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竜となったその先に  作者: おかゆ
第二章 神竜
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第39話 セト、脱出

 今、俺は目を瞑って先程まで隠れていた岩の上に登ろうとしている。

こうすれば女達の裸を見ずに男湯へと脱出することができると考えたのだ。

しかし・・・。


(思ったより難しいな・・・)


目を閉じた暗闇の中、岩肌の様子を手で触りながらゆっくりゆっくり形を把握して、掴める箇所や足をかけられる箇所を探す。

姿が見えないんだから女達に背を向けた側から登ればいいとも思ったのだが、それだと足を湯の中から上げる際に、どうしても水しぶきが上がってしまうのを見られてしまう危険性があった。

それと、徐々に岩肌に付くぬれた手形を見られてしまう可能性も絶対にないとは言い切れなかった。


目を瞑っているせいだが、岩がやけに大きく感じる。

こんなに大きな岩だったかと思うほど、精一杯上に手を伸ばしてもてっぺんが把握できない。

はやくはやくともどかしく思いつつ、滑り落ちないように細心の注意を払って登る。


やっとてっぺんに上りきったときは、自然とガッツポーヅをとっていた。


(長かった・・・。 ここまでの道のり! よくやった俺!)


ここまで来ればこっちのもの。

くるりと男湯の方に向き直り、目を開けて思いっきりジャンプする。

二つの風呂を隔てていた高い木の壁を飛び越え、男湯の露天風呂にもある女湯と同じ感じの岩の上に音を立てずに着地する。


すでに露天風呂に入っている男達もいたために、まさか水しぶきを上げて着地するわけにはいかなかった。


(・・・いてもいなくてもここに着地するつもりだったけど・・・)


辺りを見回してどこにいたことにすればいいかを考えた。

女湯の方に近い岩の影にいたことにすると、非常に決まりが悪い。

女湯から聞こえてくる声を盗み聞いていた、と思われるに違いないからだ。

そうならないためには、女湯から一番遠い岩の影にいたことにすればいい。

幸い露天風呂にいる男達は皆女湯に近い方にいる。

もちろん彼らの目的は女達の会話なのだから当然といえば当然だ。


女湯側から一番遠い場所にある岩の上に飛び移ると、音を立てないようにゆっくりと湯の中に入る。

そこでやっと透明魔法を解いた。


(いろいろ疲れた・・・)


ずっと緊張していたために精神的に疲労困憊だった。

大きく伸びをしてさて上がろうかと考えたとき、大変なことに気が付いた。


(着替え女湯の方の脱衣所の中だ―――!!!)


「やっべ!」


思わず、声に出してしまった。

しまったと思って口を塞いだが、遅かった。

男達がこちらを振り返ったのが分かった。

数人の男が俺のいる岩の陰まで歩いてきて、俺を見るなり口をあんぐりと開けた。


「セ、セト様・・・ですよね・・・?」


当たり前だろう。

この村でこんなに髪の長い男が他にいるか。

口を押さえていた手を下ろし、何故そんなことを聞いてくるか疑問に思って首をかしげて彼らを見返す。


「いつからそこに・・・というか、その御髪おぐしはいったい・・・」


言われてハッとなり、慌てて魔力を抑えた。

目の前にいる男達は、俺の光るような純白の髪が一瞬にして漆黒へと変わったものだから、自分の目が信じられないというように目をこすった。


「・・・なんのこと?」


俺はとぼけてみせた。

なるべくパニックになりかけている心のうちを読まれないように訝しげな表情を作って。

しかし年寄りじゃない彼らにはあまり効果はなかった。

見てしまったのが一人ならまだしも、三人とも見てしまったためにお互いで確認し合われたら言い逃れはできない。

そしてやはり、三人は「見たか?」「見た見た」と若干興奮気味で確認し合い、説明を求めるように俺を見た。


「・・・・・」


俺はそんな三人を無言で見つめる。


(ああ、なんでこうなるんだ。 頼むから今見たことは忘れてくれ・・・)


途方に暮れてそう思っていると、彼らの目が一瞬虚ろになった。

しかしすぐに目に光が戻り、俺を見てぱちくりと瞬いた。


「あれ? セト様、こんなところにいらっしゃったんですか」


一人がさも今俺を見つけたかのように話しかけてきた。

他の二人も同様に今俺に気付いたみたいな顔をしている。


(・・・ど、どうなってる?)


今度は逆に、俺が目を瞬いた。

まさかとは思うが、さっき願ったことが本当に・・・。

いや、まさかな・・・。

ここはとりあえずラッキーと思い、彼らに向かって笑いかけた。


「あ、ああ、ずっとここにいたよ」


すると彼らは俺の手を取って、水臭いじゃないですかと男達が集まっているところへと引っ張っていった。


「皆、セト様がいらっしゃったぞ」


俺を振り向いた彼らは おお! と嬉しそうに声を上げた。


その後はしばらく彼らと狩りやら女達の事やらウルテカのことやらを話し合っていたが、セトの頭の片隅には、ずっと女湯の方にある自分の着物の心配があった。




(・・・どうしよう・・・)






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