表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜となったその先に  作者: おかゆ
第一章 出会い
18/86

第18話 修理屋セト

 依頼主のところへと約束の時間ぎりぎりについた俺とルティは、さっそくその家の裏手にある大きな蔵へと案内された。

その蔵は随分昔からこの家に在ったようなのだが、去年降った大雪で屋根や窓が一部潰れていたり割れたりしていた。

今回の修理は大変そうだと思いながらも、俄然やる気が湧いてきていた。

この依頼主の喜ぶ顔が見たい、そう思った。


「では、後は俺に任せて、家の中でくつろいでいてください」


依頼主は、作業員が俺しかいないことに少し不安を覚えたようだったが、俺の最近の人気を知っているのか、しぶしぶといった感じで家の中に戻った。

それを見届けてから、さっそく作業に入った。

年月を経てボロボロになっている骨組みの部分を魔法で回復させて強化し、倒れないようにしてから、外側の修繕をする。

外壁もところどころはがれて来ていたため丁寧に直し、潰れた屋根や割れた窓はルティの背に乗って飛んで近づき、後は村長の家を直したときと同じように壊れていないところを参考にイメージして元通りにした。


蔵が大きかったこともあって、いつもより2倍ほどの時間と魔力と労力をつかい、修理がようやく終わったときには流石に疲れたと感じた。

だが、そのおかげで直った蔵は最初に見たときとは見違えるほどに立派になっていた。

堂々とたたずんでいる蔵を見て、やはりいつもよりも2倍の達成感を覚えた。

時計を見ると、ちょうどお昼時だった。


「はぁ――・・・。疲れた・・・」


『セトさん、僕お腹すきました』


ルティの言葉を聞き、「だな」と答えると、さっそく依頼主のもとへ報告に行った。

依頼主は、完璧というほどに直った蔵を見て、大いに喜んでくれた。

代金は最低額は決めてあり、その人の満足度で好きな額を払ってもらうことにしているのだが、今回はすごかった。

え、こんなにいいんですか!? ってくらいの額をもらい、昼食はいつもよりもリッチなものを買った。


『あんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しくなるよな』


『そうですね! おかげでこれも買えましたし!』


森の中にところどころある休憩用のベンチに座り、先程買った昼食を食べていた。

それは、標高が高いところにしか住んでいないといわれる大きな白鹿の肉で、めったに手に入らない高級肉だった。

前から食べたいと思っていたのだが、まさかこんな機会に食べられるとは思っていなかった。


『それにしても、高いだけあってやっぱりめちゃくちゃ旨いな、これ』


『そうですね。 僕お屋敷でもこんなに美味しいお肉食べたことありませんでしたよ』


食事中はやはり念話で話した。

端から見たら、天虎と青年が無言で肉にかぶりついているようにしか見えなかっただろう・・・。


しかし、やはり王との約束の時間には遅れてしまったようだ。

だが村まではもうすぐだし、そこまで待たせてはいないはずだ。

そう思いながら、口の中いっぱいに広がる高級肉の肉汁と味を堪能していた。





 + + + + +





 朝食を終えた王の一行は町長に礼を言い、コロラドの町を後にした。

門を抜けるまでの途中、ある飲食店の前に十数名の女性が集まって、なにやら頬を染めて話し合っていた。

その会話に耳を傾けてみると、この町で最近人気の修理屋が早朝にその店に入ったのだという。

若い女性達が夢中になるほどの修理屋とは、なかなかおもしろい。

修理屋なんて見栄えのしない職業の者がこんなに注目を浴びることは珍しいと思った。

どんな容姿をしているのだろうと、アーサーは単純に興味を持った。


『主殿、なにやら楽しそうですな。 あの人間たちが話していることですか?』


竜車を引く片方の雄竜、フレイムがアーサーに話しかけた。

アーサーは、「ああ、まあな」と隠しもせずに楽しげに応えた。


「兄様が竜以外にそんなに興味を持つなんて、珍しいわね」


アーサーは、何かを探るように話しかけてきた妹を見て、またまた楽しそうに「そうだな」と応えた。


「一度見てみたいものだな。 彼女らが話している修理屋を」


『主殿が望まれれば可能でしょう?』


今度は、竜車を引くもう片方の雌竜、アクアが話しかけてきた。


「まあ、そうなんだが、権力をあまり私用に乱用するものではないよ。 そんなことをしたら民から見限られてしまうからね」


アーサーはアクアに優しく諭した。

アクアは少ししゅんとしたようだったが、すぐにアーサーが諭してくれたことを理解し、気を取り直した。


ラルクは、そんな王を尊敬の眼差しで見つめていた。

ラルクだけではない。

大国の王は国民思いの優しい素晴らしい王だと国中の誰もが知っていて、誰もが尊敬しているのだ。

だからこそ、敵も多い。

誰からも尊敬される王を邪魔だと思っている貴族や王族は少なくない。

この平和な町にも、刺客が紛れ込んでいるかもしれないのだ。

王は油断しているようだから、俺たち騎士団が気を引き締めないといけない。

和やかな竜車の中とは正反対に、竜車の外側にはぴりぴりとした空気が漂っていた。





正午ぴったりに、アーサーの乗る竜車は目的の村の入り口へとたどり着いた。

入り口には、村長とそのメイドが立っていた。

王が来るという噂を隣町から仕入れていたのだろう。

村人達も続々と村の入り口に集まってきた。

アーサーは、村長の方に見覚えがあった。

それもそのはず。

アーサーとウルテカは、異母兄弟だからだ。


「久しいな、ウル。 何年ぶりだ?」


「久しぶり、アース兄さん。 約10年ぶりだよ」


二人はお互いに肩を抱き合って挨拶をした。

村人たちは、大国の王と親しげな村長に驚いている。

村長は、アーサーと挨拶をすませると、村人達に「黙っていてすまなかった」と謝罪し、王との関係も明かした。話を聞き終えた村人たちはかなり驚いたようだったが、すぐに納得してくれた。


「ここにはほとんど訳ありの奴らしかいませんぜ、村長」


「村長が大国国王の異母兄弟でも、村長は村長だよ」


ウルテカは、自分の身を明かしてもなお変わらずに接してくれる村人達に感謝した。

ウルテカの話が終わると、早速アーサーがうきうきした様子でウルテカを呼んだ。


「で、天竜はどこだ?」


ウルテカはうっと一瞬詰まった。

セトはやはり時間に間に合わなかったからだ。

しかも・・・しまったと思い、ちら、と村人達を見た。

アーサーからでた”天竜”の単語に、反応しないものがいないわけがなかった。

セトには申し訳ないが、ここで隠しとおせる自信が私には無い。


そう思い、ルーネに記憶を消された村人達の記憶を戻した。

とたん、皆大変なことを思い出したというように、驚愕の表情を浮かべ、その場にへたり込んでしまった。

その様子を見たアーサーは、最初は事情が飲み込めなかったみたいだが、すぐに「ああ、なるほど」と呟いた。


「ウル、ルーネ、皆に教えてなかったのか? 天竜のこと」


村人たちは次に”ルーネ”の単語を拾い、顔を上げて彼女の姿を探した。

そして、竜車から優雅に降りてきた彼女を見てあんぐりと口を開けた。


「その天竜がそう望んだのよ? 私が皆の記憶を消したことを言っても、逆にホッとしてたもの」


ウルテカは、しばらく姿を見ていない彼女が竜車から降りてきたとき、また面倒なのが出てきたと思った。


「ルーネ、どこに言ったかと思えば、帰ってたのか?」


「ええ、そうよ。 なにか問題でも?」


なにか言い返してやりたいが、別に何も問題ないというか、逆に彼女はしばらく帰っていなかった家に帰っただけなのだから何も言えない。


「・・・いや・・・」


ウルテカのその返事を聞くと、ルーネはフンと鼻を鳴らして竜たちの下へ行った。

そして、しぶしぶルーネについての説明も村人達にしてやった。

村人たちは流石に驚きすぎて声も出ない。

そこへ、またアーサーが言ってきた。


「なあ、天竜はどこだ?」


ああ、そうだった。

なるべく急ぐように言ったから、そう遅くはならないだろうが・・・。


「まあ、少し待ってくれよ兄さん。 久しぶりに会ったんだ。 お茶でもしないか?」


「ふむ・・・そうだな。 せっかく会ったんだしな。 ルーネ、お前も来い! ラルク、お前は竜たちを頼む!」


ルーネは少し不満そうに返事をして、兄の背中を追った。

ラルクは「はっ」と返事をすると、団員達に指示を出した。


「団長、だから隠したんですね? 王が天竜に会うから」


「ああ、まあな。 セト様が大勢の人にばれるのを嫌ったんだ」


「やはり団長が天竜に会ったという噂は本当なのですね?」


「・・・ああ」


ラルクの返事を聞いて、団員たちは納得したようにうなずきあった。


「通りで団長の機嫌がいいわけですよ」


「え?」と言ったラルクに応えず、団員たちは竜の元へと駆けて行った。





 + + + + +





 セトが村に到着したのは王が到着してから約1時間後のことだった。

ふと、村の奥のほうに強い違和感を覚えたが、その違和感が何なのか分からなかった。

ルティにまたがったまま、急いで村長宅に向かう。


『王様、怒ってないでしょうか?』


「この程度で怒られたら困るな・・・」


そんなことを言っている間に、村長の家の前まで来た。

畑仕事をしている村人達がやけにこちらを見てくるのは何故だろう? と思いつつも、扉を叩く。

すぐにいつものメイドが出てきて、こちらですと案内された。

ある扉の前に来ると、なにやら楽しげな話し声が聞こえてきた。

メイドは俺にその場で待つように言うと、扉を3回ノックした。

すぐにウル村長が扉を開けて出てきた。


「ああ、待っていたよ、セト。 思ったより早かったじゃないか」


「貴方がそうするように言ったのでしょう?」


村長はそうだったというと、すぐに俺をつれて部屋に入った。

そこには、一匹の黒い大きな犬(?)と、ラルクさんと優しそうな顔をした村長と同じくらいの年の男と・・・


「『ルーネさん!?』」


・・・がいた。

村長から男の方が例の大国の王で、隣にいるのがリンドブルムのフレイムだと耳打ちされた。


「おお! そなたが天竜セトか?」


「え、あ、はい・・・」


「これは・・・なんと綺麗な!」


突然話しかけられて驚いた。

促されるままに席に座らせられた。

その後、村長からルーネさんと村長と王様の関係を聞かされて目を見開いた。

もちろん隣にはルティもいた。

話が終わると、王は早速と言った感じで、俺に詰め寄って言った。


「竜体になっていただけないか!?」


ルティの存在に気付いていないのだろうか、この人は・・・。

それに・・・またか! と思った。


「な、なんでですか?」


「もちろん、わたしは竜が好きだからですよ」


「だからって、なんで竜体になる必要があるんですか? 俺はこうしてここにいるのに。 それに村人達に・・・」


言いかけたところで、王が止めた。


「それについては、もう解決済みですよ」


・・・え?


「解決済みって・・・まさか!?」


サッと村長を見る。

村長はばつが悪そうに視線を逸らした。

・・・ばらしたのかこのアホ村長!!

なるほど。

村人のあの視線はそのせいか。


「それに、人間体のままではわたしは竜に会ったという確信が持てないのですよ」


王がそう言うと、今度はルーネさんが出てきた。


「兄様、それならいい方法があるじゃないですか」


待て、そのいい方法ってのはまさか・・・。


「しかしな、ルーネ。 竜の角を触るなど、あまりに無礼ではないか」


やっぱりそれか。

あれは勘弁してもらいたい。

しかし、ルーネさんはやる気だ。

目を見れば分かる。

まあまあとかいいながら、俺に詰め寄ってくる。

俺は一歩、また一歩と下がっていき、ついに壁に追い込まれてしまった。


「ル、ルーネさん? やめません?」


若干震える声でやめるように言ってみたが、ルーネさんは全く聞く耳持たない。

俺の顔をあの時と同じように両手で挟んだ。

俺の喉がヒクッと鳴った。

そのとき、ルーネが王を呼んだ。


「兄様、来てください!」


王は言われるがままに俺の元へ来ると、「おお!」と感嘆の声を上げた。


「金色とは珍しい! 黒色も珍しいが、いや、見事」


・・・ん?

どうやら角は触られないですみそうだ。

ルーネさんの手が離れると、心臓を押さえてホッと息をはいた。


「妹がすまない。 これでそなたが竜だという確信は持てたが・・・。 やはり竜体になってはくれまいか?」


「チッ・・・ああ、もう、わかりましたよ。 なればいいんでしょう? 村人達にもばれてるようですし、なりますよ」


半分やけくそになって言った。

王はガッツポーズをとるほどの喜びようだった。


『主殿のために、すみません。 セト様』


突然飛んできた念話の方へ目を向けると、フレイムという名の竜が俺を見ていた。


『いや、いいさ。 こうなるとは薄々思っていたよ』


フレイムはそれでも、俺にペコッと頭を下げた。

ラルクもフレイムの様子を見て、俺とフレイムが何を話していたのかをだいたい読み取ったようで、同じように頭を下げた。


「では、さっそく外に行くぞ!」


はいはい、外ですね・・・・・・って、今!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ