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竜となったその先に  作者: おかゆ
第二章 神竜
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第26話 お披露目会と

 ベッドと机と大小の棚程度しかないセトの自室に、セトの世話役になっている使用人二人と、部屋の主であるセトと、部屋の隅にはルティがいた。

今日はいよいよセトお披露目の日で、まだ朝早いというのにもかかわらず、各国の王族や貴族、お偉いさん方が続々とここ、グランティス大王国の城に到着していた。ただいまセトはお着替え中。

使用人たちはここ数日でセトの着物を着せていたこともあり、まだ少し慣れないながらも先日この日のために買ったばかりの着物をセトに着せていた。


着物はセトが注文したとおりに、黒を基準としたところどころに白や赤や金の細やかな模様が入ったなんとも立派なものだった。

また、もともと肩よりも下の位置にあった髪が伸びてきて、今では腰の辺りにまでなってきていたセトの髪を、アーサーが鬱陶(うっとう)しいと言って赤と黒の紐で作られた組紐をわざわざセトのために取り寄せてくれた。

使用人はその組紐を使って頭の高い位置で結んでくれた。

所謂いわゆるポニーテールだ。


「とってもお似合いですよ、セト様」


使用人たちは若干顔を紅潮させてそう言った。


「切れば良かった話なのに、わざわざ取り寄せてくれるなんて思ってもみなかったよ」


すると使用人たちは首を振り、長い方がお綺麗ですとか言ってきた。

普通、男にはかっこいいって言うものじゃないのか? と疑問に思ったが、組紐があまりにも綺麗だったため、もうしばらく髪はこのままにしておこうと思った。


着物も髪も完璧になったところで、ルティのほうを向いた。


『わ! セトさんすっごい似合ってます!!』


ルティは念話だけでは物足りず、喉もグルグルと鳴らした。


「ありがとう。 着物も組紐も気に入った!」


使用人たちはセトの喜ぶ姿を見てニコニコと笑っていた。

そのとき、セトの部屋の扉がコンコンとノックされた。

どうぞと返事をすると、一人の騎士が扉を開けて入ってきた。

彼は俺の姿を見ると一瞬目を見開いたが、すぐにひざを突いて用件を伝えた。


「セト様、各国の王が揃いましたので、私についてきてください。 会場の控え室へご案内いたします」


セトは分かったと頷くと、相棒の名を呼び、騎士と共に部屋を後にした。

出る際に、使用人たちにありがとうと声をかけると、二人ともさらに顔を紅くして、「いってらっしゃいませ」と送ってくれた。


ここまででたびたび出てきている”各国”だが、つまりはグランティス大王国の同盟国のことだった。

同盟国はグランティス大王国を入れて全部で10国。

主に大国と隣接している国や近い国がほとんどだった。

国によって様々な文化があり、セトが今回つけている組紐も同盟国の文化のものだった。


先を歩く騎士に、セトはちょっとした興味で尋ねてみた。


「ねぇ、あんたはさ、どうして騎士になろうと思ったの? 見たとこ、あんた竜騎士だろ? 竜が好きなのか?」


騎士の着ている軍服の左肩部分に、竜を思わせるシルエットが施されているのが竜騎士の証だと、先日ラルクから聞いた。


若い騎士は、セトに話しかけられたことにかなり驚いたらしく立ち止まってしまった。


「え、あ、はい! 私は小さい頃から竜騎士に憧れて、去年竜騎士になったばかりでございます!」


彼曰く、小さい頃に魔物に襲われているところを竜に乗った騎士が助けてくれたことがきっかけだったと言う。

もともと竜という生き物が好きだったために、余計に竜騎士がカッコ良く見えたのだそうだ。


「竜騎士になれただけでも胸がいっぱいなのに、わ、私は今天竜様と会話を…ッ!!」


途中から感極まりすぎて心がどこかに行ってしまった彼を見て、セトは肩をすくめてルティを見た。

ルティもやれやれといった感じで彼を見ている。


いつまでもそんな幸せいっぱいの彼に付き合ってるわけにも行かないため、セトは彼の肩をつついて意識をこちらへ戻した。


「と、とりあえず落ち着こうか。 あと、案内の続き頼む」


彼はハッとなって腰を90度以上も下げて「すいまっせんっっっ!!」と全力で謝ってきた。

・・・いや、そこまで求めてないんだが・・・。


なんとか彼を落ち着かせて控え室までの案内をしてもらった。

お礼を言うと、「もったいないです!!」と言って走り去ってしまった。


「そこまで敬意を払われても…ねぇ?」


ルティに意見を求めると、ルティは俺をジーッと見つめた後、『当然の反応だと思いますけど…』と言った。

何故と聞くと、ルティいわく、俺はただでさえ天竜という神にも近しい存在。

しかも先日国を守った本人ともなればそうなるのは自然だという。


まあ、言われてみれば確かにそうかもしれない。

自分だって、目の前に神がいてしかもそれが自分の命を助けたとなれば頭があがらないだろう。


…などと考えているうちに、会場の方から楽器の音が聞こえだした。

どうやら”パーティ”とやらが始まったようだ。

恐らく国の王の名前だろうか?

一人一人名前を呼ばれて会場に入っていく気配を感じる。


セトには、アーサーから前もってパーティの進め方を聞かされており、どのタイミングで出て行くかは打ち合わせ済みだった。

控え室とは言いながらもふかふかのソファや豪華な家具、装飾がある部屋で、セトはそのときを待った。


『緊張してますか?』


ルティに言われて、ああ、この落ち着かなさは緊張のせいか、などと思い、いったん落ち着こうとソファに座った。

置いてあった飲み物を飲んでも、味を感じ取ることができなかった。

それほどまでに、緊張していたらしい。


「…自分で思ってるよりも、俺の体はお披露目会に抵抗を感じてるみたいだな」


それもそのはずだ。

コロラドの民に自分の存在が露見して動揺しまくったのは、ほんの数日前のことだ。

それが、今回はそれの何倍もの規模、国中、いや、世界中に自分の存在がばれてしまうのだ。

落ち着けと言う方が難しい話だった。


「なんでOKしちゃったかな~」


まるで人事のように呟く俺を見て、ルティは心配そうに顔を覗き込んだ。


『今からでも遅くないですよ? 逃げちゃえば、こっちのもんです』


ルティは優しいな・・・。


「あはは・・・。 そうしたいのは山々だけど、ここまで来たら男として引き下がれないよ。 ・・・本当、なんでここまで来てひざが震えるかな・・・。 さっきまでなんともなかったのに・・・。 昨日までは腹をくくれていたのに・・・」


会場のざわめきが大きくなってきた。

どうやら王は入場し終えて、王族や貴族達が会場にはいってきたようだ。


『セトさん、僕もいます。 大丈夫です、きっと!』


励ましてくれるルティが、別にいつも頼りないわけではないが、この瞬間は特にとても頼りがいのある凛々しい相棒に見えた。


「ありがとう、ルティ」


ちょうど、アーサー王のスピーチが始まった。

簡単な挨拶の後、すぐに本題に入った。


「さて、本日お集まりいただいたのは、他でもない、わが国を救ってくれた天竜のためです。 手短に、彼の紹介をさせていただきたい。 名前はセト。 彼は天竜では珍しい漆黒の鱗を持っており、爪は瑠璃色に輝き、その魔力の色は美しい黄金。 いつもルティという天虎を従えており、彼はその天虎を相棒と呼んでおります。 ・・・と、言うわけで早速ご本人に登場してもらいましょう」


アーサーが円状になっている会場の中心に向かって手を向けた。

俺はその様子を感じ取り、ルティの背に手を触れながら魔法を発動した。

そして皆が注目してみている会場のまさに中心、空中のど真ん中にセトとルティは若干の光を放ちながら現れた。

途端、会場からため息のような歓声が四方八方から聞こえてきた。

それを聞きながら、セトはアーサー王の演出のこだわり方に納得した。

彼はこの歓声を聞いて満足そうに顔をほころばせていた。

まるでその歓声が自分に向けられているようにでも感じているのだろうか。


やれやれと思いつつ、打ち合わせどおりにゆっくりと大理石の床へと降下した。着地すると、俺は少し上にいる王達を見て一礼した。


「なんとまぁ美しい…」


「本当に真っ黒だな…」


思い思いの感想を呟いている。

だが、何故だれもかっこいいと言ってくれない!!

ちょっと不満に思いつつも、アーサー王の指示を待った。

ここから先のことは聞かされていない。


『セトさん、大丈夫ですか?』


『ああ、なんか出てきた途端吹っ切れたみたいだ』


緊張はもうなかった。

アーサー王の方を向くと、彼の脇に控えて透明魔法を使っているフレイムが、念話で指示を伝えた。


『王、まずは竜としての証を人間体のまま見せよ、とのことです』


…具体的に何をすればいいんだ!?

俺は唖然としてアーサー王を見た。

王は期待に目を輝かせている。

あ、こいつ俺が単に何をするのか見たいだけだ。

俺は王に何かを期待するのを止め、ため息を内心でついて、魔力の制御を緩めた。

すると、俺の竜の角が耳の上辺りから伸びた。

歓声が沸く。


「これで、俺が竜だと分かりましたね?」


挑むように王達に言うと、皆頷いて次の期待の目を向けてきた。

なんだかアーサーのせいでお披露目というか見世物のようだが、もう、いいや。

どうにでもなれっ! と思って、俺は魔力を身体全体に纏わせた。


「黄金色の魔力……っ!!」


「これほど純粋で綺麗だとは!!」


皆顔を紅潮させて興奮しまくっている。

そういや魔力の色ってなんなんだ?

まあ、ここまでだったら普通の竜でもできる。

俺はいよいよ本題に入ることにした。

そのことをフレイムを通してアーサー王に伝えると、彼は大きく頷いた。


それを合図に、俺は一気に魔力を自分に纏わせ、竜体へと変身した。

変身し終えて目を開けると、さっきまで高かった会場の天井がすぐ上にあった。ルティはいつの間にか俺の頭の上に立っていた。

下を見ると、各国の王や王族、貴族達が同じように口をぽかんと開けて俺を見上げていた。

そして、竜体になって魔力を開放し初めて気付いたが、この会場に人間体となっている竜が結構いたようだ。

恐らくこの中にいる人間の契約竜だろう。

すると、彼らは我慢できなくなったかのように次々と竜体に戻り、俺の元へと駆け寄ってきた。

フレイムを含めたリンドブルムやワイバーン以外の初めて見る竜もいた。

そしてやはり、口々に『王よ』『我らが王よ』といって猫のようにグルグルと喉を鳴らすのだった。


『ちょ、ちょっと待てお前たち・・・』


この異常な光景を見て、会場の誰かがポツリと言った。


「…まさか……神…竜……?」


それを聞き取ったものたちから、どんどんざわめきは広がり、皆”神竜”と反芻して俺を畏怖の目で見てきた。


俺はと言うと、突然に神竜だとばれたことに戸惑っていた。

この知識を持ってるのは極限られたものだけだと、ギルバートに教えてもらった。

だから、いくら王が集う今回のお披露目会でも、俺が神竜だとばれることはまずないだろうと言われていたために、俺は動揺しまくっていた。


アーサーを見ると、彼も驚きで目を見開いてたくさんの竜に囲まれる俺を見ていた。

とにかく、このままでは俺にとっては会場は狭くて居心地が悪いため、いったん人間体になることにした。

一瞬で人間体になると、竜たちも後に続いた。

そして、あろうことか皆俺を前にひざまずいたのだ。

これでは俺が神竜ですと言いふらしているようなものだ。


『ま、待て、立ってくれ!』


念話で必死になってそう言うと、以外にも素直に従ってくれた。


『俺はそんなんじゃない』


しかし竜たちは『いいえ、あなたは王です』といって俺から離れようとしない。

・・・なんだこの微妙なハーレム状態は!


今やセトは雄雌含めたたくさんの竜たちに取り囲まれているような状態だった。

いったん主の下に戻るように言って、セト自身もアーサーの横へと向かった。

いろんな方向からの視線が痛い。


アーサーが何かをしゃべろうとした気配を感じた瞬間、俺は後ろから強烈な打撃を首にくらった。


「うっ……!?」


会場が大きくざわついた。

俺はたまらずその場に倒れ、揺れる視界が収まる前に立ち上がって状況を把握しようとした。

が、首に何かをはめられた途端、力が抜けていくのが分かり、そのまま倒れてしまった。

ルティの怒り狂った声が聞こえたが、俺の意識はどんどんと沈んでいった。



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