親がマッチングアプリをインストールして、わたしのアカウントを作るらしい
趣味は…特に思い付かないのでカフェ巡りとでも答えておこう。わたしの本当はの趣味はメイク動画、ルックブック、購入品紹介の動画を見ることだが、動画鑑賞と書けるほど立派な趣味とは思えない。そもそも動画鑑賞が趣味の人って一体どんな動画を観ているんだろうか。
母も「カフェ巡りとか、とにかくかわいい趣味がいいよ」と言う。「本当はお料理がいいと思うけど、嘘がバレて信頼を失ったら大変よ。」本人のスマホにマッチングアプリをインストールしてないことは、信頼を失うことに繋がらないんだろうか。あぁ、もうとにかく全てが面倒だ。
28歳、工場勤務、田舎暮らしで、もう夢を見られない大人なのでマッチングアプリを始める気は毛頭なかったが、親の勧めで渋々始めた。始めたというか、親がマッチングアプリをインストールして、わたしは質問に答えているだけ。
これでは実質お見合いみたいなものではないか?実家暮らしだからって、ここまで親の言うことを聞かなければならないのかは疑問だが、質問に答えるだけで母が納得できるならその方が早い。
それに母は、デートに行くことになったら期間限定のケーキを買ってくれるらしい。SNSで少しだけ話題になっている地元の小さなケーキ屋のいちごのケーキ。
「えっ、わたしがブックマークしていたことを知ってたの?」
「あっはっは、人のスマホを覗いたみたいに言わないでよ。ブックマークしてたことなんて知らないわ。こんな田舎で有名なケーキ屋なんてひとつしかないし、お母さんもお店のアカウントをフォローしてるから同じ投稿を見てるのよ。あの投稿はお母さんもブックマークしてる」
しかし、こんな地味でぱっとしない私の見た目ではどうせなかなかマッチングしないだろう。期間限定のケーキは自分で買いに行かないと期間が終わってしまいそうだ。
ケーキといえば、「昔は女はクリスマスケーキ、25歳をすぎたら売れ残り」と言われていたらしい。期限切れのケーキが期間限定のケーキを求めてるってこと?
ケーキのためか未来の彼氏のためか、薄いリップをつけてワンピースを着たわたしは、「もっとにこやかに、顎に手をもってきて」などと母の指示通りにポーズをとった。母の指示はむし歯ポーズ。指ハートなんかと比較できないくらい古くさい。華やかな人ならほっぺハートの方が盛れそうだけど、30手前の地味な女にはハートは似合わないか。
なんでもいい。この時間さえ終わればわたしは解放される。今バズっている新作のハイライトを1秒でも早く買いに行きたい。
「オッケー!後はお母さんに任せて!マッチングしたらあなたのスマホに引き継ぎするから~」
母は何にでも前向きで明るくて、人とすぐ仲良くなる。若い頃はどんな恋愛をしていたんだろう。わたしと違って愛嬌があるから、男には困らなかっただろうな。
わたしは写真もろくに確認せず、さっさとバレエシューズ風のスニーカーをはいた。




