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竜となったその先に  作者: おかゆ
第一章 出会い
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第3話 だから、おやすみ

『ルティ、ここが俺の、まあ、言っちゃえば住処みたいなところだよ』


 洞窟の入り口に降り立つと、ルティにそう説明した。

 目が覚めた場所がここだったから、この身体はここでいつも寝ていたんだろうし、俺も結局今夜ここで寝ようとしているわけだから、”住処”という表現は間違ってないと思う。

 家っていう表現もなんかおかしい気がするし、住処でいいだろう。


『わあ! おっきいですね! ぼく、生きているうちに竜の住処を見ることができるなんて思ってもいなかったです!』


 ルティはお屋敷で飼われていたせいか、口調はかなり丁寧だが、この興奮っぷりは年相応に見えて可愛い。

 つぶらな瞳をキラキラさせて、尻尾を犬のようにぶんぶん振って、羽をピーンとのばして洞窟を見ているのだ。

 可愛くないと言う方が難しい。


『そんなに珍しいのか?』


 ただの奥が広い洞窟にしか見えないこの巣穴をこれだけ興奮して見られると、そう聞かずにはいられなかった。


『ぼくはまだ小さいので、いろんな知識が足りませんが、竜という生き物がどれだけ貴重かは、子供のぼくでも分かります。 母上が言っていました。 人間にとって竜とは神にも等しい存在だったと。 そしてぼくらにとっても、崇めるべき存在だ、とも。 いろいろ言い方はあるそうですが、とにかくセト様はものすごい存在なんですよ!? そんなものすごいセト様の巣だって、同じくらいすごいんです! だってすごいんですもん!!』


 …後半はわけが分からなくなっていたが、ルティが「竜すごい、珍しい、神」ってのを言いたかったのは分かった。


 …ん? ってことは、竜ってのはなかなか人前に姿を現さない生き物なのか?

 ルティの話だと、すぐ近くにカタリナって名前の町があるみたいだけど、この森にこの身体が満足できるほどの食べ物があるとは思えない。

 つまりこの身体はこの森以外にも餌を求めて飛んでたんじゃないか?

 それなら、上空を飛ぶ竜の姿を見ることも多々あるだろうに、俺の姿を目にしただけで喜んでいる様子だったルティの話からは、どうもそうではないらしい…?


『なんでだろ…?』


 つい念話にしてしまったらしい。


『何がですか?』


 ルティが聞いてきた。


『ああいや、なんでもないよ。 それよりほら、冷えてきたから巣の中に入りな』


 促すと、ルティは嬉々として中に入っていった。

 すぐに、『すごーい!』とか『ひろーい!』とか言う念話が聞こえてきた。

 はしゃぎっぷりに内心苦笑しながら、俺もすぐ後に入った。


 今朝起きたときは気付かなかったが、巣の真ん中にはやわらかい藁が敷いてあった。

 …本当に住処だったみたいだ。


『さあ、もう暗いから寝ような』


 そう言って藁の真ん中に丸くなった。


『はーい!』


 ルティは俺のお腹と尻尾の隙間に入り込み、同じように丸くなった。

 この藁、寝てみると案外ふかふかしてて気持ちいい…のだが、いざ寝ようと思ったとき、洞窟の入り口から冷たい夜風が入ってきた。

 この世界で今の季節がいつなのかは分からないが、かなり冷たい風だった。


『…ルティ、寒くないか?』


『んー、 ちょっと寒いかもです…?』


 子供は素直でよろしい。

 それにしても、どうしたらいいだろうか。

 風邪をひかれても困るしな。

 あの入り口から風が入ってこないよう遮断して、この中をあったかくするには…。


 そう思った瞬間、風が入ってこなくなり、巣全体がふわっとあったかくなった。

 急な環境の変化に驚いていると、強烈な視線をしたから感じた。

 ルティがまたあのキラキラした眼差しで俺を見ていた。


『流石ですね! 複雑な魔法をこんな一瞬でやってしまうなんて!』


 ま、ままま魔法!? 俺は魔法なんて使えちゃうの!?

 と、内心は大変なことになっていたが、ここで子供の夢を壊してはいけないという変な責任感が湧き上がった。

 俺はルティに優しく微笑みかけて、その場をごまかした。


『ほら、これでもう寒くないだろ?』


『はい!』


 ルティはそう返事をすると、満足そうにまたあの隙間で丸くなった。

 それを微笑ましく眺めていると、瞼がどんどん重くなっていった。

 目覚めてからいろいろあって俺も疲れていたのかもしれない。

 目を閉じると、すぐに意識が沈んでいった。




 …………真夜中くらいだろうか、俺はすすり泣く声で目が覚めた。

 声の出所は、どうやらルティのようだ。


 無理も無い。 母親を亡くしてからまだ1日もたっていないのだから。

 今まで泣かなかったのは、混乱していたのと、俺に会って興奮していたせいもあるだろう。

 俺が危険じゃないとわかって、安心したせいで、思い出してしまったんだろうな。


 まだこんなに小さいのに…。

 つらかっただろう…怖かっただろう…。


 俺は自分の懐で泣いている小さな白い相棒の涙を、尻尾の先でそっと拭った。


『もう俺がいるから怖くない、寂しくないぞ。 今は忘れて、ゆっくりおやすみ…』


 そう語りかけて、俺も眠りに落ちた。

 だがその慰めは、果たして本当にルティのための言葉だったのか。

 もしかしたら、俺自身に対してのものだったのかもしれない。


 

 ―――― ルティがいるから、怖くない、寂しくない ――――




       今はもうひとりじゃない。 だから、おやすみ。




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