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竜となったその先に  作者: おかゆ
第一章 出会い
24/86

第24話 勝利と余韻と・・・

※BL注意

 急に城の外の騒ぎが静まった。

「引けっ!」 「撤退!」 などという声も聞こえてくる。

城の中で固まって震えていた使用人や、王族、貴族たちは、そろそろと立ち上がり外の様子を窺った。

すると、反乱軍が次々と引いていくのが見えて、皆わっと歓声を上げた。


「先程まで負けると思っていたのに・・・」


「なぜだか分からないけど、とにかく助かったわ!」


アーサーは喜ぶ皆を見てホッと胸をなでおろしつつも、何故勝てたのかと考えた。

つい数分前まで、この城では敵の遠距離魔法を防ぎきれず、あちこちで爆破や火の手が上がっていた。

だというのに、間に合っていなかった消火も、いつの間にか火が消えていたし、弓矢や石も飛んでこなくなったのだ。

誰かが魔法でやってくれたのだとは思うが、ここまで大規模な魔法を使えるものが、はたして城にいただろうか?


と思っていると、ふと自分の部屋に大きな影ができ、視界が急に暗くなった。

おや? と思って目の前の窓を見ると・・・


「セ、セト殿!!?」


我が目を疑った。

来るはずのない彼が、今目の前にいるのだ。

しかし、セトがいるとなると今までの考えの辻褄がすべて合う。

城全体を守れるほどの魔力、何千何万といた反乱軍をわずか数分で退却させてしまえる存在。


「あ、貴方が・・・?」


セトはコクンと頷いた。

アーサーは突然、目からほろほろと涙を流し、セトに向かって跪いた。


「ありがとう・・・ありがとう・・・! 天竜、セトよ・・・城を、民を、国を救ってくださったこの恩を、この国が忘れることはありませんっ! いつか必ず恩返しをいたしましょう!!」


今まで戦の指揮をとっていたために、彼は自分に声を大きくする魔法をかけていた。

それを解かないままに今の言葉を言ったわけで、アーサーのセトへの感謝の言葉は城はもちろん付近の町にまで届いていた。


これにはセトも驚いた。

城に来るからには覚悟していたことだが、こんなに早く自分の存在が城や町に広まってしまうとは思ってもいなかったのだ。


『え、あ、あの・・・』


言いかけたとき、背後からものすごい歓声が上がった。

ビクッとして振り返ると、大勢の兵士や騎士、竜たちや住民たちまでが、俺を見て手を叩いたり口笛を吹いたり、何かを大声で叫んだり涙を流したりしていた。誰もが笑っていた。


セトは嬉しくなって、翼を思い切り広げ、首を天に向かって伸ばし、衝動のままに勝利の雄たけびを上げた。


「グルルァアアアアアアアアアアアアア!!!」


いつまでもこの時間が続けばいい。

そう思ったセトだった。




 

 + + + + +




 

 あの戦いから数週間が過ぎた。

今、城の中の大ホールにはたくさんの人が集まっていた。

・・・それも女性ばかり・・・。


「キャー! 素敵だわ!!!」


「あのルックスは反則ですわ!」


「旦那よりカッコイイだなんてっ!!」


皆頬を染め、ある一つの方向を見ている。

その中心でうんざりしている者の姿があった。

・・・他でもない、セトだった。


あの戦いの後、やはりアーサー王から城に泊まっていけといわれ、宴を開かれた。

竜体のままでは不便なため人間体に戻ったのだが、その瞬間、メイドたちの顔がポッと紅く染まった。

紅く染まったその中に、一人執事の男が混ざっていたことは黙っておこう。

 

んなわけで、大国を救った天竜がイケメンだという噂は瞬く間に広まり、現在に至るわけだ。


「セト様! わたくしと一緒に踊りませんこと?」


「あら、抜け駆けなんてずるいじゃない!セト様、一緒に踊るのはこのわたくしですわよね!?」


「ちょっと、セト様と踊るのはわたくしよ! ねぇ、セト様?」


セトは多くの王族や貴族の女性に詰め寄られながら困り果てていた。


(そもそも、いつの間に一緒に踊る話になってるんだ・・・? だいたいにして、俺踊れないし!!)


面倒になったセトはぴょんと飛び上がり、人ごみから抜け出した。

女性たちは言い争いでセトがいなくなったことに気付いていない。

それを確認して、セトは音もなくホールを出た。

 

「毎日毎日、彼女達よく飽きないな・・・」


そんなセトを、ホールの隅で一人の王族の女性が見ていた。

怪しげな笑みを浮かべて・・・。




 

なんだかんだでアーサーに部屋を与えられてしまい、セトはちゃっかりそこを使っていた。

というのも、今度各国の王にセトを紹介したいとアーサーに言われてしまい、すでにほとんどの国に存在を知られてしまったために、今更断っても仕方がないと思ってOKしたからだった。


「お披露目の日まであと3日・・・。 もうちょっとだな、ルティ」


ホールの外で待機していたルティは、出てきたセトの隣を歩いていた。


『そうですね! もうちょっとで村に帰れますね! セトさんも毎日大変そうですけど、僕も使用人さんたちに見つかると、撫で回されるか怖がられるかで大変です』


なるほど、ここはルティにとっても少々迷惑なところのようだ。


『あ、でも撫でられるのはそこまで嫌じゃないです』


どっちだい・・・。



しばらく城の中をルティとともに探検していると、二枚目のルックスをした執事と出くわした。

この執事、セトはどうも苦手だった。

会うたび会うたび、自分を舐めるように見るのだ。

その度に全身の毛? 鱗? が逆立つような感じがするのだった。


「あ、こんにちは・・・」


とりあえず、失礼のないように挨拶はする。

それだけ言って、目を見ないように歩みを進めた。

彼とすれ違うとき、急に腕を掴まれた。


「ひぇえ!?」


変な声が出てしまった。恥ずかしくて耳まで真っ赤になるのが分かった。

俺はルティに念話で『ちょっと先に部屋に戻っててくれ』と伝えると、執事をキッと見た。


「・・・何のようですか?」


変な声を出してなどいないというような口調を心がけたが、顔がまだ赤いのは分かっていた。


「・・・いえ、髪に埃がついていたもので・・・」


執事はそう言うと俺の髪に手を伸ばした。


「け、結構です! 自分で取れますので!」


執事の手を振り解こうとしたが、思いのほか力が強くて振り解けなかった。


「人の厚意は素直に受け取るべきですよ」


執事はニコリと笑って俺の髪に触れた。

なんだこの状況はと思って頭の中がぐるぐるしていると、彼の手が不意に角に触れた。


「あっ・・・・っ!」


突然のことで驚いて変な高い声が出た上に、力が抜けてがくんとひざから落ちてしまった。

俺は恥ずかしさでいっぱいになり、まだ掴んでいる執事の手を竜の力任せに振りほどき、執事を一睨みしてからその場から逃げるように走り去った。



「・・・見ました!?」


「もちろん! なんて素敵!!」


執事との光景を隅から見ていた数名のメイドがいた。

彼女らはたまたま通りがかっただけなのだが、執事がセトの腕を掴んでいるのを目撃し、ちょっと興味を持って見ていたのだが、あんなことになってしまい、かなーり興奮していた。

・・・そう、彼女らはいわゆる腐女子だったのだ・・・。




「なんっなんだあいつは!!」


涙目で走っているセトを目撃した奥様方は、そんなセトに母性本能が働き、セトのファンがまた増えたとか・・・。




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