第14話 ルーネの奇行
朝、ものすっごい轟音で目が覚めた。
ドゴーン!とか、そういうレベルじゃない。
耳に直接響くような大きな大きな音だった。
最初は地震かと思ったが、違うようだ。多少村長宅が揺れたが、地震ではないとすぐに分かった。
『セトさん!』
「セト!」
「セト様!」
ルティとメイドのお姉さんと村長が俺のいる寝室に飛び込んできて、逃げろだの隠れろだのと喚いた。
起きたばかりであまり働いていない頭に、そんなに一度にいろいろ言われてもまったく話が見えなかったが・・・。
「セ~ト~さ~ま~?」
これは間違えるはずが無い。
ルーネさんの声だった。
俺はさっき目覚めたばかりだというのに、一瞬にして頭がクリアになった。
そして瞬時に思った。
(やばい・・・)
ルーネさんはなんでここに来たのだろう?
一週間のペナルティをやぶってあの器具を取ったから?
竜体になったから?
魔法を使ったから?
・・・どれも考えられる。
どれにしたって、この声のトーンは俺が部屋から抜け出そうとしたときよりもはるかにやばい。
村長たちを見ると、2人と1匹はすっかり怯えてしまって、俺が今まで寝ていたまだ暖かい布団の中にもぐってしまっていた。
ドアが開く。
俺は身構えた。
さっきの音は、村長たちの慌てぶりを見れば分かるが、ルーネさんの仕業だろう。
一体何の魔法を使ったらあんな音が出るんだろうか。
いや・・・それよりも、俺はこれからどうなるんだろうという思いが一番強かった。
部屋にルーネさんの顔が覗いた。
そして硬直している俺を見つけると、ニヤッと笑った。
・・・やめてくれ。
今のはホントにゾワッとした。
「見つけましたよ、セト様」
俺は自分の口元がひくっと動くのを感じた。
「お、おはようございます、ルーネさん。き、今日はどうなさったんですか?」
自然と超丁寧語になる。
ルーネさんはじわじわと俺に歩み寄ると、右手で俺の頬を触った。
「知ってましたか?竜と人を見分けるもう1つの方法」
何を急に言い出すんだこの人は…。
俺は、さあと言ってルーネさんの視線から逃れようと目をできるだけ逸らした。しかし、ルーネさんは俺の視線を執拗に追うため、俺の視界からはルーネさんの顔が消えない。
そしてもう片方の手を俺のもう片方の頬に添え、両手で軽く俺の顔を挟むような形になった。
「竜はね、極度に緊張すると瞳の色が自身の魔力の色になるんですって。・・・セト様、貴方の魔力、綺麗な色ですね?」
何色か気になったが、俺はありがとうございますとだけいって、また視線から逃れようとした。
しかしルーネさんの手が徐々に俺の角に向かっていると気付くと、俺はルーネさんから慌てて逃れようとした。
が、そのときにはすでにルーネさんの指が角に触れていて、上手く力が入らなくなっていた。
「ちょっ・・・。は、離してください・・・」
前のように握られてはいないためか、全く身体が動かないわけではないが、それでも今は立っているのがやっとだった。
足がガクガクする。
頼むからはやく離してくれ・・・。
「セト様、私のこと嫌いですか?」
ルーネさんが挑むような目で見てきた。
(ルーネさんは・・・嫌い・・・とはちょっと違う。苦手といった方が正しいと思う)
俺は首を振った。
ルーネさんはちょっと眉を上げたが、すぐにニコッと笑い、
「それはよかった」
と満足そうに言った。
だが、手を離してくれない。
「あの、手、離してください」
なんで俺は連日この人から精神的ダメージを受けているんだ・・・。
そんなことを思いながら、半ばこの人が手を離すのを諦めていた。
しかし今度は案外すんなりと願いを聞いてくれた。
自由になった身体を動かすのも忘れて、俺はポカンと口を開けてルーネさんを見た。
そんな俺をルーネさんはクスクスと笑って、ごめんなさいねと謝った。
「そんなに脅かすつもりは無かったんですけど、村長やセト様の反応があまりにも面白くて、ついやりすぎました。すみません」
笑っているところを見るとこの言葉はどうやら本当のようだ。
・・・ん?
ってことは、この人ドSか!?
「そ、それにしたってやりすぎだろう!?」
ルーネさんが静まったのを見計らって村長がやっと布団から出てきた。
ルティとメイドさんも恐る恐る顔を出している。
「竜の角にあのような器具をつけたり、角をを無断で触るなど、本来ならばありえない行為だぞ!」
村長の言葉を聞いても、ルーネさんは平気な顔をして、それが何か?と言った。これには村長も呆れたようで、片手を顔にかぶせて大きなため息をついた。
(ウル村長をも屈服させるルーネさんって、ホントに何者!?)
「ところで、ルーネさんはどうしてここへ?」
メイドさんだ。
ルーネさんはそうだったと手を打つと村長のところへ行き、俺の角につけてあった器具を返してくれと言った。
「なんでまた?あれはもういらないだろう?それともまだセトに何かする気か?」
ルーネさんを見ると、フフッと笑って、いいえと言った。
「私はただセト様の魔力を調べたかっただけですわ。思ったよりもはるかに強かったみたいで、測定は不能でしたけどね」
ルーネさんはそれだけ言うと村長から器具を奪い取り、じゃ と出て行った。
「嵐のような人ですね、ルーネさんて・・・」
俺がそういうと、ウル村長はまた大きなため息を吐いた。
(この人もなかなか苦労してるんだな・・・)




