日常的な非常識
「む、第一次警戒線を突破された、反応はレッドか。今のところ時空の歪みや魔の波動をは観測されないが、昼間から活動するなんて中須川は僕の縄張りだと知っての行為だとすれば再教育してやる必要があるな」
「ねえ耕介、お昼ぐらい平和に食べられないの?」
今鶴羽は心底呆れた声で応える。
クロイツは血縁上の家族を持たない。よってクロイツの弁当がクロイツのお手製のものかというと実はそうではない。
クロイツは無駄なことが嫌いだ、クロイツの体は代替細胞で構成されているため余分なエネルギー摂取を必要としない。一杯の水と五百グラムの固形エネルギー物質で一か月は活動が可能だ。
そのため弁当などという物は必要なかったので持ってきていなかったのだが、無知蒙昧な一般人からすれば非常識なことこの上ない。
それを見るに見かねた今鶴羽がクロイツの弁当を作ってきているというわけだ。俗にいう余計なお世話という奴であるが、食べないと殺されかねないのでクロイツも大人しく食べることにしている。
「平和は微妙なバランスの上に成り立っている。そのバランスを調整する立場からすれば平和だろうとなかろうと、常時気を張っていなければいけないんだ」
「バランスをとるのも良いけど今日は放課後花壇の整備があるんだからね」
「いや今日は」
今鶴羽の特殊能力『絶対零度の睥睨』(クロイツ命名)が発動した。
「いや命に代えても参加する」
クロイツは今鶴羽によって強引に助っ人部の副部長にさせられていた。助っ人部、それは一日一善をモットーとする今鶴羽によって設立された部活で、活動内容は生徒の悩みや学校の問題を解決し、何かあれば即座に人材を派遣するという、人助けのためだけにある部活動である。その活動振りは生徒会の切り札と呼ばれるほどのもので、知名度はかなり高い。
クロイツは生徒会や副委員長の任にも強引に就かされている。これは今鶴羽のクロイツを少しでも学校生活に溶け込ませようとした結果だが、大量にある仕事を押し付けるためとは今鶴羽本人の弁である。
「しかし都は料理が上手いよな」
「っな、急に話を逸らさないでよ」
クロイツがなんだかんだいいつつも今鶴羽都の弁当を食べているのは純粋においしいからというのも実はある。
固形エネルギー物質は味気ないことこの上ない。
「別に逸らしてないって、普通に美味し過ぎて口から出ちゃっただけだ。いつも弁当ありがとな」
「耕介が弁当持ってこないからこっちは迷惑してるんだからね」
今鶴羽は露骨にクロイツから視線を逸らす。
「ん、迷惑かけてごめん。でも、ありがとう」
そして耐え切れなくなった今鶴羽はクロイツに華麗な左アッパーを決めるのだった。
こうして中須川の平和な午後が過ぎていく。