1章05 言い合い
アールに案内された空間は、非常に質素だった。
簡易的なベッドと小さなテーブル。ところどころに黒い上着やローブが掛けられており、木製の水桶だけが少し光を帯びている。
扉が閉まりきるや否や、
「それで、お前はどうやってここに入って来たんだ?」
とアールが真剣な眼差しで問い詰める。
「森のことですか? 森の入口までは、兵隊さん達が送ってくれたんです」
「森…?」
「ええ。魔法師の森。あなた達が150年前に…その、神殿から奪った場所です」
アールはぽかんとした表情でケイを眺めた。
「何の話だ? 俺が知りたいのは、どうやってこの場所――この地下空間に入って来られたのか、ということだ」
「ああ…。ここの入口は、賊みたいな人達から逃げていた時に、たまたま見つけたんです。隠れられる場所が他になかったので…」
「違う、その後だ! あの階段をどうやって降りたのかと聞いている!」
「えっ。転がり落ちてきました」
「そ…それだけか?」
「はい」
「……そんな、あり得ない…」
「あの。あそこって、何かあるんですか?」
アールは右手で頭を抱えたまま、長い前髪を垂らして俯いた。
「…あの階段を降りようとした人間は皆、死ぬようにできている」
「死ッ…?」
「あそこには大魔力の結界が張ってある。魔法師なら耐えられるが、人間には無理なんだ。なのに――」
アールはガバッと顔を上げた。
「なのにお前は、あの結界を生きたまま突破して、俺の前に現れた。一体お前は何者だ?
まさか…魔力が効かない体質の持ち主だとでも言うのか?」
――その言葉を聞いた瞬間、ケイは、国王の見立てが的中したことを悟った。
「そんな…私、神力だけでなく、魔力も効かない体質で…? 最悪だ」
思わず両手で顔を覆う。
魔力が効かないということはつまり、魔法を使っても元の世界には帰られないということ。
神力も、魔力もダメ。なら、一体あと何が残っているというのだろう。
その時、震える声でアールが、
「俺は……。俺は、お前のその体質が…死ぬほど羨ましい」
と吐き捨てた。ケイは思わずイラッとして
「羨ましい? この体質が? 私はこの体質のせいで、今も、今までも散々苦労してるんです! 何も知らないのに、簡単にそんなことを――」
「黙れ! お前は自由に地下を出入りできるんだろ!? 俺は一生この地下に閉じ込められたままなんだ。お前が当たり前に知っている空も、太陽も、海も、俺は見たことがない…」
声を荒げる彼の目は、ますます哀愁を帯びて揺れている。
「え…それって、どういう…」
尋ねるケイを置いたまま、アールは重い石扉をこじ開けて、部屋を出て行ってしまった。
次回 1章06「一方その頃」




