第11話 セトの苦難
『セトさーん! セートーさーん!! 朝ですよー!』
ルーネさんに気絶させられた俺は、翌朝ルティの肉球が頬に当たる感触で目が覚めた。
「ルティ・・・おはよう」
頭がずきずき痛む。
思い出して、角のある部分を触ると、やはりあの筒状のものがはめられていた。
取ろうと思って引っ張ってみたが、どういう仕組みなのかぴくりとも動かない。
『何してるんですか?』
朝からなにやら不審な動きをする俺を見て、変に思ったのだろう。
なんでもないと言いながら、俺はベッドから降りた。
変なものはつけられてしまったが、今日から外を自由に歩きまわれるのだ。
気を抜かなければ、大丈夫・・・だと思う。
「さ、外いこうか」
『はいっ!』
昨日とは打って変わって、俺は堂々と外へ出た。
すると、もう何人かの大人たちが畑仕事や馬の世話など、自分の仕事に励んでいた。
出てきた俺を見ると、一人の40代くらいの男が話しかけてきた。
「お、あんた、ルーネさんが看病してたっていう旅人だろ? もういいのかい?」
どうやらルーネさんが言ったことは本当だったようだ。
この男はこの村に来たときに見かけた顔だ。
確かに、記憶を消されている。
「ええ、おかげさまで傷もほとんど治りました」
ルーネさんはなかなか外に出してくれなかったが、それは俺の身体を思ってのことだし、常に気遣って看病してくれたのは確かだ。
そこは感謝している。
・・・昨日のあれを思い出すと、流石にその感謝も薄れる勢いだが・・・。
なんとも複雑な気分だ。
「そりゃあ良かった。 ルーネさんが、あんたがしばらくこの村に留まるって聞いたんだが、本当かい?」
ルーネさん、そんなこと言ったのか。
まあ、これだけお世話になれば俺も何かこの人たちにしてあげたいし、ルティは子供達という遊び相手がいるから、この村から離れる理由がないからな。
「ああ、そのつもりだ」
「なら、村の皆に挨拶してきな。 皆お前さんのことを心配していたんだ」
そうだったのか・・・。
「特に、若い娘っ子たちにはな」
男は意味深な言葉を言って、豪快に笑いながら仕事に戻っていった。
「どういう意味だと思う? ルティ」
『さあ・・・』
ルティに聞いてみたが、やはり分からないようだ。
とりあえず、皆心配してくれていたみたいだし、挨拶をしに行こう。
まず、さっきの男が戻っていった畑に向かった。
そこではさっきの男と、若い男2人と、男の妻と思われる女性の4人が畑を耕していた。
「おはようございます」
声をかけると、さっきの男以外皆仕事を中断して俺を見た。
「ルーネさんに看病してもらっていたセトというものです。 しばらくこの村でお世話になります。 よろしくお願いします」
ペコッと頭を下げると、若い男2人が近づいてきた。
そして、背の高い20代前半くらいの男が、手を差し出してきた。
「あんたが例の旅人か? 俺はレイファってんだ。 よろしくな」
こちらこそといいながら、レイファと握手した。
もう片方のレイファよりは背が低い男も、同様に手を差し出してきた。
「俺はこいつの弟さ。 フェンって呼んでくれ」
フェンとも握手をすませたところに、さっきの男の妻らしき人が歩いてきて、
「あらあら、こういうのを美形っていうのかしら、ねえ、あなた!」
「俺よりハンサムな奴なんているのか?」
男はやはり妻だったらしい女性におどけたように言って、なんちってな!とまた豪快に笑った。
感じのいい人たちだと思った。
ところで、美形とは何の話だ?
「よろしくお願いします」
彼女とも握手をして、その後ルティと一緒に村中を回り、会う人ごとに似たような挨拶をしていった。
子供達は今日は学校に行っている様で、会うことはできなかった。
最後に、村長だという人の家に向かった。
家の前に着くと、ひとつ呼吸をおいてからドアをノックした。
コンコン
すぐに、なかから女性の声が聞こえた。
「はーい、どなたかしら?」
声の主はドアを開けながらそう尋ねてきた。
メイド服だった・・・。
「先週からルーネさんに看病してもらっていた、旅人のセトといいます。村長に挨拶に来たのですが、いらっしゃいますか?」
すると女性はちょっと待ってくださいねと言うと、パタパタと奥へ走っていった。
「ルティは村長に会ったことある?」
『ないと思います』
ずっと外で遊んでいたルティが見たことがないとなると、引きこもり村長か?
そんなことを考えていると、さっきの女性が戻ってきて、
「こちらへどうぞ」
と中に入れてもらった。
「おじゃまします・・・。 あ、ルティもいいですか?」
「ルティ? ・・・ああ、その天虎の名前ですか。 ルティっていうんですね。 わたし勝手に白くんって呼んでました。 ごめんね、ルティくん」
ルティ、白くんなんて呼ばれてたのか。
『やっとルティって言ってくれた。 白なんてそのままの名前で呼ばれるの、すごく嫌だったんだ』
ルティは女性に念話してみているが、届いていない。
「ルティ、ちゃんと名前呼んでもらって喜んでますよ」
伝えると、女性は良かったと言って、こちらですと案内してくれた。
「ここでお待ちください」
そう言われて、通された大き目の部屋にある中央の椅子に座った。
椅子のすわり心地が最高で、うっかりリラックスしてしまい、一瞬だが角が出てしまったことに慌てた。
直後、村長だと思しき人が部屋に入ってきた。
「私が村長のウルテカだ。 皆からはウル村長と呼ばれている。 私に何の用かな、旅人セトさん?」
村長なんていうからもっとおじいちゃんかと思っていたが、まだだいぶ若い。
30代後半といったところだろうか。
「用というほどのことでもないんです。 ただ、しばらくこの村に滞在させてもらおうと思っているので、挨拶に来ました」
村長は、俺を上から下まで舐めるように見るとニヤッと笑った。
「貴方なら、いつまでいてくれてもかまいませんよ、天竜セト殿?」
ドキッとした。
なんで知ってる!?
で、次の音で続けざまにびっくりした。
ガタァアアアン!!
音がしたほうを見ると、先程のメイドがそばにあった机と椅子をひっくり返してしりもちをついている。
「て、天竜ですって!?」
俺は村長に向き直り、言った。
「何のことですか?」
「分かる人には分かるものですよ。 特に魔力を宿している人間にはね。 貴方の魔力の密度は普通の人間ではありえない。 しかも、普通の竜のものよりもはるかにその密度が高い」
・・・ごまかすことはできなさそうだ。
「・・・村の人たちには黙っていてもらえますか? ばれるといろいろ厄介なので」
チラ、とメイドを見ながら言った。
「いいとも。 ただし条件がある」
村長の目が子供っぽく光った。
「・・・なんでしょう」
「今晩1時に、村の外の大木のところへ来てくれ」
秘密を守ってもらうには、それくらい仕方ないかと思い、
「分かりました」
と返事をした。
その後俺は部屋へ戻り、昼食を済ませた。
午後の部はゆっくりすごしたいものだ・・・。




