第33話 ただいま
気絶したカスティにセトがつけられていた首輪をつけ、魔力を封じた状態で手足を拘束し、城まで連行することになった。
もちろん、ダニエラとノヴェルも。
動けなくするために切りつけた足をセトが自分で治療し、それからカスティと同じように施設の中に残っていた魔力封じの首輪をつけた。
負傷した兵士、騎士、竜たちの傷も治し、万全の状態でセトが自らの背に全員を乗せて飛んだ。
彼らはまさか神竜の背に乗れるとは思ってもいなかったようで、感激のあまりに涙を流すものもいた。
竜たちには人間体になってもらっている。
「王の背に乗る日がくるとは・・・」
これはギルバートだ。
『だって俺が飛んだほうが速いだろ?』
セトの言葉に、全員がうんうんと頷いた。
「確かに、竜の中で最も速いワイバーンの速度が遅く感じるほどの速さだ・・・。 しかもセト様、我々を気遣って魔法で我々の周りの風や空気を調節していますね?」
『だってこの高さと速さじゃ、竜たちは良くても人間じゃ耐えられないだろ?』
ラルク含む騎士達はそうですねと苦笑いした。
『ほら、もう見えてきた』
セトの言葉通り、もう目の前にまだ壊れた城壁が見える。
ワイバーンをもってしても30分はかかった施設から城までの距離を、セトはものの数分で飛んだのだ。
誰かが背中で「はやっ」と驚きの言葉を発したのが聞こえた。
突然、下からものすごい大歓声が響いた。
『な、なんだ!?』
驚いて下を見ると、城下町の住民がセトに向けて大きく手を振っている。
涙を流している人もいる。
ラルクがセトに言う。
「皆、セト様のことを心配していたんですね」
『そっか・・・。 俺はこんなに大勢の人に心配されていたんだな・・・』
しみじみと言うセトに、背中の騎士達が笑って言った。
「あははっ。 当たり前じゃないですか。 セト様は天竜である以前にこの国の救世主なんですから」
そうだったと笑って返すセトの心は、嬉しさと申し訳なさでいっぱいだった。
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城門の前で皆を下ろし、人型になる。すると城内から大勢の使用人や貴族、王族が帰還したセトたちに向かって駆け寄ってきた。
その中でも、真っ先に駆け寄ってきたのはアーサーだった。
「セト殿ぉぉおおおおお!!!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔で迫ってきたため、思わずひょいとかわしてしまった。
「お、王!?」
振り向くと、後ろでズザザザーッと派手に転んでいる彼が目に入り、慌ててそばへ行って起こした。
「セト殿、無事であるか!? 怪我は!? ああ、着物がこんなに汚れてしまわれて…」
自分も今転んだために擦り傷やら服が汚れるやらで結構な格好をしているのに、やはりセトのことがよほど心配だったのだろう。
大粒の涙をぼろぼろこぼしてセトに抱きついた。
やれやれと思って回りを見回すと、駆け寄ってきた皆も王のその様子を見て、セト同様仕方がないなぁという顔で王を見ている。
(やっぱり王はなんだかんだで愛されているんだな・・・)
しかし、いつまでもこのままというわけにはいかないため、まだ自分の胸の中でおいおい泣いている彼の背中をトントンと叩いた。
「ほら王、いつまでそうしているつもりですか? 立場を考えてください」
するとすぐに涙を拭き、セトに向かって満面の笑みを見せた。
「すまない、セト殿。 こんな大変なことになるなんて…。 でも、本当に無事でよかった…! おかえりなさい」
王に続いて、回りにいた人々がセトに向かっておかえりと言った。
セトは、急に安心感が湧いてきて、涙を一筋流して応えた。
「・・・た、ただいま・・・!」
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連れて来たカスティたちは、いったん城内の牢屋に閉じ込めておくことになった。
後日改めて裁判をして彼らの今後を決めるそうだ。
セトは牢屋に連れて行かれるカスティの小さな背中を見て、そして自分のあの白い姿を思い出した。
これからも、カスティのように俺を悪い目的で利用しようとするやつは出てくるだろうし、俺が神竜だということが広まれば、そういう者たちはどんどん増えるだろう。
そういう奴らに今回みたいなことをされないためにも、俺はもっと強くならなきゃだめだ・・・。
カスティの背中がどんどん遠ざかるのを見送って、セトは一人決意した。




