1章06 一方その頃
***
その頃「魔法師の森」の入り口付近では、ケイを見送った神殿兵2人が、見張り台で夜を迎えようとしていた。
「生存報告の煙、上がらないな…」
「だから言ったんだ、どうせ異世界人もすぐに死ぬって。今回の調査もダメだったってことだろ」
「でも、特異体質を持つ異世界人に拳銃まで持たせたんだぞ? そうだ、今回は銃がある! だからせめて、1日目くらいは生きていても…」
「今日、一度でも銃声を聞いたか? 聞いてないだろ。つまり、異世界人は銃を使ってない。銃を使う前に殺られちまったんだ」
「…そんな…」
「なんだよ。お前、この数日で異世界人に惚れでもしたか?」
「ん、んな訳あるか! ただ、兵士長の言葉がずっと引っかかってるんだ。この調査は、神殿が勢いを取り戻すために重要だって…」
「ああ。最近の神殿は、少し力を失ってきてるからな。150年前の事件も原因の1つではあるけど、数年前に外国から伝わってきた『医学』が特に厄介なんだ」
「医学…」
「今まで、体と心の傷を癒すのは神力の仕事だった。でも『医学』がやって来てから、その立場は徐々に揺らいでる。
だからここで西神殿を取り返して、神殿の権威を復活させようって算段だったんだ」
ヒュウと肌寒い風が吹いて、簡素な見張り台を荒涼とさせていく。眼下に広がる街は貧民街で、灯り1つ見当たらない。
医学を語っていた神殿兵は、手元に置いてあった銃を肩にかけ、煙草を口にしながら立ち上がった。
「150年前、大神官様が大魔法師に殺されてから、力の差はハッキリした。どうやら神力は、魔力に敗けてしまうらしい。だから俺達は銃を発展させてきたんだ。
…でも結局、銃がどれくらい魔法師に効くのかは分からずじまいだったな。さ、早く宿へ戻って、兵士長に異世界人は死んだって報告しようぜ」
そう言って見張り台の梯子に片足をかけようとすると、
「僕は、空が暗くなるまで見張っておくよ。もしかしたら煙が上がるかも知れないし」
「ええ…お前、もしかして本当に異世界人に惚れたの?」
「ち、違う! もういいだろ、お前は戻ってろ!」
叫んだもう1人の神殿兵の声が、暗い森の中へと静かに響いていく。まるで呼応するかのように、木々の中からカラスが数羽飛び立っていった。
次回 1章07「部屋から脱出」




