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竜となったその先に  作者: おかゆ
第二章 神竜
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第31話 セトの嘆き

 魔力を使ってどこまでセトを思い通りに動かせるか散々実験した後、絶望を顔に貼り付けたセトをいったん実験室に置いたまま、近づいてくる魔力を確認するようにノヴェルとダニエラに指示した。

二人がいなくなると、カスティはその場で声を出して笑った。


「あっははははは! 僕はこれで最強だ! 神竜を自由に操れる!! もーたまんないっ!!」


セトの魔力が一瞬であったがあの首輪の封印を上回ったことには驚いた。

だが、それは彼の魔力量が素晴らしいということだ。

カスティは自然と笑みをもらし、なんともいえない優越感に浸っていた。





戻ってきた二人から情報をもらい、下がらせる。

そして、セトのいる実験室に戻ると、セトが怯えたように肩をビクッと震わせた。

それだけで、カスティの心はとてつもない高揚感に包まれる。


「神竜様が、いい(さま)だね。 こんな()()()相手にビクつかなきゃならないんだから」


クスクスと笑いながらセトに近づく。

セトは恐怖と絶望を映した目で自分を見ている。

そんなセトを見下ろしながら、弾んだ声で言った。


「行こうか」






 + + + + +






 『セトさん! セトさんどこですか!?』


ルティが念話で叫ぶ。

他のものも同様に、人間、竜、関係なくセトの名を呼んでいる。

しばらくそうしていると、立ち並ぶ施設のうちの一つの扉が開いた。

皆その開いた先を見つめる。


出てきたのは・・・


「随分早かったんだね?」


セトを攫った黒マント、張本人だ。

こうしてみると、背は小さいし顔立ちも幼い。

あの時はセトが攻撃されたことにばかり気をとられ、この人物をよく見ていなかった。


「お、お前、よくもセト様を・・・っ!!」


ラルクが剣に手をかける。

それに習って、他の騎士達も剣にサッと手を持っていった。


「ふふっ・・・そう焦らないでよ。 まずは自己紹介から! 僕の名前はカスティ。 カスティ・ロンバート。 神竜様を攫った張本人様だよ? ・・・なんてね」


クスクスと笑いながらふざけた自己紹介をしたカスティにラルクは青筋を浮かべて、低い声で名乗った。


「・・・俺はグランティス大王国騎士団団長、ラルク・ウィリアムズ・・・・今からお前を殺す男だ!!」


言うが早いか、ラルクは声を上げながらカスティに向かって走り出した。

ルティや騎士団、竜たちも、ラルクの後を追うようにカスティに向かっていった。


大勢が小さな自分に向かってきているというのに、カスティはしかし落ち着いていた。

怪しく目を光らせながら、自分の後ろで、ラルクたちからは建物の陰に隠れて見えていなかった人物を、その手に握る紐をグイと引っ張って日の光の下へとさらした。


出てきた彼の姿を確認するや否や、向かってきた大勢はその場でぴたりと足を止めた。


「・・・セト・・・様・・・・・?」


そう。

出てきたのは、両腕を拘束され、足に重りをつけているセトだった。

そしてその顔は、味方が大勢いるというのに、この世の終わりのような顔をしていた。


「ほらほら、どうしたの? 僕を殺すんじゃなかったの?」


カスティは子供の高い声でそうはやしたてる。

だが、誰も動かない。

動くことができない。


セトの表情を見て、ルティはカスティに向かって唸っていた。

ラルクも吠え掛かるように言った言葉が、ルティの念話と重なった。


『セトさんに何をした!!!』

「セト様に何をした!!!」


カスティはそれがおかしかったのか、ケタケタ笑った。


「あはははははっ 何をしただって? そうだね、君たちみたいな頭の悪い人たちには言葉で言っても分からないだろうから、その目に直接見せてあげるよ!!」


そういうとカスティはおもむろにセトの首につないでいた紐を切った。

ラルクたちは 何を? と思ったが、今がチャンスと思い、セトに呼びかけた。


「セト様!! 早くこちらへ!!」


しかしセトは動かない。

ラルクをチラと見て、諦めたようにフッと笑った。

ラルク達には、その笑みが何を示しているのかわからず、首を傾げるばかりだった。


何故自由に動けるようになったというのに、セト様は一歩も動こうとはしないのだろうか?と。


だが、その答えはすぐに分かった。


カスティが何か呟いたと思ったとき、セトの身体から魔力があふれるように出てきた。

そしてセトが手をラルクたちにかざすと・・・


 ゴォオオオオオオオ!!!


荒れ狂う炎が彼らを襲った。

それは詠唱無しの上級魔法だった。

ラルクたちはわけが分からないまま、向かってくる炎をなんとか避け、セトを見た。

セトが自分たちに向かって攻撃をするはずがない。

しかし、今放たれた魔力は明らかにセトのものだった。


よく見ると、セトの体にはところどころ鱗が見えており、角も生えていた。

ラルクがそれに気付いたことをカスティは見抜き、言った。


「あぁ、あれは僕がまだうまく彼の魔力を操れないから、出ちゃうんだよね。もっと練習しないと」


その言葉を聞いたものは我が耳を疑った。


「・・・待て・・・。 今、なんて・・・?」


カスティは、その反応を待ってましたとばかりに腕を広げ、楽しげに言った。


「まだ分からない? 僕は今や神竜を操ることのできる存在になったんだよ!!! さっきの攻撃も、僕がセトにやらせた!! すごいだろ!!」


そう言いながら、セトは今度はラルクたちの真上に真っ黒い雷雲を生み出し、雷を一斉に落とした。

竜たちのとっさの防壁魔法でなんとか防いだが、攻撃がやむと同時に防壁は粉々に破られた。


『…さすが王。 我々の防壁をこんなにたやすく破るとは…』


ギルバートが呟いたのを聞いて、ラルクは「そんなことを言ってる場合じゃないだろ!」と怒鳴った。

ギルバートは失礼しましたと言って再びセトに向き直る。


『セトさん!! 僕です! ルティです!! 止めてください!!』


ルティが必死に呼びかけても、セトからの念話は返ってこない。

カスティはルティの念話が聞こえたために、ルティに向かって言った。


「そこの天虎! 念話は無駄だよ。 念話は魔力を相手に飛ばして伝えてるんだ。 その魔力を僕が操ってるんだから、届いてはいるだろうけど、セト自身の意志で返すことは不可能だよ!」


『そんな・・・』


セトはそんなルティを見て悲しそうな表情をした。

だというのに、その手はルティに向き、強烈な電撃を浴びせた。


「ガルルゥッ!!」


ルティが倒れ、その身体が痙攣する。


「ルティ!」


ラルクが駆け寄る。


その様子を見ているセトは、涙を浮かべている。

・・・大きな風をおこし、竜巻となったそれを、ラルクたちのほうに向けて放つ。

それを竜たちが必死になって止める。


「あっはははははははっ! すごいや! セトの魔力は底なしだね!!」




そんな調子で、カスティはセトに魔法を使わせ続けた。

それを竜達や騎士達が必死に止める、それの繰り返しが、しばらく続いた…。





(もう嫌だ・・・! 止めてくれ!!)


 セトは仲間が自分のせいで傷つくのを、ただ黙って見ているしかなった…。




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