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竜となったその先に  作者: おかゆ
第一章 出会い
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第1話 目が覚めたら

 心が締め付けられるような重苦しい感情が広がった。

 嫌な夢を見たからだ。

 とは言うものの、たった今その内容は忘れてしまった。


 目を覚ますと、暗闇が支配する岩壁の空間の中だった。


 何故、そんなわけ、と思うが、俺の目の前にはただただ広がる暗闇と、ゴツゴツした床の感触というどうしようもない現実だけが突きつけられた。

 視線を落とすと、真っ黒な鱗に覆われた自分の手。


 「なんで…」と言ったはずの自分の口からは


「グァルルル」


 という肉食獣のような低い唸り声。


 そして気づく。

 俺は何故こんな光の届かない暗闇で真っ黒な鱗を認識できたのか…。


 わけが分からなかったが、とりあえず光を求めて辺りを見回すと、真後ろに出口らしき光を見つけた。

 光の外に出ると、目の前は断崖絶壁。

 眼下には視界いっぱいに広がる草原。少し遠くに視線を向けると木々が生い茂る森が見えた。


(ここはいったい…?)


 夢かと思って頬をつねろうにも、この身体は腕が頭に届かないらしい。

 首をひねって後ろを見ると、長い尻尾と・・・大きな翼があった。


 俺はしばらく、その崖の上で途方にくれていた。

 が、このままではどうにもならない。

 せっかく翼があるんだし、飛んでみよう。


 ”飛ぶ”と言う感覚がどういうものか…。

 その前に、翼を動かすと言う感覚がどういうものかがよく分からなかったが、いざ飛ぼうとしてみると、翼にあるらしい神経が脳へ飛べという指令を出して、案外簡単に翼を動かすことができた。


 翼を動かすことができるとわかると、俺はいよいよ覚悟を決めて、崖から飛び降りた。

 空中に飛び出すと、襲いかかる浮遊感に体が一瞬すくんだが、翼を広げて風の上に乗るイメージで上手く飛ぶことができた。


 最初こそ地に足がついているという確かな感覚がなくなって怖かったが、すぐに慣れた。


「グルルルルル」


 気分が良くて、ついそんな鳴き声がでてしまった。


 一通り空を満喫すると、喉の渇きを覚えた。

 水場はないかと、草原と隣接していた森の上を飛んで探した。


 5分ほど飛んだだろうか。

 泉を発見した俺は、その畔に降り立ち、頭をつっこんで水を飲んだ。

 身体の隅々にまでつめたい水がいきわたったようで、とてもスッキリした。


 そこで俺はふと、水に映った自分の姿を見た。


 そこには、漆黒の鱗をもった雄雄しい1頭の竜と呼べる存在がいた。


 崖の上で散々確認して分かってはいたことだが、こうして改めて客観的に自分の今の姿を見ると、どうしても困惑してしまった。

 俺は、確か人間だったはずだ。

 どうにも目が覚める前までの記憶は曖昧だが、それだけは確かだ。


 それが、朝目覚めたら別の生き物に、しかも普通だったら見ることもないだろう別世界の生き物になっていたら、誰だってあせるはずだ。


 もちろん、人間だったときの俺だったら竜になれるなんて夢みたいだとか思ったかもしれない。

 だが、実際はどうだ。


 知っている人が誰もいない。

 今のところ俺以外の生き物にもまだ会っていない。

 そもそもここはどこだろうか・・・。

 俺はいったいこれからどうしたらいいんだ・・・。

 もしかしたら、俺が人間だったっていうこの記憶は、嘘なんじゃないか?


 分からない事だらけで、不安でいっぱいで、頭がおかしくなりそうだ。

 知らぬ間に涙を流していた。


(竜でも涙を流すことができるんだな)


 泉に映る黒竜が、恐ろしげなその顔から涙を流しているのを見て、それがなんだか情けなくて面白くて、「グルルルル」と喉が鳴った。


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