第17話 コロラドの町
隣町、コロラドの入り口に着いた俺は、ルティの背から降りて身分証名称を門番に見せた。
門番は、もう見慣れた俺とルティのコンビを見て笑顔で通してくれた。
「セトさんが最初に天虎を連れて来た時は驚きましたよ」
「やっぱり珍しいんですか?」
問うと、門番は「そりゃあもう」と言ってルティを撫でた。
ルティもおとなしく触られている。
もともと飼われていたからか、ルティは人に対してまったく警戒心を持たなかった。
盗賊に母親を殺されたことを考えると、人間不信になってもいいくらいなのに、ルティはちゃんと優しい人間とそうでない人間を区別できるようだ。
賢いといわれるだけのことはある。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
門番に手を振り、ルティと供に町の中に入った。
このコロラドの町は付近の町と比べて活気があり、いつ来ても賑やかだった。
しかし、今日はなんだかいつにもまして賑やかに感じるのは俺だけだろうか?
そんなことを考えながら、ペットも一緒に入ることができるお店を探し当て、そこに入った。
朝食を取らずに早めに出てきたため、俺もルティもぺこぺこだった。
「ルティ、何食べる? 俺は・・・やっぱり精を出すために肉かな」
『僕もお肉がいいです』
ルティの注文を聞いて、俺は店員を呼んだ。
店員は最初、ルティを見てかなり驚いたようだった。
しかし、すぐに俺が最近人気の修理屋だと気付き、そのお供に天虎を連れているとの情報を思い出したようで、おどおどしつつも注文を聞いてくれた。
「そういやルティ、なんの肉がいいんだ?」
『あ、そうですね・・・。 久しぶりに兎のお肉が食べたいです!』
「ああ、俺もあれ以来口にしてないな・・・」
店員さんからしてみたら、俺が一人で虎に話しかけているように見えたのだろう。
遠慮がちに、「あの・・・」という声が聞こえてきた。
「はい?」
「ご注文は?」
「ああ、ルティ、兎の肉でいいんだよな?」
ルティがうなずく。
「兎の肉と、俺は・・・そうだな・・・兎のステーキでお願いします」
店員は俺とルティを交互に見て、首をかしげながら「かしこまりました」と言って厨房へと下がっていった。
それから仕事内容を確認しておこうと思い、資料を広げようとしたとき、視線を感じて顔を上げてみると・・・。
「あれ天虎よね?」
「え、じゃあ一緒にいるのは・・・」
「ねえ! あの人じゃない? きゃっ! こっち向いたわ!」
「天虎と一緒にいる髪が黒いイケメン! 間違いないわ!」
店内からも店の外からも、大勢の女性の顔が俺を見ていた。
正直かなり驚いた。
「ル、ルルルティ・・・。 これはいったいなんだと思う?」
『さ、さあ・・・。 どうやら注目されているようですけど・・・』
それは俺もわかっている。
問題は、なんで注目されているのかだ。
ルティか?
ルティが珍しいのか?
それにしたって、なんでこうまで女性が多いんだ・・・?
困っているところに、店員が食事を持って来た。
そして、俺とルティの注目のされように苦笑いを浮かべた。
「やっぱりこうなっていましたか。 この町で飲食店に入るのは今日が初めてなんですか?」
「え、はい」
そういえば、この町には仕事でよく来るのに、商店街で食料を買うことはあったが飲食店に入るのは初めてだった。
店員は、この騒ぎのわけを説明してくれた。
それによると、俺は一人でこの町に仕事に来ていたときから、ひそかに人気があったらしい。
それが、最近ルティを連れてくるようになってから、爆発的にファンが増えたとかなんとか・・・。
「し、知らなかった・・・」
「きっとルティ君を連れてきたことで、目立っちゃったんですね」
店員がそう言いながらカーテンを閉めてくれた。
これで外からの目は防がれた。
『ぼ、僕のせい!?』
ルティが何故かしゅんとして耳を伏せた。
「待て待て、誰もお前を責めてないだろうが! いいじゃないか、悪いことをしたんじゃないんだし。 それにほら!知名度が上がったってことは、仕事も増えるかもしれないぞ!」
『そ・・・そうですね!』
よかった・・・。
どうやら元気になってくれたようだ。
・・・というか、今度ちゃんと鏡を見よう。
村に鏡なんてものを持っているのは女性か村長くらいだからな。
そういや人間になった俺の顔って、まだちゃんと見たこと無いな・・・。
(いまさらって気がするけど、なんだかんだで忘れてたな・・・。 あー、なんか今すぐ見たいような気がしてきた・・・)
とか思っているうちに、店員は食事を置いて厨房に戻っていってしまった。
店内からのささやきはまだ聞こえてくるが、仕方ないだろう・・・。
その後、俺とルティはすばやく食事を平らげ、店を出た。
「美味しかったな」
『そうですねぇ』
ルティはかなり満足そうだった。
しかし、店を出て何歩も歩かないうちに数人の女性に囲まれてしまった。
驚いていると、まくし立てるように話しかけてきた。
「あ、あの! 修理屋のセトさんですよね!?」
「え、えぇ・・・」
答えると、女性陣は「キャ――――!!!」と言って何故か俺に握手を求めてきた。
何か見たことあるぞ、こういう光景。
どこでだったかは忘れたが、なにかの有名人がそんな扱いをよく受けていたような・・・。
とりあえず全員と握手をすると、女性たちはその手を握り締めながらどこかへ走り去ってしまった。
「・・・なんだったんだ・・・」
『嵐のようでしたね・・・』
俺とルティは少しの間呆然としていたが、仕事の時間が迫っていることを確認して、依頼主のところへ大急ぎで走っていった。
+ + + + +
「王、ここがコロラドの町です。ここでいったん朝食を摂りましょう」
ラルク達は、セト達が依頼主の元へ駆けつけているちょうどそのときに、コロラドに着いた。
門で王証を見せると、今朝はセトとルティに朗らかな笑顔を見せていた門番の顔がキリッと引き締まった。
町の中に入ると、噂が届いていたのか、大勢の町民が王の乗っている竜車を迎えた。
初めて竜を見るものが多いのだろう。
リンドブルムを見て、皆一様に感嘆をもらしていた。
「やはり、どこにいっても竜は喜ばれるものだな、ラルク」
「そうですね」
「ワイバーンもおろしてやれ。この町に上空から襲うような敵などいまいよ」
ラルクは言われたとおりに上空の竜騎士に合図を出し、ワイバーンたちも地面に足をついた。
続けて現れたワイバーンを見て、町民はまたも感嘆をもらした。
『よろしいのですか?』
一頭のワイバーンが、ラルクに話しかけた。
「ああ。王の命だ」
ちら、と王の方を見ると、王は満足そうにうなずいた。
王の妹君は竜車の中ですやすや眠っている。
町の中に入って間も無く、この町の町長の使いだという人物が「こちらです」とラルク達を案内した。
一行は、コロラドの町の屋敷へと向かった。




