。


・・・女性が泣くのを見るのは苦手だ。

どう扱っていいのかわからなくなる。


「はぁ~、まいった」




その後、気分転換にと思いルティと一緒に城下町へ出かけることにした。

城の者達には気付かれないように、透明化の魔法を使いこっそりと城を抜け出した。

以前のように護衛者を何人もぞろぞろとつけられてはたまったものじゃない。

あれではゆっくりお店をまわることすらできない。


無事城下町に着くと今日は休日ということもあってか、以前来たときよりも大勢の人が行き交っていた。

小腹が空いていたこともあって、出店のような場所でルティの好きなラビネットというらしいの肉の串焼きを買って、噴水のある綺麗な広場のベンチに座って食べた。

噴水付近では小さな子供達が楽しそうに遊んでおり、時折噴水の水をかけ合っていた。


(こういう町での暮らしも、案外のどかでいいもんだな・・・)


ルティは温かな日差しと満足感で眠くなったのか、俺の足元でうつらうつらとしていた。

俺も噴水の水の音と少し離れたところから聞こえてくる子供達の元気な声で眠くなり、少しの間だけと思い、眠りやすい体制(ルティのお腹を枕代わりにして)になり、目を閉じた。






 + + + + +






そのころ、一人の少女が護衛者数人を引き連れてグランティス城の城下町を歩いていた。

ある国の王族である彼女は、今日このグランティス大王国に遊びに来ていた。


「ねぇ、一休みしましょう。 あの噴水のある広場がいいわ」


一通り洋服店や雑貨屋、出店を見て回った彼女は、流石に疲れたのか、遊びに来ると必ず行くようになったこの城下町の広場へ行くことにした。

あそこは噴水の音が綺麗に聞こえてきて、休むにはもってこいの場所である。

それに微量ながら噴水の水からは魔力が散布されているため、魔力を持つものにとって、本当にもってこいの休憩所であるのだ。


広場に着くと、いつも座るベンチへと目を向けた。

そして目を丸くした。


「な、なに? あの人垣・・・」


彼女がいつも座るベンチには、大抵誰も座っていないことが多い。

ところが、今日はその場所を大勢の人・・・しかも女性が囲んでいる。

だというのに、別段騒いでいるわけでもなく、皆うっとりと目を細めて取り囲む何かを見つめているのだ。


「・・・行ってみましょう」


護衛者は彼女に頷き、彼女の両脇をがっちりガードしながらついていく。


「あの、これはいったいなんの集まりですの?」


近くまで来ても囲んでいる何かを見ることができなくて、もどかしく思いながら近くの主婦らしき人に尋ねた。


「え? ・・・あ、貴方はリーメル様!?」


その主婦の声に女性達が反応し、彼女、リーメルを見て驚いた顔をした。

リーメルは頷くと、もう一度同じ質問を繰り返した。

女性達は口で言うより見てもらったほうが速いと、中の様子をリーメルに見せた。

人垣の中を見た瞬間、リーメルは硬直した。


「これは・・・」


中にいたのは滅多にお目にかかることのない綺麗な毛並みの天虎と、いままでに見たことがないほど美しい容姿をした輝くような純白の髪を持った青年。

それが寄り添うように眠っているのだから、見とれるのも無理はない。

事実、リーメルもその美しい光景に少しの間目を奪われた。


ハッとなって両サイドを見れば、なんと護衛者までもが目を奪われているではないか。

二人をヒジで小突いて目を覚まさせ、女性達に問いかけた。


「この方はどなたですの? 天虎を連れているあたり、ただ者ではないようですが?」


リーメルの問いに女性達はなにやら小声で相談し始めた。

そのうち一人の女性が話してくれたのは、とんでもないことだった。


「この方は・・・恐らく天竜セト様だと思われます。 以前お見かけしたときは艶やかな黒髪を持っておいででしたので、そうだとは言い切れませんが・・・。 彼は天虎を連れていましたので、まず間違いないと思います」


天竜ですって!?

例の天竜誘拐事件の、あの天竜!?

何故こんなところで護衛もつけずに無防備に寝ているの!?


リーメルは混乱して一瞬思考停止になりそうだったが、なんとか持ちこたえ、再び目の前の美青年を見た。

ちょうどその時、天虎が大きなあくびをして目を覚ました。

微妙な緊張感が辺りに走る。


天虎はまだ眠そうな目を前足でこすり、自分のお腹に頭を預けているセトを見て、それから周りにいる人垣を見た。

数秒の沈黙。


『・・・え?』


ルティが念話を発した。

それにより、セトも目を覚ました。

さらに強い緊張感が走る。

彼が自分の髪を手ぐしで一梳きすると、純白に輝いていた髪が艶やかな黒に変わった。

感嘆があがる。

そこで初めて、セトは周りにいる人垣に気付いたのだった。


「・・・え?」




待ってくれ、どういう状況だこれは?

なんでこんなに俺の周りに人が集まってる?

広場には子供達しかいなかったはずだ。

それに俺が寝ていたこの場所付近には誰もいなかったはず・・・。

それなのになんでこんなに人が集まった?


俺はぐるぐると頭の中を回る仮説にワケが分からなくなった。

とりあえず・・・


「こ、こんにちは」


笑顔で挨拶しておいた。

・・・おい待て、なんで顔を赤らめる?

俺はふと、この主婦達とは全く異なった、しかしよく知った雰囲気をかもし出している、少女を見つけた。

この感じは、貴族か王族だ。

間違いない。


「・・・貴方は?」


立ち上がり思わず尋ねると、彼女もほんのりと顔を赤らめて、しかししっかりと自己紹介をしてくれた。


「私はグランティス大王国の属国、カスカード王国の第一王女、リーメル・カスカード よ。 でもね、普通名前は自分から名乗るものよ?」


やはり王族だったかと心の中で頷き、こちらからも挨拶をした。


「失礼しました。 俺は天竜セト。 この天虎は俺の相棒のルティです。 ところで、カスカード王国の王女様がグランティス王国に何をしに来られたのですか?」


「何を・・・。 そうね、観光とでも言っておきましょうか。 グランティスには小さい頃からたまに遊びに来るのよ」


へぇ~と言うと、時計を見た。


(もうこんな時間か・・・そろそろ帰らないとやばいな・・・)


そう思って、城に帰ると言うと、リーメルもじゃあ私も一緒にと言ってついてきた。

しかしそれではセトとルティとしては非常に困ったことになる。

こっそり抜け出してきたのだから、帰りもこっそり帰らねばならないのだ。

その事を彼女に話すと、呆れながら了解してくれた。

申し訳ないと謝りながら、透明化の魔法をかけてから竜になり、城へ帰った。


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