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竜となったその先に  作者: おかゆ
第三章 ドラーク学院
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第41話 突然の教師依頼

 グランティス大王国からまたも手紙が届いた。手の中にある”いかにも”な感じの手紙についている封のグランティス王国の印を見て、セトは溜息をついた。


またか、と。

手紙の内容はこうだ。


  

  親愛なる天竜セト殿。


  元気にしておるか?

  わしは変わらず竜たちと遊んでおるよ。

  おお、そうだ、急にこの口調になっているのはな、家臣とルーネの奴から

 「王たるもの、もっと威厳を持った話し方にしてもらわねばなりません」

  と言われてしまってな。

  まだ慣れぬが、ルーネに毎日特訓をしてもらっておるのじゃよ。


  今回手紙を出したのはな、セト、お主を我が国の学校の臨時教師として迎えようと思ってのことじゃ。

  天竜なんて珍しい高貴なお主に、子供達を触れ合わせたいのじゃ。

  この案にはいつも大抵わしの案を没にする家臣も頷いたのじゃ。

  なかなか良い案だと思うが、どうじゃろうか?

  お主さえよければ、すぐに迎えのものをよこそう。


  色よい返事を待っておる。


  グランティス大王国 国王 アーサー・グランティス




村に帰ってきてからというもの、数日置きにこうしてアーサーからの手紙は来ていた。

が、それらは全てセトがいなくなって寂しいとか、戻ってくる気はないのかとかいった内容の手紙で、返す気も起こらなかったため放置していた。

今回の手紙もセトに会いたいがために考え出した案のように思われてならないが、アーサーだけならともかく、家臣も頷く案ならまた無視というわけにもいかない。


「・・・ったく、頭使ったな・・・。我が儘王め」


ガシガシと頭をかき、村長の家へと足を運んだ。

手紙とその内容を言うと、ウルテカはしばらく黙った後、その学校についてアーサーに聞いてみるようにとだけ言った。

しかたなく、もうすっかりおなじみとなったコロラドの町へルティと共に出かけ、適当な便箋を買って家に帰った。


「・・・さて、書き出しをどうしようか・・・」


『なんだか面倒な話ですね?』


トコトコとセトの座っている椅子の隣に来てルティはお座りの体制をとり、そこから机上のまだまっさらな便箋を覗き込んだ。


「でも、臨時だからな~。 そんなに長くはないと思うんだよ。 でも、あのとんでも大王様が俺に会いたいがために学校側に頼み込んだとも思えるし…」


ルティは便箋に向けていた視線を今度はをセトに向けて首を傾げた。


『セトさんはアーサー王が嫌いですか?』


「そんなことないよ。 むしろ好いてるくらいさ。 ・・・一緒にいる間はね。 でも離れると言ったら行かないでくれだのもう少しだのと子供みたいに喚くだろ? あれがなければなぁ・・・。 離れたら離れたでこうしてしつこいくらいに手紙を出すし。 ・・・でも嫌いじゃないんだよ・・・。 変だな」


自分の言っていることが若干矛盾していることには気が付いている。

セトは あはは と微妙な笑いをしてもう一度便箋に向かった。


『変じゃないですよ。 僕も同じです。 アーサー王は嫌いじゃないけれど、別れ際のアーサー王は苦手です』


ルティはグルルっと喉を鳴らして顎を机上に乗せた。

その仕草が可愛くて、ペンを置いた手で頭を撫でた。


「・・・とりあえず、出だしは『親愛なるアーサー王へ』でいいか」


呟いて再びペンを持ち、便箋の左上にペン先を持っていった。






 + + + + +






 セトにアーサーからの手紙が届く数日前。


「王、いい加減に諦めなされ!」


「そうですぞ! セト殿は帰られたのです! 天竜を無理に引き戻す権限まで、王はお持ちでありませぬ!」


家臣にそう怒られてしゅんとなっているのは世界各国を束ねるグランティス大王国の国王。

国民の前では王らしい立派な王なのだが、竜の・・・今はセトのこととなると、どうにも子供っぽくなる。


家臣はそんな王ではいけないと、竜好きの主君であるアーサーに1ヶ月竜に会う事を禁じたり、竜たちに事情を話して王の前では人型をとるようにさせたり、そのほかにも数々の対策をしてみたが、まったくと言っていいほど効果はなかった。


そんなある日、アーサーの古い知人から一通の手紙が城に届いた。

彼は現在はグランティス大王国で一番有名な竜騎士養成学校、ドラーク学院の一教師を務めているそうだ。

彼から届いた手紙には、




  無礼を承知でこの手紙を書いた。


  元気か、アース?

  俺は相変わらずだよ。

  お前はあの時からもう王になることは決まっていたな。

  進路が決まっていなかった俺には羨ましかったよ。

  でも、いざお前が王様やってるのをみると国のことを第一に考えなきゃならないってのは、結構大変そうだと思ったよ。

  この間の反乱で怪我してないか心配だったけど、昨日の新聞に笑ってるお前が乗っていて安心した。


  なんで俺がこんななんでもないときに手紙を出したか。

  それはな、ちょっと頼みがあってのことなんだ。

  お前のとこの優秀な無契約竜を二~三頭貸してほしい。

  うちの学園にも何頭かいるが、やっぱり初心者にまたがらせるにはちっと危なっかしいんだ。


  そういや天竜様は帰られたと聞く。

  俺もできることなら一目お目にかかりたかったもんだ。

  城下町に住んでる連中は皆見にいったんだって?

  すごいお見送りだったろうな。


  とまあ、そういうわけだから、もし許可してもらえるのなら返事をくれ。

  そうじゃなくても返事をくれ。


  どこかでまた昔みたいに話せたらいいな。


  スティール・ファムリア



とあった。

アーサーはこれ幸いと家臣に手紙のことを話し、サプライズとしてセトを向かわせたらいいんじゃないかと言うと、いつもはお堅い家臣達が珍しく「それはよい考えですな」と頷いたのだった。

喜んだアーサーはその日のうちにセトへの手紙を書き上げ、国で一番速い鳥に手紙を預けた。


家臣たちが頷いたのには理由があった。

アーサーの家臣の多くには子供がいる。

その子供が目指すところは、親の「城」での仕事に憧れ、大抵騎士やら竜騎士を目指す傾向にある。

もっとも人気の職業はどの国に行っても同じで、「竜騎士」が将来就きたい仕事不動の一位を獲得していた。


親が城で働いている ⇒ 金持ち ⇒ 自然と国一番の学校に入る ⇒ ドラーク学院


つまりは、城で働いている者の子供の過半数がドラーク学院に通っているわけで、当然子供を教える教師はより良い教師がいいと望むのは当然で・・・。

つまりは、そういうことだ。

アーサーは全く気が付いていないが。






 + + + + +






 セトに手紙が届いた頃、ドラーク学院では―――。


「先生、王様にお手紙を出したって本当ですか?」


一人の中学生くらいの男の子が、背の高い温和そうな男性に話しかけた。

その男性は腰まである長い茶髪を首の辺りで一本に結んでいた。

歩くたびに揺れる茶色の長い毛束が、狼の尾を連想させる。

並んだ生徒に話しかけられてニコリと微笑む。


「ああ、それか。 本当だよ。 でも、俺誰かにそのこと話したっけ? 知らぬ間に噂が広まっちゃってるみたいなんだが・・・」


スティールは思案顔でうーんと唸って見せる。


「え、やっぱり本当なんですか?」


生徒は尊敬の眼差しで教師スティールを見る。


何故噂が広まったか・・・。

それは至極単純なことで、スティールがアーサーへの手紙を書いていたのはドラーク学院の職員室。

スティールの席はたまたま出入り口から一番遠いところにあり、滅多に人は通らない。

が、すぐ近くにポット的な魔道具が置いてあり、中には温かいお茶が入っているために、たまーに何人かがスティールの机付近を通るのだ。

スティールが手紙に封をして宛先を書いているところをたまたま通りかかった教師の誰かに見られ、話が広がったのだ。


「別に、たいした内容じゃないんだよ。 この学院の竜だと初心者が振り落とされてよく怪我するだろ? だから、国でしっかり躾けられたまだ契約者のいない竜を貸してもらおうと思ってね。 契約者がいると離れさせることになるから竜にストレスがかかるし、契約者に合わせた飛び方をするから、契約竜はだめなんだ。 ・・・今のとこテストに出そうかな」


「テスト」の単語を聞いて生徒は「え」と肩を震わせた。


「授業でまだやってませんよ!?」


本気で心配したため、スティールは慌てて「冗談、冗談」と言って制した。


「でも、近いうちに授業でもやるから覚えとけよー」


生徒は「うげー」と呟くと、スティールに手を振って近づいていた自分の教室に走っていった。

するとすぐに別の生徒が「スティール先生、」と呼び止める。

やれやれまた噂の話かなと少し面倒に思いながら、しかし嫌な表情は作らないように、「なんだ?」 勤めて笑顔で振り向いた。


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