第21話 竜
始まりの洞窟にたどり着いたセトたちは、ひとまずその中へと入った。
ワイバーンたちも楽々入れたことには少々驚いた。
ワイバーンたちは洞窟の中に入って何かを確信したようで、『やはり・・・』と呟いた。
首をかしげて何が? と問うと、一匹が念話し始めた。
『実はコロラドの町に行く前に、我々一行はこの洞窟の近くにある泉を訪れ、そこで一晩過ごしました。 そこで私たちは、竜がいたような気配と大量の血の臭いをかぎ当てました。 ここに来て、王と会ったときの推測が確信へと変わりました。 この洞窟に今なおほのかに香る人間の血の臭い・・・。 やったのは王、貴方でしょう?』
気にしないようにしていたが、やはり同じ竜ではばれてしまうか・・・。
ルティは気付いていないようだったために油断した。
ワイバーンは気遣って念話は俺にしか聞こえないようにしているのが分かった。
その気遣いに感謝した。
ルティには知られたくないことだったからだ。
『・・・確かにお前が言うとおり、俺は過去に人間を傷つけた。 だが、断言する。 殺してはいない』
ワイバーンたちはそれを聞いてホッとしたように表情を緩めた。
『王ほど温和な竜が手をあげるほどの人間とは・・・彼らはよほど王の癇に障ることをしたのでしょうね。 ・・・原因はその天虎ですか?』
ずばり言い当てられたことに驚きつつも、肯定した。
『ルティは・・・俺にとっては心の支えなんだ。 ・・・実は俺は記憶が無い。 ルティはそんな俺に名前をくれた、居場所をくれた俺の大切な相棒なんだ』
話を聞いたワイバーンはたちは、目を見開いて俺を見た。
『き、記憶が無い!? それはいつからの記憶のことを言っておられるのですか?』
『先程名前をそこの天虎にもらっとおっしゃいましたね? まさか契約の仕方まで覚えておられないのですか!?』
二頭の竜に迫られて、思わず一歩ひいてしまった。
『あ、ああ。 目が覚めたらこの洞窟の中だったんだ。 そこから前の記憶は俺には無い』
ワイバーンたちは驚きのあまりに口をパクパクさせている。
そして最初に口を開いた一頭が神妙な面持ちで再び念話をした。
『王、このことは他のものには他言無用でいきましょう。 我ら以外にこのことを話しましたか?』
首を横に振って答えた。
『ルティにだって話していない。 まあ、名前をくれた時点で少しは何かを感じていると思うが』
二頭のワイバーンはなにやらお互いにうなずきあって、何かを確認していた。
その日は気持ちの整理をつけるために、すでにルティが丸くなって寝息を立てているそばへ行き、ルティを包むように丸くなって目を閉じた。
もちろん、風を防ぐための防壁は張ってある。
ワイバーンたちも俺に密着するように横になった。
彼らから伝わってくるのは信頼と畏怖と尊敬。
それが伝わってきたことには驚いたが、同時に嬉しかった。
何故か彼らは俺を裏切ることは無いと思えたからだ。
奇妙な安心感が生まれ、いつばれるかと緊張して眠っていた村での眠りに比べて、俺は久しぶりの深い眠りに落ちた。
+ + + + +
セトが飛び立った後の王の騒ぎ方は尋常じゃなかった。
悲しげに鳴く残された竜たちに天竜はもどってくるのかと尋ね、わからないと言われてはひどく落ち着かない様子でうろうろと歩き回り、また別のものに同じように尋ねてはわからないと言われての繰り返しだった。
「に、兄様、どうか落ち着いてください!」
「王、一度ウルテカ様の屋敷に戻りましょう。 ここにいても埒があきません!」
「兄さん、ラルクの言うとおりだよ。 ここにいたってセトが戻ってくる確証は無いんだ。 一度屋敷に入ろう。 冷えてきたし、これ以上は身体に障るよ」
王を落ち着かせようといろいろ声をかけるものの、王から返ってくるのは「いや・・・しかし・・・」という曖昧なものだった。
トクサは王に意見するなど恐れ多いと思っているらしく、少しは離れたところで彼らの様子を見守っていた。
そんなトクサの元へ、リンドブルムたちが歩み寄ってきた。
『お主、セト様が心を許している人間の一人のようだな』
突然念話をとばされて、トクサはビクッと身体を震わせてから声をかけてきた竜・・・フレイムを見た。
『我ら竜は契約がある限り主殿の命には逆らえぬし、我ら一族はその中でも面倒な性格でな、どうしても主殿を第一に考えてしまうのだ。 だが、隣にいるこやつは契約者はおらぬ。 さて、どうする、青年?』
フレイムは横にいるリンドブルムを目で指した。
トクサは戸惑い、フレイムと隣のリンドブルムを交互に見やった。
「ぼ、ぼくにどうしろと・・・?」
トクサがそう問うと、フレイムはにやりと笑った。
『お主、セト様を連れ戻したくはないのか?』
トクサはその一言で決意し、首を縦に振った。
フレイムは満足そうにグルルルと喉を鳴らした。
隣にいたリンドブルムも喉を鳴らしながらトクサの隣に歩み寄り、伏せの体制をとった。
『俺の字はロキだ。 乗りな、人間。 俺がセト様のところへ連れて行ってやる』
トクサはおっかなびっくりロキの背に乗ると、ロキはその場から飛ぶようにまだ暗い夜の中をトクサを背に消えた。
その様子を見ていたラルクは、あの青年ならば・・・と妙な期待を抱いていた。
アーサー王はまだ屋敷の中へ入ろうとしない。
見かねたウルテカが、王に気付かれぬように魔法をかけて眠らせ、やっとのことで皆暖かな屋敷へと入ることができた。
竜たちはその姿のままでは屋敷に入りきらないため、遠慮したのか外で待機することにしたらしい。
『王・・・戻ってくるだろうか・・・』
『戻ってくるさ。 絶対』
『王、主殿のこと嫌いになったのだろうか・・・』
『・・・・・・・・』
竜たちの念話でのささやきが、夜の闇に溶けた。




