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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
42/86

第42話 スティールの狼狽

  親愛なるアーサー王へ


  お久しぶりです。

  長らくお手紙を出さずに申し訳ありません。

  そうそう、ルティがまた大きくなりましたよ。

  馬くらいあるんじゃないでしょうか・・・。

  ここまで来るともうほとんど成獣並の大きさだそうです。

  

  本題に入ります。

  臨時教師の件ですが、どこの学校でどれくらい何を教えるのか、詳細をお願いします。

  このお手紙を出したら数日後に俺も城へ向かいます。

  それと、カスティはどうしていますか?

  子供は死刑になることはないと聞きました。

  ちゃんとご飯食べてますか?

  ・・・ひとつ、お願いがあります。

  カスティを俺の養子にできないでしょうか?

  突然でしかも突拍子もないことを言っていることは分かっています。

  

  臨時教師の件もカスティの件もお城に行ったときにお聞きします。

  では、お城で。

 

  セト




セトから手紙が届いた。

大臣に耳打ちされて、アーサーはまさしく飛び上がるように喜んだ。

すぐさま大臣の手から手紙を受け取り、中を読み始める。

城を離れてから天竜セトが初めてよこした手紙の内容が気になって、王の間にいた家臣たちはそわそわとアーサーの様子を窺った。


しかし、最初はにこやかな顔でうんうんと頷きながら読んでいたアーサーの顔が、読み進めるに連れて険しくなっていった。

そんな主君の様子を家臣たちは先程とは別の感じでそわそわし始める。

セトに対してはいつも孫をかわいがるような緩みきった顔でいるのに、そのセトから来た手紙であんな国の一大事みたいな顔をされたのだ。


「王?」


家臣の一人が手紙の内容が心配でためらいがちに声をかけても、まるで聞こえていないかのように何度も何度も同じところを読み返している。

そこに書いてあることが信じられないというように時折困ったような表情を見せて。


見かねた大臣がアーサーの下までゆっくりと歩いていき、肩に手を置いた。

アーサーはそこで初めて家臣たちの存在に気が付いたかのようにハッとなってあたりをすばやく見渡した。

アーサーの目には心配しきった家臣たちの顔が映った。


「・・・す・・・すまんすまん。 セトから届いた手紙があまりにも嬉しくて読みふけってしまったわい」


アーサーが無理やり明るく取り繕うとしていることは、その場にいる誰の目にも明らかだった。


「数日後にセトが城に来るそうじゃ。 さっそく迎える準備にかかってくれ!」


「しかし、王?」


家臣の一人が声をかけても、アーサーはその者に向かって静かに首を振るだけで、何も答えてはくれなかった。

これは何を聞いても答えてくれないと察した家臣たちは、渋々といった様子でセトを迎える準備をするため、王の間を一人二人と出て行った。

残ったのは右大臣と左大臣だけ。


「・・・王、手紙にはなんと?」


アーサーはしばらく目を伏せていたが、ゆっくりと顔を上げた。

そして、無言のまま手紙を右大臣に渡した。二人の大臣はその手紙を読み、やがてアーサーと同じように表情を硬くした。


「こ・・・これは・・・!?」


「どういう・・・!?」


答えを求めるように二人の大臣は驚愕の顔でアーサーを見やるが、アーサーも困ったように目を閉じて首を横に振るだけ。


「何故・・・あの子供を・・・」


アーサーも同じ気持ちだった。

何故自分を襲った子供を養子にしたがるのか。

どうやら帰り際にあの子供に会っていたようだが、それと関係があるのか。

そのときに何か吹き込まれたのか。

はたまた・・・。

いくら考えてもセトがカスティを養子にしたがるこれだ! という理由が見つからない。


「何故じゃ・・・」


二人の大臣と王は、そろって重い溜息をはいた。






 + + + + +






「スティール先生、お手紙です」


職員室に若い女教師の声が響いた。

職員室にいる教師達は一瞬そちらに気をとられたように仕事の手を止めたが、すぐにまた仕事に戻った。


「誰ですか?」


スティールは目の前に差し出された手紙を受け取ると、差し出した本人に問いかけた。


「さあ・・・。 差出人のところには何も・・・。 印みたいなものもないですし」


スティールは手紙の外装をくまなく見てみたが、差出人に関する情報は何もなかった。

女教師にありがとうと礼を言うと、怪しく思いながらも何の印もない蝋で固められた封を切った。



  我が親友スティールへ


  久しぶりじゃな!

  突然手紙をよこすから何事かと思ったぞ。

  

  竜の件、任せておけ。

  とはいうものの、やはりお主に直接選んでもらいたいのじゃ。

  生徒に適した竜、というものがよく分からんのでな。

  そこで、今度そちらの学院に迎えを出すことにした。

  


「ぇええ!?」


そこまで読んで今度は職員質中にスティールの悲鳴めいた声が響き渡った。

クールで優しく、生徒からも教師からも慕われるスティールが叫び声をあげることは滅多にない。

イタズラ好きな生徒達がいくらスティールを罠にはめようとしても華麗にかわされるうえ、イタズラ返しにあうほどの、生徒から見れば強敵なのだ。

そんな彼が、あのスティールが、驚愕に目を見開き、目の前にあるものが信じられないというようにただの紙切れ一枚を凝視しているのだ。

職員室がざわざわし始める。



  迎えが着く前に予告用の鳥をお主に向かわせるからそのつもりでな!

  青い美しい鳥じゃから、すぐに分かる。

  では、数日後に会おう!


  グランティス大王国 アーサー・グランティス



スティールがここまで驚くことはまずないため、教師達は気になってスティールの元へ集まってきた。


「おいおい、お前がそんなに驚くことってなんだよ?」


「何やっても驚かない貴方が珍しい」


「その紙切れには一体何が書かれてあるんだ?」


スティールは集まってくる教師達に気付き、すばやく手紙を伏せた。


「な、ななななんでもない! なんでもないよ!?」


・・・明らかに狼狽しているのが見て取れる。

そんなスティールを(初めていじれる!)と集まってきた教師達はにやついた。

が、スティールはすぐに席を立ち、「ちょ、ちょっと校長のところへ行ってきます!」とだけいうと、手紙を持って逃げるように校長室へと向かった。


「あいつをあんだけ狼狽させる何かって・・・なんだ?」


残された教師達はそのことばかりが気になってほとんど仕事が手に付かなくなっていた。






 + + + + +






校長室に駆け込んだスティールは、すぐさま校長に手紙を見せた。

それを見た校長も、スティールと同じ反応を示した。


「・・・え?・・・」


「ですよね」


「えっ」


校長は自分の目が信じられないらしく、目線がスティールの顔と文面を何度も何度も往復した。


少したち、校長はやっと本来の落ち着きを取り戻・・・せてはいないが、なんとか話せる程度には回復した。


「・・・君と王様って・・・知り合いだったのか!?」


「え、そっち!?」


スティールは思わずそう返してしまった。

慌てて「すみません」と言うと、とりあえず先程の問に頷いた。

どうやら校長は城から使いが来ることよりも俺とアーサーが知り合いだったってことに驚いたらしい。


「ま、まあ、そちらの方も驚いたのだが、・・・本当に城から使いが来るのか?」


「ええ。 あの人・・・いえ、あの方はやるといったらやるお方です」


「誰かのイタズラ・・・ということは?」


「文面の字は間違いなく彼の字です」


「お主が先に王に手紙を出したと聞いたが?」


「ええ、本当です」


「いつ来るかは?」


「わかりません」


校長がうーんと唸る。

そりゃそうだ。

いくら生徒の両親が城に仕えているからといって、生徒ら自身は城に自由に出入りする権限は持っていないし、いくら国中から集められたえりすぐりの教師達がいるからといって、別に彼らは城とはなんの関わりも持っていないのだから。

城に仕える者を育てる学校であるから、城で実際に働いている騎士や兵士を臨時教師として来てもらうために、()()が直接生徒の親に頼み込むことはある。

が、一教師が一国の王に直接学校関連のことを頼んだことはなかった。

あったとしても、手紙を出したのがスティールでなければこうも事はうまく運ばなかっただろう。


「・・・よし。 お主は迎えが来たらすぐに城へ行けるようにしておけ。 授業中であっても、だ。 その後のことは任せておけ。 代わりの教師を教室へやる」


「あ、ありがとうございます」


数日後に来る非現実に、スティールは若干の不安と期待を覚えた。


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