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竜となったその先に  作者: おかゆ
第二章 神竜
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第29話 救出へ

 攫われたセトを追っていたルティたちは、セトが捕らわれている洞窟よりもかなり離れたところにある森の中にいた。


「くそっ! どこに行った!?」


ラルクがこぶしを握り締める。


セトの臭いを追ってきた一行だが、この森まで来て急にその臭いが途絶えたのだ。

竜たちも鼻をひくつかせているが、残念そうに首を振るところを見ると収穫はなかったらしい。


 ガササッ


背後の茂みから聞こえたその音に反応してすばやく振り返ると・・・


「こ、こいつは・・・サラマンダー!? なんでこんな森の中に!?」


こんな場所にいるはずのない竜が、自分達に向けて殺気を発しながらのそのそと茂みから出てくるのを、ラルクはルティの背で硬直して見ていた。


『ラ、ラルクさん・・・』


ルティは少しずつ後ずさりながら、震える念話をラルクに送った。


竜たちはそのサラマンダーに必死になって念話を送っているようだったが、全く届いていないのか、反応を示さない。


そもそもサラマンダーという竜は、普通火山に生息する竜で、人間嫌いなのが特徴だ。

食べ物も溶岩やマグマといったものしか食べないために、こんな近くに町があるような森の中にいるはずがないのだ。


(だとすれば、考えられるのはただ一つ・・・)


「契約竜・・・か?」


一人呟くように、しかし周りにいる騎士や兵士に知らせるように言った。

皆その言葉を聞いてぎょっとしたように目の前のサラマンダーを見る。


サラマンダーは気性が荒く、また食べ物も調達するのが難しいため、滅多に契約竜にするものはいない。

だが・・・。


「セト様を見失ったこのタイミングで出てくるって事は、あの黒マント、俺たちをはめやがったな・・・!!」


ラルクは悔しそうに歯を食いしばった。

ルティも怒りを露わにして牙をむき出し、爪を出した。

それを見て、皆剣に手をかけた。

竜たちも戦闘態勢に入る。


リンドブルムよりも二回りほど大きいサラマンダーは、一度立ち止まり、大きく息を吸った。

ラルクはそれを見て咆哮でもあげるのかと思ったが、口の端からチロチロと紅い炎が見えて、違うと悟った。


「皆、防壁用意!!」


ラルクの声に反応して、皆一斉に防壁を自分の前に張る。

直後、すさまじい熱気がラルクたちを包んだ。


「防壁を張っているというのに、なんだこのでたらめな魔力は! サラマンダーは強暴だとは聞いているが、魔力がこれほど多いとは聞いていないぞ!」


ラルクが味方の竜たちを見ると、彼らも驚いたように口を開けていた。


『リンドブルムより大きい時点でおかしいと思いましたが、まさか魔力まで増幅されて!?』


一匹のワイバーンがラルクの疑問に答えるように念話を伝えてきた。


(魔力が増幅? ってことはやっぱり、このサラマンダーは普通じゃないってことか? あの黒マントになにか細工されたのか?)


考えているうちに、サラマンダーの身体の回りに、サッカーボール大の火の玉が次々と出来上がっていった。

よく見れば、中心はマグマでできているようだ。


「あれはやばい・・・っ!!」


ラルクはそう叫ぶと共に、魔法の詠唱を始めた。

騎士達もそれに習うようにラルクに声を重ねるように詠唱を始めた。

兵士達はすでに竜の防壁に守られており、心配ないようだ。


「グルァアアアアアアア!!」


ついにサラマンダーが何十個もの火球をラルクたちに向けて放った。

その球がラルクに届くぎりぎりのところで詠唱が完了し、ラルクたちとサラマンダーの間に大きな水の壁ができた。

放たれた火球は次々とその水でできた壁にじゅっという音を立てて衝突し、冷えたマグマの塊が地面に落ちた。


その落ちたマグマの塊の量を見て、とんでもないなと思いながらラルクは叫んだ。


「今だ!!」


皆一斉に魔力を練り上げ、たった今サラマンダーの攻撃を防いだ水の壁をサラマンダーに向けてぶつける。

水の壁をくらったサラマンダーは、「ギャァアアギャァアア」と呻きながら水の中でどんどん小さくなっていった。


最終的に、水の中に倒れたのは子犬ほどの大きさまで縮んだサラマンダーだった。


『これは・・・どういうことでしょう?』


ルティは目を丸くして、疑問を口に出した。

一行は、しばらく無言で小さくなったサラマンダーを見ていた。

そして、一匹のリンドブルム…これはロキだが、ひとつの答えを口にした。


『おそらく、身体に見合わぬ魔力を無理やり大量に投与されて、身体がその魔力に耐え切れず巨大化、それと同時に、理性もなくなっていたのではないでしょうか? もともと火と共に生活しているサラマンダーは水に弱い。 だから水をかぶった瞬間に、いままで膨大な魔力をぎりぎり支えていた身体から、それらの魔力が抜け出し、元の大きさに縮んだものと思われます』


皆その推測に納得した。


『念話が通じんかったのもそのせいか』


老いたリンドブルムが呟く。





ラルクは近くにいたワイバーンに、このサラマンダーを一時城で保護するように頼み、再びセト捜索を開始した。


「さて、手がかりゼロの今の状況から脱出する方法は?」


ぐるりと周りにいる顔を見渡すも、誰一人、その解決案を持っているものはいなかった。

だよなとラルクはため息をつく。

どうしたものかと思案していると、後ろから遠慮がちな声が聞こえてきた。


「あ、あの~」


振り向くと、若い騎士がいた。


「あぁ、君は確か…去年入隊した…」


「はい、スバルです」


彼、スバルは、セトを控え室まで案内したあの騎士だった。

ラルクが、どうしたと聞くと、少し迷った後、口を開いた。


「あの、この中に魔力の痕跡をたどることができる人はいますか?」


ラルクは最初、何を言っているんだこの子はと思ったが、すぐにハッとした。


「そうか! あの黒マント、飛んで逃げたな…。 だとすれば、そいつの魔力の後を追えば…!!」


すると、あちらこちらから手が上がった。


「俺、できます」


「俺も!」


「そうか、魔力の痕跡か!」


魔力の痕跡は、あまり時間がたつと消えてしまう。

ラルクたちは急いで城まで戻り、痕跡をたどれるものの協力を得て、今度こそ、セトのいる洞窟へと向かった。






 + + + + +





 そのころセトは、やっと立てるまでに回復し、再び脱出の方法について考えていた。

・・・鉄格子から十分に距離をとった場所で。


(またあの変態執事に角を触られたらたまったもんじゃない・・・!)


思い出してもゾッとする。

一刻も早くここから出なければ…と思うのだが、いかんせん魔力を封じられているために、力ずくでは無理だった。


「あぁ、もう!! 油断した俺のバカ!!」


後ろの壁に向かって勢いよく倒れる。

ドン という音がして、背中と壁がぶつかった。


あの会場で、神竜だとばれて、かなり動揺してしまっていた俺は、背後に忍び寄る怪しげな気配に気付かなかった。

そのせいで、今こんな首輪をつけられ、こんなところにいるのだ。

そう思うと、自分が情けなくて仕方がなくなってくる。


 一人、重いため息をはいた。



 



しばらくして、再び鉄の扉が開いた。

入ってきたのは、カスティと呼ばれていたあの子供だった。


「やあ! やっと回復したみたいだね!」


無邪気な笑顔を見せながら歩いてくる。

自分を攫った張本人を思いっきり睨みつけた。


「そんな怖い顔をしないでよ。 あんたは僕のものなんだからさ!」


その物言いに腹が立ち、俺はますます顔をしかめた。


「…いつ、俺がお前のものになったって?」


カスティは俺の言葉を聞くと、ニィと笑った。


「僕があんたにその首輪をつけたときから、あんたは僕のものになったのさ」


「どうだかな…」


ふんと鼻を鳴らす。

カスティは俺のそんな態度を見てもニコニコと笑っている。


(こいつ・・・何をたくらんでる?)


ふいに、マントの中から鍵を取り出すと、鉄格子の鍵穴にそれを入れ、鍵を開けた。


 カチリ


「…へぇ、出してくれるの?」


「まあね」


カスティは牢屋の中に入って来たかと思うと、ものすごい速さで俺の首輪に鎖をつけた。

それを引っ張りながら、牢屋の外にでる。

当然、引きずられるように俺も外に出た。


「おい、鎖をはずせ」


強く言ってみたが、カスティはククッと笑って振り向いた。


「だ~め! だってこれはずしたらセト…だっけ? あんた逃げるでしょ? ま、今のあんたじゃ鎖がなくったって僕からは逃げられないだろうけど!」


楽しげにそう言うと、彼はどんどん出口に向かって歩いた。

俺の足にはまだ重りがついているために、一歩歩を進めるたびにものすごい疲労感を感じた。

だが、ここで弱音をはいてはまたカスティに何か言われるだろうことは分かっていたために、意地でも待ってくれなんていうものかと、必死に歩いた。


カスティは、そんなセトの葛藤を見抜いており、意地悪な笑みを浮かべて少し速いペースで歩いた。




 ルティたちが到着するまで、あと少し。



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